メカナイズド・ハート 15話
投稿が相当遅れてしまいました。
申し訳ございません。
16話は4〜5日後に投稿されます。
エミーとルーカスはそれぞれ一丁の銃身を切り詰められ、折りたたみ式の銃床がついた小型のアサルトライフルをベルトで首と肩からかけている。
武装した二人は大通りの端をのんびり歩く。
「背中拭いて。」
「はいはい。」
彼女と背中をタオルで擦りあう。ほこりや汗を拭き合うとかなり気分が良い。
「ヒャッ。」
濡れたタオルが急に肌に当てて驚かせてしまった。
「ごめんごめん。」
「いや、続けて欲しい。」
彼女は続けるよう促がす。
「はあ〜、気持ちいい。」
二人はゆっくり歩きながら続ける。
道には子供どころか動くものが一つもない。
野良犬ですらいない。
そして時より小銃の空薬莢が転がり、いくつかの民家から視線が少し飛んでくる。
そんな怯える人の目線を無視して2人は我がもの顔で背中や脚、腋、首後ろ、脚裏、脚の指先、指の間にタオルを突っ込みながら道を歩く。
「おお〜、すっげえ気持ちいいなあ。」
ルーカスもエミーと同じ快感を体験する。
非常に気持ちが良い。
汚れと一緒に長い間付いていたものが消え去ったような気がする。
2人の晴れやかな気持ちはコンクリートの空を青空にを開いたような気がした。
そうこうしていると8階建てのコンクリ剥き出し安そうな高層住宅に出会う。コンクリ壁には斜めった状態でセロハンテープでとめられた長方形の白い紙。
「入居者募集中」
大小2個3個の花の絵でデコレートされ、古いアニメのキャラが可愛い顔に似合わない「安いぜ!!」と宣伝している。そのどちらも古ぼけ、ホコリに塗れている。
「ここなんか良さそう。見た目はあれだけどほら、一室ごとにシャワー付きバスタブ付きだって。」
「へえ〜、なかなか良いね。俺はエミーが選んだところならどこでも良いけど。」
それが彼の本質だ。ルーカスにとって何よりも大事なのはエミーと一緒にいることが1番重要なことで、それ以外は必ずしも重要ではない。
「なんでも良いって言うのが一番困るんだよねえ。」
「はは、でもほんとなんだよ?」
「わかってるよ。」
そう二人は言葉を交わしながら建物のエントランスと外界を分ける扉を押して入る。
中は真っ暗、明かりなし。コロニー内も街灯と建物から漏れ出る点灯の光しかないのに、この建物はより暗い。
「少し目を慣らす方が良いかも。」
「そうだね。」
2人はそう言いながら手に持っていたタオルを隅に放り捨てて肩からぶら下げた小銃を腰で構える。
ギーッ バタンッ
音を立てながら開けたエントランス扉が閉まるのに合わせて完全に真っ暗闇になったエントランスを抜き足差し足、東洋のニンジャのように一歩一歩慣れない歩き方で足音を消しながら先へと進む。
頼むから何も出ないでくれ・・・。
そうルーカスは汗を額に浮かべながら一歩一歩進む。次の瞬間、バタンッと扉が開き醜い顔のドイツ人が飛び出して銃を撃ちかけてくるかもしれない。
何にも出会いたくなかったが、そう簡単にはいかない。
一階を目を光らせ、各部屋を見て回るが誰もいない。どの部屋もついさっきまで人がいたような状態で金品や小型の電子機器類だけがどの部屋にもない。
部屋によっては煎れられた豆ががカップと共にテーブルの上に数人分放置されていた。
「住民はどこへ行ったんだ?まともに避難できる先があるとは思えない。」
呟きながら他の部屋を回ったエミーと合流する。
「誰もいない、何かがおかしい。」
「上の階もざっと見たけど誰もいないよ。どこに避難したんだろ。」
彼女もそう言う。待てよ、短時間でどうやって全ての階を見て回ったんだ?
