メカナイズド・ハート 152話
一切の明かりが光らない暗い一室の中で、両肩に中将章を付けた老人がいる。背後には立てかけられた旗が一つ。前にはダークオークでできたシックな色合いのデスクがある。
そんなオシャレな部屋で、老人は1人の人物と話し合っている。老人は言う。
「まずは中佐への昇進おめでとう。しかしそう気楽に祝ってもいられない祖国は今、滅亡の危機に晒されている。首都のベルリンを締め上げるために北部と東部からポーランド人が、南部からはザクセンとバイエルン人が迫っている。しかし、政府は混乱して何一つ有効な策を取れていない。」
「ですね。」
老人が話している最中に話し相手の疲れ切った女性は、ぶっきらぼうでやる気になさげな合いの手を入れる。頼んでもいないのに勝手にふざけた合いの手を入れられて、老元帥はギロっと目を三白眼にして睨みつけるがすぐに話を戻す。
「ん・・・、そうだ。そして今この連邦には十分な戦力がない。スペイン人相手に植民地で敗退を重ねて、イタリア人は未回収のイタリアの返還で戦争から離脱ドイツ植民地は崩壊、日本人はスペインとの水星植民地紛争で臆して同盟解消、つまりは同盟は当てにならない。本土の軍も激しい分断と長い戦争で消耗しすぎてあてにならん。」
「はあ~、つまりは?」
「うおっほん。つまりは現時点で、祖国を救える者は我ら以外にはいないと言うことだよ。我々の第9軍団の両肩に数億の連邦国民の命と未来がかかっており、全ての国民が我々を仰ぎ見て英雄の到来を心待ちにしている。当然君にもに国家に忠誠を誓った者として答える義務がある。」
「ハッ、もちろんです。」
「よろしい、君の奮闘を期待している。」
「わかりました、祖国万歳。」
老将軍は部屋を退出していく女性将校を、じろじろと見つつもため息をつく。
彼女はこの国家の非常事態において、何を考えているのか?
しかし、彼女はポッド戦においてエースであるだけでなく部隊指揮でも認められた優れた野戦将校だ。
いつの間にかため息をつく癖が誰かから移ってしまったのかもしれないとボンヤリと考えつつ、そばにある地図を見る。ベルリン周辺に集まる3つの色とりどりの旗が付いたチェスのナイトがある。ベルリンの上にはキングだ。
ため息などだれからも映ってはいない。そう、この現状が歴戦の元帥にすらため息をつかせているのだ。もはや作戦本部の些細な指示を受ける余裕もないだろう。
「祖国を救うために、私もやらなければならないことがあるな。」
老中将フリッツ・ハーパーは自らの戦いで疲れた体をそっとさわる。
「私の体は死にかけている、しかし脳はまだ動いている。」
彼の疲れた目にはいまだ仇敵たちと一戦する光が残っている。




