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第一話:転生

処女作なので優しくしてもらえると嬉しいです。



ー テーブルは回る


ー テーブルは回る


しかして卓の上には、笑顔で囲む家族の顔も、平和も争いも、ただ一欠けらのパンくずさえもなく―


―ただ寂しげに、一缶の酒があるのみだった。



人は彼を不幸だと嗤うだろうか。

27回目の誕生日を少し過ぎたのち、彼の人生はあっけなく終わりを告げた。


その日も残業の後、最寄り駅を降りてすぐのコンビニでス◯ゼロ500ml缶(プレーン)を3本買い、内1本を一息に飲み干しながら家路へ足を進めていたところだった。

鬱屈した業務、意義があるのかもわからない残業。

喉を焦がすアルコールと炭酸が、塵芥にまみれた一日を浄化してくれる。

この1本目は神の恵み。彼の無垢な人間性を取り戻す、言わば聖水なのであった。


足取り軽く、まるでオペラの演者のように歩きながら酒を飲む彼を咎める者は誰もいない。


観客は黙して語らず。

ただ、路上に転がるどこかの酒場で散っていったであろう同胞達が彼を見送る。


ここはヒガシオ〇サカ。

死ぬことも生きることも許されない、機械と欲得が支配する暗黒の王国である。



付近に撒き散らかされた楽しかった頃の記憶を軽快に避けながら、彼は握りつぶした空き缶を放り捨てる。

くしゃくしゃになった空き缶が転がる先、そこには地面に四肢を投げ出した若者の成れの果てがあった。

朧げに光る吐瀉物に沈んでいるそれに近づくと、彼は貧者に施しを与える聖者のように身を屈める。

しかし吐瀉物の光を受けて映し出された青年の顔は、聖者には程遠い幽鬼のように、若者を睥睨していた。

光るソレにはメッセージが記されており、若者のそばには

「太陽万歳」

とだけ記されていた。


「相も変わらずここは酷いな」

青年は謡うように呟いて、慣れた手つきで若者のN〇KEのパーカーをまさぐり、出てきた財布から二千円ほど抜いた。

明日か今日の分になるのか分からないスト〇ロ代のためだ。

若者の財布にはまだ四千円ほど残っていたが、獲りすぎは生態系を崩す。

この街に来てすぐの頃、歯の抜けた老人に教わったことだ。

彼の住むヒガシオ〇サカは酔いつぶれた者の財布から金を抜くことで生計を賄うものが一定数おり、そういった者が酒場やスーパー、コンビニに酒代として金を落とすことでその店が生き長らえる。

店が無くなればアルコールを求めて中毒者達は街を去る。そうして滅んでしまったネ〇ガワという街もあった。

「サークル・オブ・アルコールや…」

これも、歯の抜けた老人が路上に転がる中年の財布から、有り金全てと思われる五千円を抜いてる様を見ながら教わったことだ。


クジラの遺骸には魚が群がり、やがてそこには一つの生態系が構築される。

海底の楽園のような世界が、そこにはあった。



「…ここあるのは海水じゃなくてタバコと工場の煙で、クジラの遺骸は俺の末路かもしれない、か」

己への縛めのように独り言ちながら二本目を明ける青年は、しかし今宵の収穫に上機嫌で、故に路上の若者の傍らにあったもう一つの吐瀉字(メッセージ)に気づかなかった。

或いはス〇ゼロに含まれた恵み(アルコール)が、彼の思考能力を下げていたからかもしれない。

とにかくそこには、こう記されていた。

「待ち伏せに注意」



若者から離れようとした直後、背面から暗銀の輝きが青年を襲った。

冷たい感覚が己を貫き、瞬時に熱した鉄を流し込まれたような灼熱がほとばしる。

ぐっ、っと食いしばった歯から漏れ出た呻きとともに、決して少なくない量の血が零れ落ちる。

たまらず地面に尻もちをついた彼を、手から落とした恵みの水と、体からとめどなく溢れ出る血が迎え入れた。(恵みを授かった体(アルコールが入っている状態)では出血量が多くなる為)

