メカナイズド・ハート 27話
また遅れてしまった。。。
巨大な空間にルーカスが入った時、彼の眼前には巨大なガントリークレーンで数百トンの鉄と複合材、推進剤と原子炉が組み込まれた化け物がぶら下げられていた。
近づいてくる。
一分間に数十センチメートル程度のゆっくりとした速度ではあるが、確実にあの化け物が近づいてくる。空間に響き渡る爆音、壁面を通して伝わってくる振動が迫力満載だ。振動と機械の駆動音は化け物が近づくとともに、ルーカスの耳への負担が大きくなっていく。
耳栓を付けるタイミングだろう。
ルーカスは素早く上に羽織っているジャケットの右ポケットから、透明なプラスチックのケースを取り出す。中に入っているのは市販されているオレンジ色の耳栓だ。
両耳に入れると、一気に目の前で繰り広げられる光景から迫力と威圧感を取り除く。残されたのはテレビで見るような調理された迫力だけだ。
不意に隣にいたエミーに肩を叩かれる。見れば彼女も耳栓を入れ、ルーカスの機体の奥に向けて指をさして、怒鳴りながら何かを伝えようとしている。その大声も、爆音と耳栓によって遮断されているため、ルーカスは指をさした方向と、エミーの口元の筋肉の動きから何を言いたいのか想像して大声で答える。
どうやら彼女はルーカス機の後ろからガントリークレーンで吊り下げられて近づいてくる自分の機体をさしているようだ。
ルーカスはその指先を目で追い、エミー機を視線の中に捉える。
よく見るとエミー機には、コップ1杯の水を床に叩きつけた時にできる、綺麗な円形の模様が各部についていることがわかる。
小さなデブリ片との衝突で発生するような白い円形の衝突痕ではない。平均的なデブリ衝突痕よりも大きい、直径30cmの大きさの薄暗い色の円形の痕だ。
より大きな物が正面からぶつかった証拠だろう。しかし、あれがただの運動弾であれば隣にいるエミーはいないだろう。
とすれば成形炸薬弾かレーザーだろうか?すり鉢状に凹み、跡の周辺の金属がボコボコと膨れ上がっていればレーザーだ。
だが、違う。
あれはレーザー攻撃でなく成形炸薬弾だろう。それは幸運だ。どのようなポッドも20m近い金属巨人である以上、例え装甲を貫通したとしても機体に不可欠な機能にピンポイントで攻撃を与えない限りは、ポッドはさほどダメージを受けずに済む。
しかし、敵の目の悪さに期待するほどルーカスは間抜けではない。彼は考えを巡らせる。
今後エミーは中隊長として戦うことになるだろう。被弾する確率は下がるだろうか?
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「諸君!!」
やや青白く薄暗い大部屋には36人の年齢性別体格の異なる者たちが並べられている。
「俺の名前はセルゲイ・ミハイロビッチ・スヴォレヴェツキー。お前たちの大隊長として指揮を取ることになる。」
セルゲイ・ミハイロビッチ・スヴォレヴェツキー、あるいはライアンが、いつも通りの顔で台の上に現れ、新しい偽名を名乗りだす。彼にとって名前は消耗品なのだろう、物事がバカバカしい時に見せる苦笑を今回も彼は見せている。
普段のやる気のなさげな恰好とは違い、今回ばかりは少しマシな恰好をしている。ルーカスは台の斜め前に立ち、自分の部下になる士官たちに背中を見せた状態となっている。
しかし、背を向けていても、彼らの挑発的な視線、疑念を抱くような視線を感じることができる。当然だろう、彼らは傭兵としていくつもの戦場で生き延びてきたものたち、名前も知らない若造相手にやる気が出るわけがない。
そんな彼らを何らかの手段で持って納得させ、自分の完全な指揮下に入れて一つの部隊として運用できるよう整える必要があるわけだ。まあ、何とかなるだろう。ポッドパイロットとしてキルを重ねてきたルーカスは、その自信から楽天地気にとらえていた。
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ライアンあらためセルゲイの、ありがたいお話を聞き流して30分、新隊員たちを新しい隊舎に帰らせ、中隊長クラスでの会議が始まった。
「いや~、どうしたらいいんだろう。」
