メカナイズド・ハート 178話
「各機回避!!」
「回避ってどこに!?」
副官の悲鳴を聞きながらも、大隊の部下達に回避に徹するように命令する。しかし回避と言われて回避できる者は少ない。それもそのはず最も近くにいる戦列艦の副砲とルーカス機の距離も2キロメートルもない。
2キロメートルというのは宇宙においても地上においても目と鼻の先である。
敵砲火が放たれた直後には初弾が着弾し始め、逃げ遅れた運のない部下達はコーン状に破片を撒き散らしながら信号が途絶する。そして土手っ腹にマンホールほどのサイズの風穴を開けて沈黙する。
しかしいくつかの機体は果敢に前へ前へとスラスターを吹かして敵弾を回避して、戦列艦に接近戦を仕掛ける。その数機のうちの一機がルーカス機だ。
「臆するな!!死角に取り憑いて仕舞えば!!」
ルーカスは、敵弾が交差してライブステージのように常に明るい宙域を通り抜けて敵戦列艦の表面を滑るように飛びながら至近距離から120mm砲を敵艦の副砲基部に向けて打ち込む。いくつかの副砲は120mm砲の直撃で基部破片か振動が砲を損傷させて無力化されるが、それ以外は外れる。
眼前で損害を受けていない砲門から砲弾が発射されて次々と友軍機が撃墜されていく。
ルーカスは機体を加速させて、脚部で砲身を蹴飛ばす。
こうすれば、直せず針の穴に糸を通すような精密さで砲の基部を撃ち抜く必要なく簡単に砲を無力化できる。もちろん多少の負荷が脚部にかかるが部下を一人でも救い出せれば、今後が楽になる。
その努力が実を結んだのか、通信が入る。
「隊長殿、敵旗艦の通信マストとスラスターを破壊します!!」
ルーカスのもとに、副官からの通信が入ると同時に振動が足元から響く。
どうやらルーカスが敵艦隊の旗艦となっている一等戦列艦の副砲を壊している間に、副官たちが弱点を見つけて破壊し始めているようだ。
「よくやった!!部下を集めろ!!離脱するぞ!!」
「了解です!!」
今までで一番うれしそうな「了解です」を聞きながらスラスターを大きく開いて、爆発的な加速で敵艦隊と距離を取り始める。ルーカス大隊の突入と旗艦の損傷がきいたのか敵艦隊が統率を乱し始めて敵艦隊の中央部がジリジリと再び押し込まれる。
「勝てますかね?」
「勝てるだろう。勝てなかったら逃げるだけだ。」
ルーカスの近くに来たミリアム中尉が通信機越しに、黄昏ているルーカスに質問してくる。
煩わし気にしながらも、遠くから艦隊戦を最高の座席で見る分には悪くない話し相手だ。
しかしくだらない話をし始める前に、戦局は再び変化する。
敵国ドイツ連邦が持ちうる最後の艦隊である第九軍団は、眼前で脆弱な艦隊中央部を貫けれて左翼と右翼に分断されて少しずつ包囲されていく。
そして決壊する。
万力のように徐々に徐々に圧力を高めていくポーランド艦隊を前にして、ついに戦意が底を打ち蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。