彼は背後から刺されたと瞬時に理解したと同時、神の恵みに感謝した。

彼の体を循環する恵み(アルコール)が、痛覚を鈍らせたからである。


背中を駆け巡る激痛に身を捩らせつつ、せめて自分を襲った奴を確かめようと青年が振り返ると、

そこにはいつぞやの歯の抜けた老人がいた。

その風貌にはかつての柔和な笑みはなく、ただ修羅のような形相で、血に塗れた30㎝ほどの得物を握っていた。

「五千円の恨み…忘れたとは言わせんぞ…」


なんのことかと必死に思考を巡らせる青年は、

この街へ来たばかりの頃に歯の抜けた老人へ、

「では、オレが金剥ぎをしようと恨むまいな。オレもそうしなければ、中毒死をする体なのだ。」と吐き捨てると同時に老人の後頭部へ鋭い回し蹴りを放ち失神させた事、老人が抜き取った五千円を持って帰ったこと、その金で買ったスーパーの半額寿司が極上の晩餐だったこと、そしてス〇ゼロがいつもよりうまかったことを思い出した。

他にも思い出すことがあったような気もしたがアルコールと日々のストレスでうまく思い出せなかったし、何より全て朧気だった。

彼は明滅する意識に抗いながら、残り一缶となったス〇ゼロをこれだけは渡さないと抱え込み、

「ス〇ゼロ…」

と言った。

かくして、どこにでもいるような青年の人生は、あまりにもあっけない事故で幕を閉じた。



…これは事故ではない?

それは読者諸君の地域での話だろう。

しかしここ、ヒガシオ〇サカでは事故として処理される。

この町では自転車の盗難のようによくあることで、人の命は自転車よりも軽い。

つまるところ、青年は運が悪かっただけなのだ。



人は彼を不幸だと嗤うだろうか。


もうお分かりだろう、この悲劇が単なるではないのだと。

そう、彼は重度のス◯ゼロ中毒s…もとい信仰者だったのだ。


これで、同情の余地は全くなくなったと思う。



「気がついたかい?」

彼は聞こえた声に一抹の疑問を抱き、次に開けた視界の白さに眼を細め、そして自分が生きていることを理解した。

声のする方を向くと、上物と分かるジャケットに身を包んだ老紳士が彼を見下ろしていた。


青年はその場で軽く伸びをし、体の状態を確認し、傷がないことを確かめた。

そして考えるが早いか、低くクラウチングスタートのような体制をとり一息に老紳士へとびかかった。

勿論、老紳士の衣服を剥ぎ取るためだ。

「え、何!?ちょ、怖!痛っ!痛い!やめなさい!やめなさい!やめなさいと言っとるだろ!」

しばらく、剥ぎ取ろうと悶着していたが老紳士の体から電流が放たれた為、反射的に身を離した。

「いやぁ、君の地域から飛んでくるやつ、大体こういう感じだから、すげぇ嫌なんだよぉ…マジでなんなの、ヒガシオ〇サカ…」


その言葉に反応するが如く、青年は再び老紳士へ飛び掛かろうとした。

厳密に言うと青年はヒガシオ〇サカ出身ではないがヒガシオ〇サカを故郷同然に想っていた。

老紳士の言葉はそんな彼を憤慨させるのに十分な理由を帯びていたのだ。

ヒガシオ〇サカの誇りを示すとともに老紳士の衣服でス〇ゼロ代を賄おうとサバンナのチーターよろしく襲い掛かる。


「ごめんごめん!この服も金にならないし、金目のものも持っていないから!」


老紳士がそう言うと、青年はその場に座り込んだ。無駄な体力を消耗することは避けたかった為だ。

「マジで蛮族よりヤバいじゃん…マジで何なの…あ、ごめん、怒んないで!ほんとごめん!

言葉には気を付けます!

えーと、説明したい話なんだけども、まずね、君は不幸にも死んでしまいました!自業自得と私は思うけどね…

嘘!ごめん!いやぁ若いのにかわいそうだなぁ!

そんでね、死んだ人は通常の場合、天国か地獄に行くんだけど、君ねぇ、天国もね、地獄もね、どちらでもない判定が出てるんだよね。パッチの色見て欲しいんだけど」


そう言われ、青年が腕に貼られていたパッチを見ると

パッチの上半分が銀色に、下は半分が黒色に染まっていた。

青年にとっては親の顔より見た配色だった。


「通常の場合、全体の色が白寄りなら天国、黒寄りなら地獄ってなるんだけども、

 この神業務担当してから初めてね、銀色ってのを見ました!なんでね!どちらに行くか判別が出来ないって状態になります!申し訳ない!」


「天国以外考えられないでしょう」

老紳士が言うが早いか青年が切り返す。

これまでの自分の生活を省みて、天国に行かなければどこに行くのだろう、という確信があった。


神と名乗った老紳士はたじろぎながら

「いや、どう考えても地獄でしょ…どっからそんな自信沸いてくんの?いや!そうだよね!