「なんもわかんないもんね~。」
エミーと互いに何をしたらよいのかさっぱりわからないと、互いに肩をすくめて気の抜けた会話を続ける。ベルはまるでやる気がないのか、のんきに葉巻を咥えている。
ガコッ
ルーカスは座っている赤色のプラスチック製のイスをずらし、姿勢を正すとペンを取り出す。ペンのキャップを外すとペン先が飛び出る。ルーカスは飛び出したペン先を紙きれに押し付け、インクが正常に流れているか確認する。
ペンで書類の空欄を埋め始めると、気になったことがある。向かい側に座るエミーの手が一切進まないのだ。顔を上げるとエミーが一枚の書類を手に顔をしかめているのを見る。
「どうしたの?」
ルーカスが不思議そうな顔を向けるとエミーは、何でもないように顔を振る。その様子で何かしらの問題を察したルーカスは彼女の意向にそい、何でもないようにふるまう。
そうしてしばらくペンが紙をひっかく音、お互いの呼吸する音だけが部屋を支配する状態が続いた。そんな状況に転機が訪れる。侵略者の登場だ。
バンッ
大きな音と共に一台の買い物カートとセルゲイ、そして書類のタワーだ。
「おいおい、頼むからその書類も今日中って言わないでくれよ。」
思わずそう、声をルーカスはセルゲイに投げる。その言葉で熟睡中のベル、書類に集中していたエミーも顔を向ける、すぐにしかめる。
3人の殺気を向けられて冷や汗をかきつつセルゲイは口を開く。
「そうだったらよかったんだけどね、半分は俺のだよ。」
そう言いつつ今に泣きそうな敗残兵の顔を見せる。彼はカートから書類の半分をエミーとルーカスのテーブルの端に置く、あまりの重量でテーブルがひっくり返りそうだ。続いて残りの書類を彼は自分の別室のデスクに持っていく。
その背中のみじめと自分の机の上にいる書類モンスターを見て思わず口にする。
「中尉にならなけれよかった・・・。」
「私のころもそうだったよ。」
ベルがそのつぶやきに言葉を返す。若干懐かしそうな顔だ。彼女はそういうと立ち上がり、ルーカスの目の前で再び書類とにらめっこしているエミーの両肩に手を置く。
「ねー?」
そうやってベルはエミーにダルがらみを始める。エミーのイライラが一定ラインを超える前に、ルーカスはその場を離れて、セルゲイの部屋に質問しに行くふりをする。
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コンコン
それなりに大きく、きれいに白い壁紙が張り付いている部屋に扉を叩く音が響く。その部屋の主、セルゲイは予期せぬ訪問者に驚きつつも、入室を許可する。誰だろうか?
「どうぞ。」
「失礼します。」
セルゲイの部屋を訪れたのは、ルーカスだった。ルーカスの登場に、セルゲイは怪訝そうな顔をする。彼の顔じゅうに疑問符が浮かんでおり、口は開いたままだ。
「どうしたんだ?」
「いや、エミーとベルがピリピリしててたから、避難しに来たのさ。」
その回答を聞いて、しばらくぽかんとしたのち理解し始めたようで口元には驚きから愉悦へと変化した。その様子を見て、安全なシェルターを得たことを確信したルーカスは手鹿なところにあった来客用の座り心地のよさそうな、黒色の皮張りの丸椅子に座る。
「ああ、そこに座ってくれ。」
「もう座ったぜ。」
ルーカスはすでに座っているため、からかいながら書類に向かう。書類はおいてくるべきだったかもしれない。
一枚。二枚。三枚。
書類を処理し終わるたびに時計の針が進んでいる。手元の40枚の書類が終わる時には時計の短針が1周しているのではないだろうか?そう考え、考えるのをやめた。手を進めた方が早いだろう。
四枚。五枚。六枚。
やはり考えるべきではなかったようだ。どうしようもないほど忙しい普段の仕事が恋しくなってきた、ルーカスはそう普段の仕事に郷愁を感じている間にも、時間は進み、書類は残り続ける。
「終わった!!」
その後数時間かけて、数度のコーヒー休憩を挟みつつ書類とバトルを続けた結果、ついに勝利をつかむことに成功した。勢いよく体をイスから持ち上げ、体を伸ばす。
バキッ ボキッ
「んんんん・・・。」
