EP10-3. 決着
(7)
レッドバルーン号の面々は隕石群でジラフ号を見失ってしまったが、その後も彼らを追い続けている。
「どうだ、ノーズ、虫女どもを見つけたか。」
イワノフは見失ったことにイラついている。
「まだ見つけられておりません。まもなく廃船星へ到着します。」
母艦AIであるノーズはレッドバルーン号を操り、廃船星へ向かっている。
「虫女ども、隕石群に逃げ込みやがって見逃してしまった。」
なおも見失ったことを気にしている。
「でも、廃船星へ逃げ込むだろうというイワノフ様の考え、さすがですわ。必ずや、そこにいますでしょう。」
見かねたソフィアはイワノフをおだてる。
「そんなに褒めるなよ。」
イワノフは気分が良くなったのか、顔に笑みがこぼれる。
「廃船星へ到着しました。ミスターイワノフ、どうしますか。」
ノーズが廃船星についたことを報告する。
「星の周りをまわって、くまなくスキャンしろ。虫女どもは必ずここにいる。」
イワノフは虫女どもがこの星に潜んでいると思い、ノーズにスキャンの指示を出す。
「わかりました。スキャンを始めます。」
「ノーズ、しっかりおやり、イワノフ様の予想にミスはないわ。」
ソフィアはイワノフの見立てが外れないようにノーズへ注意する。
「ミス ソフィア、スキャン中ですので話しかけないでください。」
ノーズは冷静にソフィアへ言い返す。
「なによ!ノーズのくせに。」
「やめろ、言い争いをするんじゃない。」
「申し訳ありません。イワノフ様。」
イワノフは彼女らを諫めて、呆れてしまう。
「ミスターイワノフ、何かスキャンに引っ掛かりました。」
ノーズがスキャンで何かを見つけたようだ。
「何だ。虫女どもの船が。」
イワノフがしめたと思ったかのように言う。
「いえ、小型機のようです。どうもその形は宇宙生物ような形です。」
ジラフ号でないことにイワノフは違和感を感じる。
「見慣れない宇宙船だな。さては二手に分かれて、虫女だけ逃がす気か。」
「そうはさせない。イワノフ様。」
ソフィアもイワノフに疑いもなく同意する。
「ああ、ソフィア、ともに出撃するぞ。ノーズ、俺たちは戦闘機で出る。レッドバルーン号は任したぞ。」
「ミスターイワノフ、お任せ下さい。」
イワノフはノーズに母艦を任せ、ソフィアとともに戦闘機でそれぞれ出撃する。目指すは虫女が乗っているであろう、小型の宇宙船である。
(8)
シルツー号に乗っているタダヒロとシルエは廃船星の地上スレスレに上空から見つかりにくいように飛んでいる。しかし……。
「オーギンさん、奴らが現われました。」
亜空間通信でシルツー号からオーギンさんがいる隠れたジラフ号へ連絡する。
「良し、囮に食いついたな。」
わざと見つかりにくいように飛んでいたのが功を奏したのか、彼らは警戒もせずに我先にとこちらへ向かってきた。
「囮作戦がうまくいきましたね」
「あぁ、うまくいって良かった。やつらを引きつけておいてくれ。サンセット号、発艦してくれ。」
オーギンさんがサンセット号に乗っているアンナさんに指示を出す。ジラフ号は廃船星のスクラップの山にその船体を隠しているのだ。木を隠すには森の中、宇宙船を隠すにはスクラップの山の中なのだ。
「シルツー号、サンセット号まで誘導して引きつけます。」
僕らはジラフ号の方へ向き直って飛ぶ。
「サンセット号発艦いたしますわ。シルツー号に食いついた相手をやりますわ。」
サンセット号はスクラップの山に隠れたジラフ号から発進する。イワノフ達の後ろに現われて奇襲する作戦だ。
「みんな、無事にな。」
オーギンさんが僕らを案じてくれている。無事に帰るぞ。
「相手は戦闘機2機か。」
タダヒロの後に2機の戦闘機が追いかけてくる。イワノフ機とソフィア機だ。イワノフ達は全力でタダヒロのシルツー号の後ろにつこうとしている。
「タダヒロ、ダイジョウブ?」
「大丈夫、このシルツー号と君なら!」
僕たちはやれる。行くぞ!
「ソフィア、やつの後ろについて、ビームを当てろ。ビームの出力は落としておけよ。」
イワノフはソフィアへ虫女の戦闘機の後ろについて出力を抑えたビームでシルツー号を航行不能にさせようと指示をする。
「わかりました。イワノフ様。やっつけてやる。」
ソフィアはイワノフと並んでシルツー号を後から追い詰めようとする。しかし……。
「何だ、あの機動は!虫女の宇宙船はとんでもなく素早いぞ。とても追いつけない。」
シルツー号の縦横無尽に疾走する機動にイワノフ達は追いつけない。
「こうなったら、ソフィア、挟み撃ちだ。お前が横から叩け。虫女どもの別の戦闘機がもう一機、こちらへ向かっている。その前に片をつけるぞ。」
「イワノフ様、わかりました。このソフィアにお任せください。」
イワノフはサンセット号が遠くに見えたので、作戦を変えて、ソフィアと二手に分かれる。ソフィアはイワノフと分かれ、シルツー号を横から叩こうとしている。
「カレラ、ワカレタ。」
イワノフたちが二手に分かれるのを見たシルエはタダヒロに忠告する。
「挟み撃ちにする気だ。」
タダヒロはイワノフ達の意図を見破る。
「横から取った!」
ソフィアがシルツー号の横を取る。
「タダヒロ、ヨコ!」
シルエがタダヒロに叫ぶ。
「まだだ、まだ引きつける。」
タダヒロはまだ避けない。ソフィア機を引きつけて、タダヒロは回避行動のために急降下する。その刹那、ソフィアはビームを撃つ。だが、シルツー号にはあたらず、後ろをつけていたイワノフにビームが当たってしまう。
「うぉ、まさか!」
イワノフは驚き、衝撃で気を失ってしまう。
「イワノフ様、あぁそんな……。」
ソフィアはイワノフ機を慌てて、戦闘機についているアームで掴み、母艦へと戻っていく。
「やったぞ。」
「スゴイ、タダヒロ!」
イワノフ達をしりぞけた2人は喜び合う。
「よくも!ノーズ、あの虫女の宇宙船にレッドバルーン号のビーム砲をおみまいしな。」
ソフィアはイワノフがやられて、怒り狂っている。レッドバルーン号のビーム砲で撃ち落とそうとする。レッドバルーン号のビーム砲は強力だ。
「ミス ソフィア、わかりました。虫女の宇宙船に向けてビーム砲を開始します。」
ノーズはレッドバルーン号のビーム砲を向けて撃ち始める。
「しまった!」
油断していた二人はレッドバルーン号のビームに当たってしまう。シルツー号の船体に穴が空く。その瞬間、シルツー号はシルエをコクピットから吐き出してしまう。衝撃で飛んだわけではない。本当に宇宙生物のように口から吐き出すようにして、シルツー号はシルエを宇宙空間に吐き出したのだ。
「アァァ!」
シルエは宇宙空間へ放り出される。
「間に合わなかったですわ。」
サンセット号はもう少しのところで間に合わなかったのだ。
宇宙空間に放り出されたシルエを僕はコクピットから見ていた。僕はなぜか吐き出されなかったのだ。見上げると、目を閉じたシルエが宇宙空間を漂っている。助けないと。その時、コクピットから見えたんだ、光り輝きだすシルエの体が……。