メカナイズド・ハート 16話
またまた送れました。
精進します。
ふい〜。
思わず情けない声が漏れる。慌てて男らしく厳めしい顔をしなおすが数秒で崩れる。
その顔をタオルで隠すようにしつつ部屋に戻る。
浴室が狭すぎるためエミーと同じタイミングで入れなかった。
相変わらず明かりをつけても少し暗い部屋の中を半裸、パンツ一丁で歩き回る。
サッ サッ サッ
軽快な音と主にカミソリがルーカスの顎と首を撫で回して毛を剃り落としていく。
ふんふんふん〜 ふんふんふんふん〜
ふんふん〜 ふんふん〜
彼女の声が浴槽と部屋を区切るカーテン越しに聞こえてくる。相当機嫌が良さそうだ。
あの曲は2年前のヒット曲かな?ポップで明るい良い曲だ。
少し音痴だけど。
そう思っていると危うく左頬を切りそうになる。
「もう疲れてるんだな、早く寝てしまおう。」
そう言ってルーカスは身をベッドに放る。
ドシンッ
衝撃を感じる前に彼は眠りに引き込まれていた。
グウグウ グウグウ
「ふうう〜、あれ。」
声の主は濡れた足のままルーカスに近づいて覗き込む。少し残念そうな様子だ。
「もう寝ちゃったのか、まあ気にしないけど。」
そう言うと彼女は彼に毛布をかけて体をタオルで拭き、水を取る。
スピーッ スピーッ
そう寝音を立てながら寝る彼の隣に横になり、一緒に眠り始めた。
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真っ暗闇の街を街灯だけを頼りに無灯火で爆走するトラックが数台いる。
彼らは思う。スペイン人が電気自動車に熱心で良かった。そのおかげで音でバレずに移動できる。
数台のトラックで構成された。
「スペインの蛮族たちに感謝する日が来るとは思わなかったよ。」
そう少し偉そうな男が小さな声で呟く。彼の発した言葉に周りの兵士たちも口元を緩ませる。
その様子を見ながら言葉を発した本人、部隊の指揮官は頭の中で地図を思い浮かべる。
そろそろ時間だ。
「作戦開始だ運転手、車を止めろ。」
「ハッ。」
車は軽いブレーキをかけつつ緩やかに道路の端に流れていく。その先頭車の動きに3台の後続車も合わせる。
計4台の車が止まると黒と濃い灰色が組み合った迷彩を着て小銃を背中に回している兵たちが溢れ出してくる。彼らはプラスチック製の人の身長の半分程度の大きな長方形の箱を2人がかりで、何箱も荷台から取り出す。
次に彼らは何やら金属製の野球ベースのようなプレートを設置し始めた。そのあと彼らは長さ60sm前後の金属の筒をプレートの上に設置する。
最後に狙撃銃を支えるような二脚を展開して筒を支える。
そのあと彼らは大きな箱を開けて砲弾を取り出す。そしてその砲弾を今設置したばかりの迫撃砲の側に並べていく。
ほんの数分で何もない真っ平らなアスファルトの道路の真ん中に迫撃砲陣地ができた。本来なら防護用の土嚢や発射地点隠蔽用の迷彩ネットを用意するべきだが、それらの姿はない。
ブイイイイイイ
兵の1人が放った小さな物体が空中で変形して奇妙な機械の羽音をたてながら上昇していく。
追加で数機のドローンが放られていく。
数分後にはそれらのドローンはスペイン軍のたむろするドックの一角に近づきクリアな映像を1、2秒の遅れを出しながらも隊員の電子端末に表示する。
その情報をもとに数人の隊員たちが集まって目標の判定、優先度を決定する。
わずか数分後、指揮官が
「時間だな、発射開始!!」
直後間髪入れずに ポン ポン ポン
音が響き渡る。
その砲弾は次々と彼らの頭上にある地表に着弾していく。大きな弧を描く迫撃砲たちの弾道は、頭上にある敵陣地を攻撃するのに最適だ。
目視で見えるほどの大きな爆発が数度と小さな爆発が繰り返し起きる。
ポン ポン ポン ポン
ドカン ドカン ボカン ボカン
彼らの迫撃砲の周りに円形で取りやすいように並べられた砲弾はどんどん数を減らしていき、円から半円、最終的に三日月を通り越した。
「発射やめ!!発射やめ!!機材を置いて撤退する。急いでトラックに乗り込め!!」
敵の反撃で損害を出すことを避けるために彼は撤退の命令を出す。彼の命令に従って次々と兵士たちが武器を迫撃砲を放棄して駆け足で各トラックに乗り込んでいく。彼らの仕事はうまくいけばこれほどシンプルだ。