「ちょっと待って、どうやって全ての階を見て回ったの?」
「実はね・・・。」
彼女が言うには2階へ繋がる階段の裏には小部屋があり、その部屋に各階の映像を映す管理室があったと言うのだ。
「なるほど、だから各階の状況を把握できたのか。」
「そういうこと。」
彼女の話に納得しながら構えていたライフルの安全装置をかけて肩から下ろす。
手近な部屋に入り上着を脱いで、ソファに横向きにゴロンと寝転ぶ。少し汚れているが、気にならない。ポッドのコックピットと比べれば楽園と言える。
体を横にできてだいぶ背中が楽に感じる。足も伸び伸び開ける。実に良い気分にさせてもらえる。
「ふう〜、んんんん〜。はあ。」
エミーが体を猫のように丸めてようとしている。
あまり丸くならない。
「っぷはあ。はあ、はあはあ。」
体の痺れに堪えきれず、彼女は息を上げながら床で横になる。
彼女は軍靴から足を抜き、靴下を脱ぐと足を揉み始める。凝り固まった筋肉と軍靴でできるアザ、血管の中で止まった血液を揉み解す。
一連の動作を見ているとルーカスの足がムズムズしてくる。
ルーカスも靴を脱ぐエミーの真似をし始める。
「おおっ、気持ち良い。」
思わず声が出てくる。指が肉と骨に押し込まれるたびに、そこに溜まっていた汚いものが押し出され、生が吹き込まれるような感覚に陥る。
「どこかに水でもないかな?ちょっと見てくる。」
「わかった。」
彼女は水を求めて家の中を探し始めた。
その様子をルーカスは不思議そうに見る。
なぜ蛇口を捻らないのか?そうルーカスは思い、エミーに話しかける。
「どうして水道を捻らないの?」
「ん〜、お腹壊すかもしれないから念のためね。」
「なるほどな。」
エミーは廊下の向こうから声を響かせながら返事をする。かなり納得する答えだが、ルーカスの顔は青くなる。
「ヤベ、飲んじゃったわ。」
子供の頃お腹を壊して母親に抱えられながら何件も病院をはしごし、なんとか国民医療保険が対応している診療所で薬をもらったことを思い出す。
そういえばあの頃からお父さんはいなかったな。
「まあまあ、君はスペイン生まれのスペイン育ちだから大丈夫だよ。」
「それもそうか。」
彼女はなんでもないことのように、気楽に話す。
その言葉に安心して顔の青みが引いていく。
「ふう〜。」
「あった!!」
少しするとエミーの歓喜の声が別室から響いてくる。見つかったのだろう、ドタドタと廊下を鳴らして走ってくる。
「水見つかった?」
「うん、見つけた。」
そう言って彼女は水が入った2Lのペットボトルを見せる。
既に彼女はその半分ほどを飲み干している、数分後にはトイレを探しているだろうことを容易に予想できる。
「そんなに飲んで大丈夫?」
「なあに?飲みたいの?」
苦笑いしながら彼女に聴くと、逆にボトルをグイっと突き出される。
彼女が振ってアピールすると透明なボトルの水が跳ねる。その光景に喉の渇きを感じてしまう。
確かに自分も作戦開始後は一度たりとも液体に触れていない。
今すぐにでも喉を水で潤したいと思うと行動は一瞬だった。
ルーカスはエミーの手の内にあったボトルを口につけると、首を後ろに倒して一気に口の中に流し込んでいく。
ゴクッ ゴクッ ゴクッ
喉の中を水がどんどん満たしていき、その度に喉のカサつきがなくなる。
喉を湿らせ終わると口をボトルから離す。
プハッ
「ああ〜、美味しかった。」
「でしょ〜?一仕事終えた後の飯も格別だから期待してて良いよ。」
その言葉を聞いてしまうと期待せざるを得ない。
グウウウ〜
エミーとルーカスのお腹がなる。
その音を聞いてエントランスのソファや椅子で好き勝手に寝転がっていた2人はニンマリと笑い合う。
んん、眠いな。ルーカスがそう感じた時には既に気を失っていた。
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「損失の集計は済んだか?」
大隊長はライアンの顔を見て質問する。整備場の一角に置かれた一般民家から持って来たのであろう、場に不釣り合いな椅子に座っている大隊長。
一方にライアンはそこら辺に転がっていた自動車のホイールを横にして尻を置いている。
「ええ、把握しました。大隊36名中27名が死亡、半数が宇宙で半数が地上戦で死亡しています。生き残ったパイロットも機体を失ったものばかりです。」
「おおむね見立て通りだな、お前の小隊に死者がいないことを除けば。」
大隊長が癪に触るような言い方をする。
その発言に対してライアンが嫌な顔を見せる前に大隊長が身を乗り出して言う。
「この大隊はまだ戦闘能力を残していると思うか?」
ライアンはその発言に心底驚いた、これだけの損害を出した上で何かまだ大隊ができることなどあるのだろうか?
