EP10-1. 決着
(1)
大男たちがジラフハウスから逃げ去った後、窓を突き破ったアンナは残っていた。
「宇宙生命体管理局の人がどうしてここに?」
僕はアンナという人がなぜここにいるか尋ねる。
「オーギンさんという方から連絡を受け取った本部から新種の可能性がある宇宙人の護衛に私を遣わせました。ちょうど私がこの星の近辺に来ていたため、選ばれたのが私ということですわ。」
アンナさんは自分がここへ来た理由を話す。
「そうだったんですね。危ないところを助けていただき、ありがとうございます。」
僕はアンナさんにお礼を言う。
「いえ、こちらも余裕がなく、私一人だったため、あのような奇襲をさぜるを得ませんでしたわ。ご容赦願いますわ。」
「ということはあの”突入しなさい”と叫んだのはハッタリだったのですか。」
「その通りですわ。」
僕はアンナさんという人も襲ってきた大男が場慣れしたのと同じように戦闘のプロだと思った。
「そういうことだったのか。とにかく助かった。ありがとう。」
オーギンさんは後ろに回された腕を抱えながら、アンナさんにお礼を言う。
僕たちはアンナさんがいなければ、シルエを大男たちに奪われるところだった。
「もう本当ですぜ。私のドローンは真っ先に壊されちゃいますし、予備のこのドローンがなければ、困るところでしたよ!」
誰も気にしてくれないチロルは不満を言う。
「おう、チロル。すまんな。ドローンをやられちまって。」
オーギンさんはチロルを労う。
「そうですよ、ドローンの数は正規で補充できないんですから、もっと大切にお願いしますぜ。」
「すまん。すまん。ありがとな。今度、ジャズライブに連れていってやるからな。」
「な!本当ですか!さすが船長だぜ!」
さすが、オーギンさんだ。チロルの扱いを良く知っている。
「現金なやつだな、チロルは。」
僕はチロルに向けて苦笑しながら言う。
「ミンナ、無事デ ヨカッタ。」
シルエが皆を気にかける。
「だね。」
本当に皆、無事で良かった。1機のドローンは例外だが……。
「その子が新種の宇宙人の方でしょうか。」
アンナさんがしゃべったシルエの方を向く。
「そうです。名をシルエと言います。聞いてはいると思いますが、名前以外は記憶喪失みたいなんです。」
僕は簡単にアンナさんへシルエを紹介する。
「聞いておりますわ。局はシルエさん保護のため、全力を尽くすとお約束いたしますわ。」
「ありがとうございます。」
アンナさんがいてくれるなら、心強い。
「ア、明ルク ナッテキタ。」
シルエが外を向いて、明るくなってきた空を知らせる。もう朝か。
「朝になってしまったか。少し寝てから、これからのことを話そう。アンナさん、悪いが時間をくれないか。」
「わかりましたわ。お休みになさって下さい。私は外を見張っておりますわ。」
僕も眠りたい。シルエもあんなことがあったんだ。休ませてあげたい。
「そいつはありがてぇ。今度、一杯おごらせてくれ。」
オーギンさんはアンナさんにさらにお礼を言う。僕も同じ気持ちだ。
「あら、ありがとうございますわ。」
柔らかい表情でアンナさんは答える。そんなやりとりで緊張がやわらぐ。
「あの……腕にガラスが刺さってますけど、大丈夫ですか。」
そう、先ほどからガラスの破片がアンナさんの片腕に刺さっているのだ。
「ええ、大丈夫ですわ。右腕、右足は義肢でそれに右目は義眼なので、問題ありませんわ。見張っておりますので、どうそお休み下さい。」
サイボーグだったのか。アンナさんは橙色のウルフカットの髪型に唇のところまで伸びた襟の長いコートを羽織っていて、姿がわかりずらくわからなかった。
(2)
僕たちは寝ていたが、チロルの声で目が覚める。
「船長、ジラフ号の補給が終わったと連絡がありました。」
「おう、チロル。ありがとうよ。休みはこれくらいにして、まずはジラフ号に乗り込むとしよう。アンナさん、あんたはどうするんだ。」
どうやら船の補給が終わったようだ。まずはジラフ号で宇宙に出るらしい。アンナさんはどうするのか。ついてきてくれるのだろうか。
「私には小型の宇宙船がありますわ。そちらに乗ってから、ジラフ号と合流するようにいたしますわ。」
アンナさんは宇宙船を持っているのか。さらに心強く感じる。
「わかった。後で落ち合おう。タダヒロ、シルエ、ジラフ号に乗り込むぞ。」
「わかりました。シルエ、行くよ。起きて。」
まだ眠たそうにしているシルエに話しかける。
「ウン。マダ ネムイ。」
シルエは垂れさがった長い耳を揺らしながら目をこすっている。
「ほら、しっかり起きて。」
「ハァイ。」
シルエはまだ当分眠そうだ。僕たちはジラフハウスを出て、ジラフ号に乗った。
そして、また宇宙へと飛び立つ。
(3)
宇宙へ上がったジラフ号にアンナさんの小型宇宙船であるサンセット号が合流した。サンセット号は、ジラフ号の外殻にあるメインデッキに着艦している。サンセット号を降りたアンナさんはブリッジまで上がる。
「メインデッキに私の小型機サンセット号を着艦させていただきましたわ。」
「おう。無事に合流できてよかったぜ。」
アンナさんが到着したことをオーギンさんに報告する。
「オーギンさん、これからどうしますか。」
宇宙へは出た。これからどこへ行くのか。
「局の本部に向かうためにワープゲートを通らにゃいかん。襲ってきた奴らが諦めたらいいんだが、そんな都合よくなるとは思えねぇ。」
オーギンさんは苦々しく言う。
「ということは宇宙のどこかで襲ってくる可能性もあるということですか。」
またあいつらが来る可能性があるのか。
「充分、可能性はありますわ。私たち局が調べたところによると、彼らはツンドラのサーカスの一味のようですわ。」
アンナさんがやつらの正体を教えてくえた。ツンドラのサーカスというのか。
「そいつらがシルエを捕まえようとしているということですか。」
「そういうことになりますわ。彼らは新種の宇宙人を裏で売買していると言われていますわ。」
「そんなやつらがいるとは許せません。」
シルエをそんなやつらに捕まえさせるわけにはいかない。
「彼らの船、レッドバルーン号は軍の横流し品と聞いております。」
軍の横流しか……。
「正面切って戦うと分が悪いということですか。困りましたね。」
僕でも状況が良くないことはわかる。民間船のジラフ号では不利だ。
「とりあえずイチかバチかでワープゲートに向かってみるか。」
恒星間ワープゲート。それは違う恒星系へ向かうための宇宙上に浮遊している人工の輪状の門。
「万が一のときは私が小型機で応戦しますわ。」
「すまねぇ、助かる。できれば、会わないのが一番だな。」
やつらに会わなければ、なんとかシルエを安全な場所に連れていける。