そうシンプルにいかないのはしこたま撃ち込まれたスペイン軍だろう。
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悲鳴と爆音で反射的に目を覚まして体を起き上がらせる。横で寝ていたエミーも跳ね起きて窓に駆け寄ってカーテンをさっと開く。
コロニー内が赤々と照らされいる。1階にあるこの部屋からも吹き上がる黒煙が見える。
エミーがこちらを振り返る。彼女に小銃を放る。2人は雑に靴に足を突っ込みジャケットを上から羽織って建物を飛び出す。
ドンッ
誰かにぶつかり転倒しそうになる。また誰かにぶつかる、それも一人ではない何人もの人にぶつかる。
数時間前と違い歩道からあふれ出てしまうほどの人がいる。皆隠れていた民間人だろう。やせ細った老人、でっぷり太った中年のオッサン、腰をへたり込ませた娘を連れた母親。
彼らを遠慮なく押しのけながら前へ前へと進む。
だんだんと悲惨な状況が目に飛び込んでくる。
「助けてくれえ・・、助けてくれえ・・・・。」
「イタイッ・・・、イタイッ・・・。」
燃料車に引火したのか建物のいくつかは炎に包まれ、その炎は建物の倍の高さにまで膨れ上がり始めた。
いくらかの人型の物体は炎で焼かれたのか黒焦げウィンナーのような見た目になっている。
「ひどいな、初動に失敗したのか?」
負傷者たちへの同情もそこそこに、火災の対応のまずさを指摘してしまう。少し不道徳かもしれないが一軍人として状況に疑問を口にしてしまう。
2人は負傷者がたむろするところを足早にずんずんと進んで兵士たちが瓦礫をかたずける場所にまで来た。そしてそこに見知った人を2つ見つけた。あの姿はライアンとベルだ。
「おう、来たのか?大変だったな。」
彼はのんきな言葉を口から吐き、若干微笑みながらいる。一方のベルは無線機とコロニー内の地図を映した携帯電子機器を見ていて、それ以外のことには全くもって興味なさそうだ。
のんきな姿で半身を赤く照らされながらいる2人にルーカスは質問をする。
「俺たちに何かできることはあるか?」
そう聞くと彼は少し驚いた様子を見せると、一度ベルの方を向きヒソヒソと一言二言話した後、またこちらを向いて口を開く。
「ポッドの中に入って待機していろ、じきに出番が来る。ネズミを探す必要があるからな。」
そう言いながら彼はエミーとルーカスに何枚かのシートを挟んだボードを渡す。
「そのボードに新しいお前たちの乗機が書いてある、体に慣らしておけ。」
そう言うと彼は話は終わりだとばかりにエミーと外国語で話し始める。
「行くか。」
「うん、行こう。」
エミーとルーカス2人はその悲惨な場を1秒も速く離れようと急ぐ。帰り道でも負傷者と死者に溢れた現場を通り過ぎる。
「痛い、痛い。殺してくれ。殺してくれ。」
「ドクター、ドクター。助けてよ、お願いします。お願いしますう。」
しゃがれた口から血が溢れ出しつつある兵士が死を願う。半身を酷い火傷が覆い、もう半身にはガラスの破片が多く突き刺さった女性兵士もいる。
「あああ、ううう・・・・。ああああ・・・。」
何を言っているのかもわからない兵士が負傷者もいる。その隣には看護師が1人、思わずその姿を見てしまった。
彼女もまた片腕を血に塗れた包帯でぐるぐる巻きにされており、その先はない。
現場には100人近い負傷者がいるのにも関わらず、その面倒を見る軍医たちは全員合わせて5人しかいない。
多くの負傷兵は担架にすら乗せられず、アスファルトの上に直接痛々しい傷口をみせている。
余計に痛そうだ。
本来の地面は灰色のはずだったが、一面をガラス片やコンクリの破片、埃、燃えカスと血で真っ黒にさせている。
「見せもんじゃねえ、速く散るんだ!!」
何人かの兵士が野次馬で来た民間人たちを散らす、民間人たちはそれぞれ個人の端末を持ち、惨状を撮影している。
そのレンズの群れから逃げるように2人は歩き出すと、ようやく火の熱気と血の蒸れから離れることができた。
その場所はポッドが並べられた駐機場だ。中にはつい数時間前まで乗っていた自分の乗機が見える。
外から見ると、その損傷具合の酷さがわかる。
「こんなにやられてたのか、知らなかった。」
思わずそう、ため息と共に口から漏らしてしまう。
「これだ、あったよ!」