「ないです。我々の大隊は既に2個小隊レベルにまで戦闘能力を減退させています。」
「つまり2個小隊程度の活躍は期待できるわけだな、わかった。」
大隊長はそう応じる。その発言にいやな予感をライアンは感じてしまう。
そして嫌な予感は的中するもの。
「0300に隊員全員を集結させておけ、機体はこちらの方でなんとかする。良いな!」
「ハッ、了解であります。」
彼はルール通りの適切な敬礼をすると背筋を伸ばしてその場を去る。
「くそが、親父に家追い出されるんじゃなかったな。」
ライアンは思わずそう呟く。
早く祖国に帰りたいよ。そうライアンは思いながら、真っ直ぐ背を張りつづける。
上官に対して気を使い、部下の面倒を見て、汚い偽名を使いづけなければいけない。
「何が、良いな?だよ。何も良くねえよ殺すぞ。」
彼の愚痴はまだまだ続く。
「何が大隊長だよクソ野郎、テメエの地位なんて大したもんじゃねんだよ。いちいちムカつくし癪に触るんだよ。あの間抜けが死ねばよかったんだよ。」
彼の愚痴ははまだまだ続くかと思われたが、角からベルが現れる。
「おお、どうした?大隊司令部に用でもあったのか?」
ライアンは彼の恋人、あるいは愛人とも言える彼女に声をかける。
「なんでもない。」
彼女は少し汗をかきながらも、なんでもないと否定する。彼女は大きな男性用のローブを被っていて歩き方が少したどたどしい。
「そうか、なら良かった。」
ライアンはそう言って彼女の横を通り過ぎる。
彼女の視線は彼が整備場の敷地を出るまで彼の背中に注がれた。
しかしライアンの猜疑心に支えられた疑り深さはなら良いとは言わせなかった。
「寝取られたか?」
そう呟くと彼は整備場に小走りで戻り、未だそう遠くないベルの背中を追う。
彼女はまだふらふらとした足取りで歩いており、彼女は警戒しているようでしょっちゅう建物の影や大きな箱の影に視線を飛ばしている。
「よいしょ。」
彼女はその場で急にうづくまる。
その様子をライアンは近くに置いてある段ボール箱の裏からそっと見る。
ニャーン
ネコの声がして思わずそちらを向くとベルの大きなローブの中からネコが3匹溢れ出てくる。
「ここなら安心だよ、気をつけてね。」
そう彼女は猫撫で声で言って離したネコ3匹のお尻をポンポン叩きながら隅の仮設トイレとコンテナの間の隙間に押し込んでいく。
「よしっ。」
彼女はそう独り言を言うと身を翻して去っていく。
「なんだ、ネコに寝取られただけか。」
彼女の様子を見て安心した彼はそう冗談を言うと彼女と同じようにその場を去った。
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西欧から東欧、モロッコからアフリカのツノ、アラブからイラン、南アジアから東アジア、カナダからチリまで。全ての国が混乱に包まれるこの時代、陽の沈まぬ情熱の国スペイン王国も無傷では済まない。
国家が可能な限りの国力を戦争に注ぎ込まなければいけなくなった。
ハッ ハッ ハッ
ザッ ザッ ザッ ザッ
小さな兵士の吐息と軍靴の音が重なる。
彼女は大きな兵隊たちに囲まれている。
肩には小銃、頭にヘルメット、膝や肘には保護用のパッドを付けて胸には太ももと首、脇まで守る防弾アーマー。さらに肩にも二の腕まで守る防弾プレート入りのショルダーアーマーを装備している。
解放軍の精強な様相を見せつけるイメージ戦略は確実に成功したといえるだろう。
こんなイメージ戦略を考えた奴は死んでしまえば良いのに。そう彼女は思う。
ふと、少女は半年前に徴兵され帰ってこない兄を思い出す。最後の家族のことを思い出すと泣きたくなるが、我慢する。
ぽいっ ぽいっ
道端に隙間ないほど並び、歓喜の表情を浮かべる市民たちがいる。彼らは次々と手に持っている花や果物にチョコレート、中にはトイレットペーパーを放る人もいる。
兵士たちの精強なイメージは抜け落ち、兵も将校も市民も全ての顔に笑顔が満ち溢れている。
唯一不満そうなのさ最前列を進む旅団長だけだ。
パシッ
彼女、リタは顔に直撃をもらう。取ってみると真っ黒のブラジャーだ。少しサイズが大きい。
「お嬢ちゃん可愛いぞお!!」
ハゲ散らし汗まみれの小汚いおっさんが野太い声をあげている。リタは一瞬理解できなかったが、すぐに事態を把握しておっさんに投げキッスを返す。するとリタ程度の身長しかないオッサンは小躍りしながら去っていった。
おっさんパーティーナイト。




