EP[1]-10.1. ペンダント・メッセージ part-A
大男たちがジラフハウスから去った。部屋の窓は割れ、物が散乱しているが、危機をなんとかやり過ごすことができた。僕は胸を撫でおろしながら、宇宙生命体管理局から来たという女性を目の前にしていた。女性は橙色のウルフカットの髪型に口のところまで伸びた襟の長いコートを羽織っていて、服は軍人のありさまだった。
「宇宙生命体管理局の方がどうしてここに?」
「オーギンさんという方から本部に連絡がありました。新種の可能性がある宇宙人を発見したと。本部はその宇宙人の護衛を向かわせるため、ちょうどこの星の近辺に来ていた私を選び、派遣したということですわ」
「そうだったんですね。危ないところを助けていただき、ありがとうございます」
「いえ、こちらも私一人で余裕がなかったので、あのような奇襲をせざるを得ませんでしたわ。ご容赦願いますわ」
「ということは、あの『突入しなさい』と叫んだのはハッタリだったのですか」
「その通りですわ、上手くいってよかった」
あの時は絶対絶命の危機だった。アンナさんが来てくれなければ、シルエを奪われていたに違いなかった。もし、アンナさんがいなかったらと考えると、背筋がぞくっとした。
窓からドローンが一機、飛んできた。チロルだ。
「おう、チロル。お前は無事だったのか」
「船長、そんなことはなかったですぜ。大きな帽子の女が現れたと思った瞬間、鞭を振り降ろされて、しまいには電気でびりびりってんで、システムがダウンしちまったんですから。私のことは誰も気にかけてくれないし、さんざんでしたよ!」
「そうか、おまえもやられたんだな。まぁ、よくやってくれたよ。今度、ジャズライブにでも連れて行ってやるから、機嫌を直してくれ」
「本当ですか!さすが船長だぜ!」
さすが、オーギンさんだ。チロルの扱いを良く知っている。僕は緊張が和らいだのか、苦笑した。
「ミンナ、無事デ ヨカッタ」
「だね」
隣で僕の手を握っているシルエと目が合った。僕は身体に疲労を感じながらも、彼女に笑顔を向けた。本当に皆、無事で良かった。
「その子が新種の可能性がある宇宙人の方でしょうか」
アンナさんがシルエの方に振り向いた。
「そうです。名前はシルエと言います。聞いてはいると思いますが、名前以外は記憶喪失みたいなんです」
「聞いておりますわ。局はシルエさん保護のため、全力を尽くすとお約束いたしますわ」
「ありがとうございます、心強いです。シルエのこと、宜しくお願いします」
軍人のような凛とした彼女がシルエを守ってくれる。それは何よりもありがたかった。僕は心の底で安堵して肩の力が和らいだような気がした。
「ア、明ルク ナッテキタ」
窓の外を見ると、朝焼けの空が顔を出し始めていた。もう朝なんだ。
「朝になってしまったか。少し寝てから、これからのことを話そう。アンナさん、悪いが時間をくれないか」
「わかりましたわ。お休みになさってください。私は外を見張っておりますわ」
僕も緊張がとれてきたせいか、疲労困憊で眠りたい。シルエもあんなことがあったんだし、休ませてあげたい。
「そいつはありがてぇ。今度、一杯おごらせてくれ」
「あら、ありがとうございますわ、その時は楽しみましょう」
オーギンさんは盃を上げるようなしぐさをした。僕も同じ気持ちだった。アンナさんは軍人に似つかわしくない柔らかい表情をして、場が和んだ。
しかし、先ほどからずっと気になっていることがあった。
「あの……腕にガラスが刺さってますけど、大丈夫なんですか」
そう、いくつものガラスが腕に突き刺さっている状態でアンナさんは平気そうな顔をしていた。
「ええ、大丈夫ですわ。私の一部は義肢なので、ほら、この通り、問題ありませんわ。見張っておりますので、安心してお休みくださいな」
アンナさんが腕をまくり上げると、銀色の肌が見えた。それは肌というにはあまりにも不自然な光沢がある金属だった。身体の一部を機械化したサイボーグの腕だったのだ。
* * *
「みんな、起きて!ジラフ号の補給が終わったと連絡があったぜ!」
「もうそんな時間か。チロル、起こしてくれてありがとうよ。休みはもう終わりだ。早いうちにジラフ号に乗り込むとしよう。アンナさん、あんたはどうするんだ」
オーギンさんは背伸びをしながら、ケトルからコーヒーを淹れ始めた。
「私には小型の宇宙船 サンセット号がありますわ。そちらに乗ってから、ジラフ号と合流するようにいたします」
アンナさんは宇宙船を持っているらしい。さらに心強く感じた。彼女の存在があれば、また彼らが襲ってきても、今度こそなんとかなるはずだ。
「わかった。周回軌道上で落ち合おう。タダヒロ、シルエ、ジラフ号に乗り込むぞ」
「わかりました。シルエ、行くから、起きて」
シルエは垂れ下がった長い耳を揺らしながら目をこすっている。僕は彼女の肩を掴んで起こそうとした。
「ハァイ。タダヒロノ ムネニ ヒカッテル、ソレ キレイ」
シルエが目を細めながら、朝日に照らされた僕の琥珀色のペンダントを手に取ろうとする。
手に取った瞬間、ペンダントから光が放射された。