エミーが少し離れた所から声をかけてくる。どうやら新しく任される機体を見つけたらしい。
タッ タッ タッ
彼女のところにルーカスは走る。彼女の手前には先程失った機体と同じだ。操縦系統をいちいち把握し直さなくて良いから大歓迎だ。
直立する機体の胸部にあるコックピットに乗り込む。高さは10m近く、直接民間用の高所作業車を使ってコックピットに入るしかない。
乗り込み直前に後ろを振り返る。
無風のせいで逆に地面との距離感がつかむことがず、恐怖心を掻き立てる。
コックピットの入り口は相変わらず狭く、手を先に押し込み、その次に頭、肩、腰、尻、足の順番でコックピットに入る必要がある。
「よいっしょ。」
なんとか入ると機体内は既に前任者の匂いが機体内に充満していて、ほんの数日前までは人が乗っていたことを伝えてくる。
なんとか機体内を綺麗にするために、コックピットのシートに座ると座席の高さを調整する。
数時間振りのコックピットはあまり懐かしさを感じさせない。ただ、次の戦闘への恐怖感を感じさせるだけだった。
シート周りの計器を一つ一つチェックしていく。ついで両腕部に懸架された武装、背部や腰部、脚部も懸架された武装もチェックする。
どの計器の数字も問題ない。強いて言うなら推進剤が一切入っていないことだろうか?陸戦だから確かに不要だ。
武装は以前使っていた時と異なり、120mm砲が2つとシールドなし、そしてレーザーブレードが装備されている。
「よし、シールドが装備されていないこと以外は問題なしだ。」
口ではそう言う。しかし、シールドを装備していないことは大問題だ。敵が再び大型のATGMを出してきたらどうしたら良いのか?
そうルーカスは考えを巡らせる。
「こちらエミー機。あー、あー、あー。ルーカス聞こえてる?」
「こちらルーカス機。聞こえてるよ。」
「よしっ。じゃあ今から言う戦術番号を機体の敵味方識別装置に入力していって。407、907、23。」
その言葉を聞きながら戦術番号を小さな数字の見にくいスクリーンとキーがセットされた機械に入力していく。
「こちらルーカス機。407、907、23で良いんだよね?」
「こちらエミー機。それでオッケーだよ。」
ダブルチェックすると、ルーカスは機器を見るのをやめて足を伸ばして交差させる。交差させてなおコックピットが狭すぎて足がスクリーンと天井につく。今度は体の向きをぐるっと変えて体を曲げる猫のようにルーカスは凝り固まった背筋と肩周り、首を伸ばす。
ふうう〜
体を曲げたり丸めたり反ったりして身体中をほぐしていく。適度に体と関節が熱を持ち始めると、今度は隅に置いておいた水を一飲みする。
ただの水だが非常に美味しい。
ぷはあ。
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彼ライアン、いやキリール・バルスコフ大尉は指令を仰ぐために旅団司令部に連絡する。
ポチッ ポツ ポツ ポツ ポツ
・・・ツー、・・・ツー、・・・ツー。
通信機は反応しない。静寂の中で僅かに機械音と遠くで燃焼しきった建物が倒壊していく音と負傷兵の喚き声だ。
「この電話番号は現在使用されていません・・・。この電話番号は現在使用されていません・・・。」
そうコンピュータが読み上げるだけだ。実に腹立たしい。
「おい、旅団司令部につながる電話はどれだ。」
彼は仕方なく別の電話端末を探す。まずは近所の第三中隊の司令部を訪問して無線機をかっぱらおうと考えた。
「邪魔するぞ。」
彼は中隊司令部には自分と同格の大尉までしかいかいことを知っているため、横柄な態度で入室する。
「旅団司令部に用がある、貸してもらうぞ。」
その言葉で彼が乱入していたことに驚きを示していたエリーコ・センテーノ・リャバドル中尉を始めとする指令日要員の視線がゆるむ。
その様子を気にした様子も持たず、ただ入り口の近くにいた下士官に無線機を取ってくるよう求める。
しかし、そこへエリーコ・センテーノ・リャバドル中尉が言葉を挟む。
「旅団に直接かけれる通信機器はこちらにもありませんよ。」
「何?」
その声に腹立たしさを隠さずに彼は疑問を発する。
その様子にエリーコ・センテーノ・リャバドル中尉は一度少しひるむが、そのまま話続ける。
疲れたンゴ・・・。