ごめん!天国だよね!だから体の伸びするのやめよ!なんでそんな腕っぷし強いの!?

修羅の国出身の奴より数倍は強かったよ!?」


ヒガシオ〇サカは戦わなければ生き残れない、獣が嗤う街である。

常に喰うか喰われるかの運命の中彼等は生きている。

だからこそ、より強く、逞しく、畏く、卑しい者こそが生き残るのだ。

そこで8年以上暮らしていた青年が弱く脆いはずがなく、老いて非戦闘系とはいえ神の中の一柱である老紳士も恐れるほどの腕っぷしを持っていたのだ。


「で、天国にも地獄にも判定の出ない人は特例として異世界に転生が出来るんだけど、どうかな?君のその力で異世界を救ってみて欲しいんだよね!」


所謂、異世界転生というやつである。

青年は学はないが最低限の思考能力は持っており、何より無条件で他人の要求を呑むことと無益な労働が大嫌いであった。


「そちらの要求を呑んでもいいがこちらからも条件がある、転生先にこの酒はあるのか?」


青年は死の間際、大事に抱え込んでいた一本の缶チューハイを掲げた。

ス◯ゼロである。

青年の異常なまでのス◯ゼロへの執着が転移の際にス◯ゼロを供とすることを可能にしたのである。


「酒はあるがそのようなタイプの物は見たことがないねぇ、でも美味しい酒や食べ物はたくさんあるよ!」


「…美味い酒だって?」

青年は動揺した。

異世界にはス◯ゼロより美味く、酔える酒があるのではないか?という一抹の希望が頭の中を駆け巡る。

思わず「ス◯ゼロより美味く、酔える酒があるか?」と問おうとしたが、その思考をに陥ってしまった自分を激しく嫌悪した。


ス◯ゼロより美味く、酔える酒がある…?否!そんなものはない!!

それが不文律。それこそが絶対の理。そのはずなのに、一瞬でも絶対神であるス◯ゼロを疑ってしまった。

いつも自分を慰めてくれたス◯ゼロ、辛い労働を忘れさせてくれたス◯ゼロ、故郷での悪い思い出を忘れさせてくれたス◯ゼロ、彼の生活には常にス◯ゼロがあった。

希望だと?そんなものは絶望、神への冒涜でしかない!!!

青年の頬を一筋の涙が伝う。(ス◯ゼロではない。いかに彼と言えども目からス◯ゼロを流すことはない)

それは聖母の慈悲のように、清らかで美しい信仰であった。


そんな青年をよそに、そんなに嬉しかったのかと老紳士はにこやかに微笑みながら転生条件を設定していく。

かくして老紳士が取り付けた転生条件は、以下のようなものである。


・転生特典として元の世界の物品を直接渡すことは出来ない。

・元の世界に戻すこともできない。

・酔いに関わるもの以外の体調不良にはならない

・魔法を使うことが出来る魔力回路、魔力量は人並みに授ける。

・物の判別が可能、言語が分かる

・内部に入れたものが劣化しないアイテムボックス魔法の授与

・職業は錬金術師


些か老紳士に有利な条件ではあったが、老紳士は割とお人好しなところがあり、最後の職業を錬金術師にしたこと以外は通常の転生者と同じような条件を取り付けていた。


勇者や戦士にしていればステータス補正がかかり、戦闘面で手の付けようがないと考えたのである。


「君がこれから行く世界は魔族と人間が対立しあう戦乱状態にある。

君はその腕っぷしや錬金術の力で世界をいい感じにして欲しい!頼んだよ!」


「俺はストゼ―」と言い切れないままに青年は異世界へ転生させられた。


「いやぁ、今回の子も手強かったなぁ…ヒガシオ〇サカって下手な異世界より終わってるんじゃない…?」

老紳士は青年という驚異の去った部屋で安堵のため息をついた。

そして、床に落ちていた銀色と黒色に配色された缶チューハイを見つける。

ス◯ゼロである。


老紳士は何を思ったかそれを青年のアイテムボックスの中へ入れた。

「何も持たせないのは可哀想だし、あれだけ好きなら一本くらいはね…」


この錬金術師という職業選択、ス◯ゼロを"一本"だけ青年に授けたこと。

これが後に異世界を動乱の渦に巻き込む大きな火種になるとはこの時、神でさえも知らなかったのである。

そう、ここはまるで世界中に見放されたみたいなヒガシオ◯サカ

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