第5章 手荒い歓迎
今後の展開を考え、タイトルを変更しました
読んでいただけると嬉しいです
村を発ってしばらくの間、二人に会話は無かった。
しかし、その沈黙に耐えられなくなったアッシュが話し始めた
「なぁ、、いつまで黙ってるんだよー」お喋りなアッシュにとって沈黙は辛いのだろう。
「なんであんな事したんだよ、、任務の内容は暗殺のはずだっただろ」声に元気がない有心。
「すまん有心、悪いと思ってるよ。今だから言えるけど、こうするのが俺の任務だったんだよ」
「どうせ対象は殺すのに何で俺に暗殺と嘘をついてまで、派手に殺す必要があったのか俺には理解できない」
「ハンター達を殺すのが目的ってよりは、お前の適性を試すのが本当の目的だったんだよ」
「なんのために??弱い俺なんて殺そうと思えばすぐに処分できるはずなのに」まだ腑に落ちない有心は納得できないでいた。
「話すと長くなるし、帰ってからでいい??」
「どうせ拒否権ないだろ」
「正解!」
そうして二人は帰還した。
アジトの入り口に着いた時にはすでに朝になっていた。
洞窟に入ると、奥から隻眼で俺をヴァンパイアにした張本人のアゼムがやってきて、後ろには四人のヴァンパイアを引き連れていた。
「お疲れアッシュ。有心だったかな?生きて帰ってきたということは合格したようだな。初任務どうだったかね?」裏の目的をアゼムは知っていたが、表情ひとつ変えずに有心に聞いた。
「ありがとうございますアゼム様。」そう言ってアッシュは少し頭を下げ、アゼムに敬意を払った。
「どうにか生きて帰還できまし」そう言って有心はアッシュの真似をして、少し頭を下げて敬意を払った。
「そうか」 一言だけ返すと歩いて行ってしまった。
付き添いのヴァンパイア達は、こっちを振り返りアッシュに手を降ってからアゼムの後を追って行った。
「アゼム様に勝てそうか?」ニヤニヤしながらアッシュが意地悪に聞いてきた。
「あと500年あれば」てきとうに500年と言ったものの、それでも足りないんじゃないかと有心は思った。
そして戦闘を経験したからだろうか、アゼムの放つ雰囲気や動作は自分とかけ離れたレベルにいると悟る事ができた。
「それは楽しみだな。俺はとりあえず報告してくるから、食堂で待ってて」
そう言ってアッシュは去っていった。
動物の血の匂いを頼りにどうにか食堂までたどり着いた有心は、扉を開けたと同時に中から悲鳴と歓喜する声の両方が聞こえた。
「うわぁぁぁ、、」 「よっしゃあぁぁ」
どういう状況か掴めないでいると、喜んでいるヴァンパイのグループが有心を囲み、肩を組んできた。
「お前さんが無事帰ってくるか来ないかを賭けてたんだよ。新入りが来たときの恒例行事みたいな物だから気を悪くしないでくれよ。次に新入りが来たらお前さんもこっち側になるんだしな」
そうして賭けに勝ったヴァンパイアたちは負け組達から、戦利品を巻き上げに向かった。
嵐のように訪れ去っていった連中に呆気に取られていると、後ろから肩を叩かれた。
「なに突っ立ってるんだ」 声の主はアッシュだった。
「いや、急な出来事に驚いてただけ」
そう言って二人は席について料理を待っていると、さっき話かけてきたヴァンパイアが二人の前に座った。
「さっきは自己紹介できなくてごめんな新入り君。俺の名前はジンよろしく」
「よろしく。俺は有心」
ジンと名乗ったヴァンパイは見た目は若そうで20代前半に見える。
「ジン! 俺にも挨拶しろや」アッシュが横槍を刺すと、二人は楽しそうに話始めた。
「有心!賭けに勝たせたくれたお礼にこれやるよ」思い出したかのようにジンは懐から人間が通貨として使っている金貨を一枚取り出し、有心へと渡した。
「ありがとう。 けど俺たちに人間が使うお金が必要なの??」
「まだその辺の説明をアッシュはしてないのか??」ジンはアッシュの方を見る。
「これからするところだったのにギャンブラーなヴァンパイアに邪魔されたんだよ」そう言ってジンを見返すアッシュ。
「これは失礼した」ジンはまた嵐のように去っていった。
「全く迷惑な男だよ」
そう言いつつもアッシュの表情はジンと話せた事に喜んでいるように有心には見えた。
「ジンとは仲良いの?」
冷酷で人と関わりを持たないイメージがあった有心にとって、この世界のヴァンパイアのコミュニティはどの様に形成されているのかは興味深いところだった。
「仲良いぞ!ヴァンパイアになった時期も近くて、同期みたいな感じだな」
有心はアッシュの過去について聞こうとしたが、それは叶わなかった。
「そんな事より、さっさと必要なこと説明するから聞けー」
アッシュによる授業が始まった。
「さっき貰った金貨は人間との取引に使う。人間の中にも、利益の為なら俺たちと取引する連中もいるからな。そうした人間との取引は原則、人間が使う通貨を使用する」
「原則ってことは例外もあるの?」
「ある。殺し屋や破壊工作などの任務を請け負う代わりに、物と交換する。けど、このパターンはほとんど無い。人間のゴタゴタに巻き込まれるのは面倒だからな。」
さらにアッシュは続けた。
「次に、俺たちの派閥についてだ。俺たちの中にも5英血が筆頭になって、形成してる派閥がある。 5英血ってのはお前を尋問した5人のことな!
