↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/185

メカナイズド・ハート 26話

言い訳はしません。次回は1週間後に投稿されます。


入国検査で時間を取られたものの、スペイン人1人、イギリス人1人、ロシア人2人はなんとかポーランドへ入国することに成功した。


「なんだよ、書類は出したと先に行ってくれればよかったのに。」

スペイン人のルーカスが不平を口にする。その先はロシア人の一人、友人のライアンだ。いまだにルーカスに名を明かさず偽りの名前で生活する彼はルーカスの上官でもあり、この隊の最高責任者だ。


「わるいわるい、でも面白かったし良いだろ。」

彼は愉快そうに笑う。退屈な宇宙船に何日も何日も閉じ込められ、混雑した港に到着してからは人の波に押しつぶされ、彼のこどもっぽい精神は軽い刺激を期待していた。


「でも、あと少しで死人が出そうだったけど。」

イギリス人のエミー、ルーカスの上官であり恋人でもある彼女は、ルーカスのそばで危険性を訴える。彼女もまたライアンの部下であり、彼の子供っぽい精神に命をゆだねている以上、不平を訴える。


「わかったわかった。」

両者の訴えをライアンは聞かない。彼は首を傾け、目を軽くつむり、ふわあと欠伸をする。まるで聞く様子を見せない。


「ベルも何とか言ってやってくれよ・・・。」

ルーカスはライアンの態度にやれやれと肩を下げつつ、1人で銀色の水筒をあおるベルにライアンを説得させるように頼む。エミーも頼む。


「ほんとに、ライアンはベルの言うことしか聞かないから何とか言ってよ。」


ゴクッ ゴクッ


彼女は二人の訴えを聞いてけだるげに、体を向けて両肩を上げ腕を左右に開きながら下げる。お手上げなポーズだ。


「強情だから聞かないさ、普段は穏やかで押しも強くないんだけどね。変なところでプライド高いから、気にしない方が良いよ。」

「そういうものなの?」


ベルはライアンの性格について、長年の経験から正確な分析を示す。その内容に興味を持ち、驚きを示すエミーに対して逆にベルは驚いて見せる。彼女からしてみれば、ともに長くこの企業で働き、同じ狭い宇宙船で何日も閉じ込められていたことがある仲だからだ。


「そういうもの、もう二年も一緒に働いてるのに知らなかったの?」

「だって彼あまり私に話しかけないし。」

「ああ~。」


その言葉を聞いてベルは目を細めながらライアンの方を一度見て、もう一度エミーたちの方に向き直り口を開く。


「信用されてないんだよ。彼はそういう人。」


ベルは肩を下げ、普段は眼光鋭く鋭利な刃物のような目元は、あらゆる感情が混じったような目元を映す。


ああ、この感情だ。この目元だ。すべての感情が混ざった目元だ。

ルーカスはベルの目元を見て、過去に巡り合った人々の目元を思い出した。近所に住んでいたおばあちゃんはいつもこんな目元をしていた。彼女は誰を待っていたのか。ルーカスよりも先に動員された、1つ上の友人のフェルナンドは最後に駅であった時も、あんな顔をしていた。


ベルの目元をのぞき込めば、ベルの先暗い未来が黒色の骸骨として暗示されるような気がした。


思わず自分の傍らにいるエミーを抱きしめ、目を開かせ、目元をのぞき込もうとしたくなる。彼女を失いたくはない。ベルの目元に潜む、人間を闇の世界に連れていく化け物にらみつける。


ふとベルが視線を感じてルーカスの方に不思議そうな顔を向ける。その動きにつられてエミーも不思議そうな顔を向ける。


「え、何?何?」


事態を把握できていないエミーを尻目に、ベルはこちらに向けて微笑む。さらにエミーも不思議そうな顔を消してこちらに微笑み向けてくれる。


何かが緩む気がした。


彼女達は大丈夫だろう。何があってもエミーだけでも守ってみせる。ルーカスは誓った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ポーランド軍最高司令部は紛糾していた。

ポーランドは11億460万人の人口を抱え、おおよそ1割を軍隊に動員している。紛争、交戦地域を複数抱え、その最大の交戦国の一つであるドイツとの国境に保有する主力宇宙艦隊の半分を置き、陸上戦力もそれぞれの駐屯地があるコロニーの港で列をなしていた。