体を伸ばすと関節や背から異音が骨に伝わって体中に響く。音が響くと同時に体中に伝わる快感は、書類の完成によってもたらせる達成感と相乗効果を示す。彼の魂は一瞬、ジーザスのいる天上の世界に飛んでいきそうになる。
「お、書類終わった?じゃあこれもよろしく。」
セルゲイの言葉で彼の快感は一撃で吹き飛び、天井の世界でジーザスにケツを蹴飛ばされ、体の中に再び魂が戻ってくる。あまりの衝撃で、そのまま座っていた元のイスに、突き飛ばされるように体を押し込まれてしまう。当然あまりの不条理に口も開いてしまう。
「まじかよ。」
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「まじかよ。」
誰が言ったのかわからないが、誰かが発した言葉がリタの耳に届く。ドイツ連邦とスペイン王国が領有権を主張し、度重なる戦火にされたこのコロニーに住むものは少ない。
ババババババッ
常に射爆音が響き渡る静寂を、一段と大きい機関銃の発射音が破壊する。コンマ数秒後には十数発の機関銃弾が頭上を飛んで行った。路面にいくつも積み上げられたバリケードの1つ、その陰から銃口が街灯の反射で薄く照らされる。
ババババッ
再び機関銃弾が頭に向けて飛ぶのを予感し、即座に頭を下げる。
ヒュンヒュンヒューン
耳元で耳栓越しでも聞こえるほどの音を立てて銃弾がとびぬけていく。2度目の幸運に感謝する、リタが幸運の女神に裏切られていたら仲間の何人かのように、骸を晒していただろう。
仲間の死体を意識して瞬間、その腐臭と鉄の匂いが漂ってくる。ふと気づけば、肘のパッドが外れていたために、右肘から出血していた。痛い。
何度もコンクリートや鉄とガラスの鋭利な破片の上で匍匐前進をしたため、いつ傷付けたのかわからない。さらにその傷にホコリや破片が突き刺さり変色している。しかし、この程度に傷のために時間を使うわけにはいかない。
「機関銃陣地ですね、手りゅう弾あります?」
「俺に3つ、おらっ使え。」
仲間から手榴弾を渡されると前方に向けてぶん投げる。年若い少女の貧弱な腕では、他国に比べて小型で軽めなスペイングレネードでも遠くまで飛ばない。
リタと機関銃の間に落ちてしまう。数秒後に炸裂。
ドンッ
たいして派手に爆発せず、衝撃波と破片をばら撒いて終わる。しかし感覚はつかんだ、2つ目を握ると勇敢にも伏せた状態からバネのように全身の筋力で跳ねて起き上がり、全力で右腕を振りかぶって勢いよく投げ込む。
投げられた手りゅう弾は、想像以上にまっすぐ飛び、機関銃が覗いていた窓に投げ込まれる。数秒後に爆発。
バンッ
しかし、彼女は三発目を投げ込む。さらに続いて4発目5発目が仲間たちによって投げ込まれ、同時に建物に向かって数人の仲間たちが手持ちの小火器で弾丸を浴びせて敵を押さえようとする。
手りゅう弾の爆発がドンッドンッと続く。どれでも安心できない。友軍の援護射撃のもと、残り1個の手榴弾を右手の人差し指と中指の間に挟みながら、左手にライフルを持ち、姿勢をなるべき低く下げながら走る。
僅か数秒後には、顔から勢いよく目的の建物の壁に突っ込む。顔を押さえる時間はない、痛みで片眼をつむって顔をしかめながらも、何とか落とさずに持っていた最後の手榴弾を建物の換気扇口を銃床で叩き壊して投げ込む。
再び爆発。その爆発ののちに仲間たちがすでに割れた窓から体を押し込んで、室内に押し入りクリアリングを始める。そしてすぐ数人のドイツ兵の遺体と破片を発見する。
いくつもの兵器があちこちに散らばって残されているが、無事なものは少なそうだ。すぐに分隊長がやってきて戦利品の調査を始める。その間兵士たちは眠るように休み、戦友の遺体から遺族に送る品を回収し、あわよくばもう使われることのないライフルや防弾チョッキ、軍靴を拝借しようとする。
ドンッ
1分もしないうちに、敵軍のFPVドローンが建物に突っ込み建物全体が揺れる。ホコリが建物中を一杯にする。肩の力を抜いて深呼吸をしていたリタは、肺にホコリが入りゴホゴホと咳き込むと同時に、体を伸ばそうとしていたために、バランスを崩してしりから床に落ちる。
陸戦シーンにはそれなりに自信があるけど、日常となるとどうも。。。