アゼム様を筆頭にした 龍への昇華を目指す派閥
ハーグ様を筆頭にした 人間を管理し、ヴァンパイアの世界を築こうとする派閥
(ハーグはスキンヘッドで褐色の肌をしたヴァンパイで、尋問の時にいた5人のヴァンパイアの中の一人)
ブライトン様を筆頭にした 必要以上にヴァンパイアを増やさず、人間と共存を目指す派閥
(尋問の時に右から2番目に座っていて、有心が仲間に加わる事に賛成しなかった青い髪をしたヴァンパイだ)
残りの2人はこれといった派閥は作ってない。
どの派閥に入るとかの宣言は必要ないけど、いざとなった時に自分はどの派閥に着くのかは決めといた方がいいぞ。ちなみに俺はアゼム様の派閥だから!」
「なるほどな、、。けど何の為に龍に昇華するんだ?」
「龍へと昇華したヴァンパイは願いを叶えられるって言われてるんだよ。昇華する為の条件などは分かっていなんだけど、長寿の俺たちには目的があった方が楽しいのさ!
本当に願いが叶うか分からんけどねー」
「アッシュの願いはなんなの?」
「ひ!み!つ! 教えないことが昇華の条件かもしれないからな」そう言ってアッシュは笑って誤魔化し、教えてくれる事はなかった。
「なら、それ以上は聞かないことにするよ。 派閥間の争いってあるの??」
「ほとんどないな。俺たちヴァンパイアは人間に対して数が少ないから、内輪で揉めてると人間が同盟を組んで攻め込んで来るかもしれないしな。みんな水面下で、ここぞって時まで牙を研いでるのさ」
「俺たちも無敵ってわけじゃないのな」
「そういうことー。細かい事はおいおい説明するから今日はそろそろ休むか。それと明日は王都に行くからなー」
そう言い残し、アッシュは食堂を去って行ってしまった。
洞窟内は暗いので時間感覚が狂うが、外はまだお昼くらいなので有心はまだ休む気にならなかった。
人間であった時の生活リズムがまだ体に残っていたのだ。
そこで有心は1人で洞窟内を探検する事にし、食堂を出たのだが洞窟はどこまで行っても洞窟で、景色が変わる事がなかったので五感を頼りに探検する事にし、
耳を澄ませると金属がぶつかり合う音や叫び声が聴こえたので、そちらに向かう事にした。
おそらくヴァンパイアは皆、匂いや音を頼りに迷う事なく洞窟内を移動してるに違いない。と考えているとサッカーグランド一面分はあろう大きな広場に着くと同時に音の正体にも気づいたのだ。
そこには20人近くのヴァンパイアがいて、その広場はただ広いだけでなく、木製のヤグラが立っていたり、岩を積み上げて足場が悪い状況を再現してたりされ戦闘訓練に使われていたのだ。
訓練といってもみんなで何かをするのではなく、一対一の勝負が至る所で行われている。組織力ではなく完全に個人を高める為にみんな此処の場を使ってるようだ。
「お前、新入りだろ」
広場の入り口に立ってて有心に1人のヴァンパイアが話しかけてきた。
上から目線で見下す様に有心を見ているそのヴァンパイアは筋肉質で身長は2メートル近くあり、背中には背丈ほどあるハンマーを背負っている。
「そうだ。名前は有心」
舐められない様に、睨み返す有心
「生意気な新入りが。 戦闘で足手まといにならないか俺が確かめてやるよ 着いてこい」
「やってやるよ」
ここまできて断ることなんて出来ないし、一度戦闘を経験した自分がどこまで通用するのか確かめる最高のチャンスだと思った有心は少しワクワクしていた。
その男に付いて行き、広場の中央に付近に向かって歩いていった。新入りがこれから戦うとなれば注目の的で戦闘してた他のヴァンパイア達は手を止め、これから始まる有心の戦闘を見る為に周りに集まってきた。
「新入りがんばれ!」「死ぬなよー」「ビビて泣き出すなよ!ギャハハ」 「ドルジ、新入り殺すなよー」どうやらこれから戦う大男のヴァンパイアの名前はドルジという様だ。
野次や応援が入り混じり、気がつけば広場にいたみんなが観戦しに来ていた。
「このへんでいいだろう」
そういってドルジは足を止め、有心の方に振り返り正面で向かい合う形で立った。
「剣を抜け新入り」
ドルジも背負っていたハンマーを構えた。
読んでいただきありがとうございました
これからどんどん戦闘や人間との関わり、政治的な要因が絡んできて盛り上がっていきますので
そちらも読んでいただけると嬉しいです