しかし、ワルシャワの国防省参謀本部は2つの勢力によって2分されていた。


「一撃のもとにヴロツワフを占領している敵主力を叩き住民を救い、その足でベルリンへと兵を進めるのが最適だ。」

「まったくもってその通り、ウクライナの蛮族を鎮めるためにも、戦力をいつまでもドイツにおいておくことはできない。」


ベルリンへの攻勢を求める将軍たちが、その攻勢の必要性を叫ぶ。彼らの意見はもっともなもので、ポーランドの戦略的な状況を考えてのものだ。


いっぽうその考えに納得しない勢力もいる。


「ベルリンへの突進は危険すぎる!!ベルリンは大きな都市だ。1億1100万人を抱える巨大都市はそう簡単に落ちはしないだろう。」

「さらにはベルリン前面に展開を始めたドイツ連邦海軍の第一艦隊も脅威でしかない。」


反対する勢力の論理も理解できるものだ。彼らは続けてドイツは宗教問題から南部と北部で分裂しながらも決して侮るべきではないと続けた。


「浅はかなものだ、まさか本当に数字上のドイツ艦隊が機能するとでも思っているのかね?」

「なんだと?数字が読めなくなったのなら引退を進めるぞ。」


ベルリンへの攻撃を主張する積極攻撃派はドイツ艦隊が連戦の疲労で戦闘能力を著しく損なっていると主張する。


「貴官らは度々我々の作戦に反対してきたが、反対は猿でもできる現状の我が国の戦略的状況を勘案して作戦を出してみたまえ。」


ベルリン攻撃派はベルリン攻撃反対派を弱腰であり、無計画な反対を続けているだけだと批判する。


「君がそう言うと思ったよ、しかし今回ばかりは我々も作戦計画を用意してきた。」


その言葉にベルリン攻撃派の将軍将校らは驚き、前列に座る数名を除いてヒソヒソと話をし始める。


歴戦の将軍将校らがヒソヒソと話すのを、ベルリン攻撃反対派は鳥のさえずりのように聞き流し、司会進行役の将校に軽く手を上げると、ゆったりと自信満々に立ち上がり数人の下士官に持って来させた資料を皆に配り始める。


その様子を見てベルリン攻撃派の将軍たちは苦々しげな顔をする。完璧なパフォーマンスだ。


「我々の攻撃目標は人口が多いだけでなく、政治的なリスクを含むベルリンではない。北部の流通の中心であるプレンツラウだ。」


プレンツラウという言葉を聞いてベルリン攻撃派の数人の若い士官たち、中年に入ったばかりの将軍たちが、その言葉を聞いて身を乗り出す。


少し前の、両勢力の代表者が話すだけの落ち着いた、調整された空間が変化するのがわかる。


掴みは上々。

そうベルリン攻撃派あらため、プレンツラウ攻撃派の筆頭として先程腰を上げた壮年に差し掛かったばかりの将軍はそう思う。


おこちらに寝返らせることができるであろう、将軍たちと将校たちを、念頭に置きつつ、彼はその理由を一つ一つ挙げていく。


「まず1つ、プレンツラウ-シュチェチン軸での攻勢は我が国の戦線の安定化に大きく貢献する。ドイツ連邦が我が国より低い高度にある。そしてドイツは我が国の領土深く、ヴロツワフ地域を占領している。しかし、ここで奴らの予備戦力を上回る戦力がプレンツラウに進むとどうなる?奴らは国外の占領地から戦力を引き上げるしかない。プレンツラウはベルリンと比較して遥かに人口が小さく、占領しても占領軍の負担は少ない。」


彼は一度水を思い切り飲むと話を続ける。


「占領地の負担が少ないというのは、奴らも理解してくれるだろう。南部のカトリック勢力との戦争、スペインとの戦争、フランスとの国境戦争を抱えながら、戦線に明けられた大穴を塞ぐほどの戦力はドイツ国内にはいない。自然と彼らは全ての予備戦力と、訓練中の新兵、民兵を吐き出し占領地に置いている主力を下げるしかないだろう。そして両国の高度差から、ドイツが一度下げた戦力をもう一度送り込もうとすると良い的になり、容易に撃退できる。」


「2つ目、そもそもドイツは我が国と南部のカトリック諸勢力との連携を、なによりも恐れている。自然とその戦力は南部から中部にかけての諸都市、ドレスデン、コトブス、フランクラントアンデルオーデル、エバースバルデ、ベルリンに多く配置されている。この地域に配置されている第5軍、第3軍、第8軍、第9機械化軍団、第32軍団は全て戦力再建中の軍団であり、戦闘能力は高くないが、軍団は軍団だ。一方、北部の占領を目指してシュチェチン-プレンツラウに続く2つの幹線航路を通れば、8時間でプレンツラウに入城することができる。障害物となるのはランドウタールにいる3個師団とレクニッツにいる2個師団合わせて40万人だけ。ここに我々は3個軍団300万人をぶつける。」


彼はそこで300万人という部分を強調する。40万人と300万人は勝負にならないだろう。


「しかし・・・。」

「そう、各コロニーが持つ防衛装置、愛国心、パルチザン、未だ健在なドイツ軽快艦隊がばら撒くであろう機雷、そしてベルリン近郊で再建中の連邦主力艦隊がいる。」


話していた老将軍は思わず口を挟んだ若い将軍の顔を見ながら、彼が口にしようとした脅威を上げる。


「当然これらは脅威だ。しかし、対策を用意した。まず各コロニーが持つ防衛装置、これは巡航ミサイルとポッドを加速撃ちして敵の防御システムの処理限界を飽和させることで解決する。次にパルチザン、これは住民に対する強制移住で我が軍との間の摩擦を最小限にすることで、被害を最小限化する。また、ドイツ軽快艦隊もドイツ主力艦隊はこの作戦で形成される長大な戦線では役立つことはない。」


彼が読み上げた後には拍手から迎えられた。彼とそのチームが作り上げた計画はほぼ完璧なものだった。この計画は数人のベルリン攻撃派の反対を受けつつも、国防省参謀本部の中で広く受け入れられた。


計画は少しずつ実行へと用意されていく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ルーカスを含めた4人は新しい所属に送られた。

4人は全ての荷物を肩から下げて、いかつい軍靴をカツカツと、地面に打ちつけながら基地の入り口まで歩く。


門番に軽い敬礼をして、4人はそのまま基地に入る。半地下型の基地なだけあり、全ての入り口は地下へと続いていく。ライアンは基地の敷地内の人気のないところで立ち止まり、ベルに時刻を確認する。


「ベル、今何時だ?」

「14時ちょうど。」

「俺と同じだな。」


彼は時間を確認し、書類を開封した。

内容はシンプル、きたるドイツへの大攻勢に備えて複数の傭兵や義勇兵をまとめて1つの大隊として戦力化しろとのことだ。


「おい、ルーカス。」

「?」

「おめでとう。」


彼は珍しく綺麗に微笑みながら、空っぽなはずの封筒を渡してきた。エミーと共に、中を覗き込んでみる。ベルは既に何が入っているかわかってしまったようだ。腕を組んで灰色の壁に寄りかかっている。


「「これは・・・、中尉の階級章!?」」


二人が声に出した通り、中に入っていたものは中尉の階級章だった。


封筒を逆さまのすると封筒から2組みの肩につける肩章が出てくる。片方は目立ちにくい色合い作られた野戦用の中尉の肩章、もう片方はカメラ写りの良い色と軽い刺繍の入ったパレード用の肩章だ。


ルーカスは早速両肩に付いていた肩章をペリッと剥がす。そこにパシっともう一度貼り付けるとだいぶ良い感じになった。


「ルーカス・マクワイヤー中尉、大尉殿に拝謁いたします!!」

「ははっ、よく似合ってるよ中尉将軍。」


ライアンとくだらないジョークを交わし少し笑い合うと、大隊にしなければいけない兵士たちがいるであろう場所に行く。


数度迷子になりかけて、通路を歩いていた不幸な下士官に道案内を頼み、案内させた。


「ありがとう伍長、助かったよ。」

「ありがとね。」

「ごめんね、忙しい時に。」

「サンキュー。」


4人はそれぞれ自由に感謝の言葉を下士官に伝えると重い扉を押し開けて、広大な空間の中に自分がいることを発見した。


どうやらハンガーらしい。


「うおっ「大丈夫!?」


危うくルーカスはこけて足元の巨大な空間に落下するところだった。


数機の巨大なガントリークレーンが頭上を轟音を立てながら通り過ぎていく。足元ではただでさえ理解不能なポーランド語を複数の作業員が大声でがなりたてている。


「あれ、あれルーカスの機体じゃないか?」


ベルが奥から徒歩より遅いスピードで慎重に移される、派手なペイントと弾痕が全身についた機体を指差す。

ポーランド編が始まって数話経ちますが、スペイン編よりもスロースタートになりそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。