子竜
少数のゴブリンとの戦闘後、カヤが投げ捨てたゴブリン達の素材的価値についてカヤに聞いた。
「はあ!ゴブリンなんか何処の部位も価値なんてないよ。あれでも人に分類されるだから共食いになるよ?」
「あ~、それは嫌だな」
「でしょう、どうせ狙うならゴブリンキングとか彼奴らの地位が高い奴を狙えば装備品とか値がつくと思うよ。奴らはそういうのに鼻が効くから」
「そうなんですか?カヤさん」
「ええ、奴らはドラゴンと同じで価値もわからない癖に良い物を溜め込むんだから厄介よね」
和気あいあいと山を登っていく。
時折、ゴブリンが少数で現れるが苦もなく倒していった。
中程を過ぎるとゴブリンも飛び道具を使ってくる奴が混じってくる。
「飛び道具も使えるんですね?」
「下っぱのゴブリンは使うね。その内に魔法を使う奴も出て来ると思うよ」
「ええ!ゴブリンが魔法を使うんですか?」
「うん、たまに知能が高い奴が出で来るから厄介だよね。まあ、子竜にはいい経験になるから丁度いいんだけどさ」
「その子竜は、どの辺りを縄張りにしてるんだ?」
そろそろ、その子竜も警戒しなくてはならない位は近付いたと思い直斗が聞いた。
「この山全部だよ。町には行かないようにしてるから安心して」
「なら、山に踏み入れたら狙われるのか?」
知らぬ間に危機的状況に陥っていた事に危機感を抱く。
子竜とはいえ、まだ直斗達には荷が重い相手だ。
「人間は襲わないよ。一度でも襲えば逆に狩られるだけだからね。今回は直斗にそれを教えてあげてほしんだよ」
「いやいや、無理でしょう。相手はドラゴンでしょう?」
「そこを何とか」
「………何とか出来る相手なの?」
「だぶね。アイツは戦いを舐めてるから」
「どうしてですか?」
「命の危険を感じる程の敵がいないから。それでいて知力ではゴブリンに負けている。奴等は下っぱゴブリンを犠牲にして生き延びる知恵を持ってる。逆にあの子は目の前の事にしか頭が回らない馬鹿なんだよ」
どこか、悲しそうな瞳を見せるカヤに直斗はそれが母親のような感情だろうかと思った。
もうすぐ次の休憩小屋に着く所まで登ってきた。
ここからはゴブリンも更に強い個体がたむろしているらしい。
カヤの話だと子竜に襲われたゴブリン達は自分達で掘った穴の中に集落を作って活動しているらしく、幾重にもこの山に穴を掘っては活動区域を広げている。
「それだと、やっぱり危険なんじゃないですか?」
「どれだけ数がいてもゴブリンなんだよ。子供とはいえドラゴンに傷をつけられるはずがない。だから増長したんだけどね」
「子竜はいいけど、僕たちには危険な存在だよね?」
「あ、ああ!そういう意味では危険だね。少なくても300は居るはずだから。近々、間引きをしようと思っていたから丁度いいね。直斗、お願いね」
ここにきて、目的以外のお願いをされるとは思っていなかった直斗は硬直してしまう。
「そんなに固くならなくてもいいじゃない。普通に山頂まで行く間に出で来る奴を倒して子竜も泣かしてくれればいいからさ」
アハハと笑うカヤに半目で睨む直斗。
どちらにしろ出てきたら倒さなくてはならないので、直斗はため息をつきながら進み始めた。
「もうすぐです。もう見えてますよ」
雪山で汗をかきながら進んでいる一同は次の休憩小屋が見えるぐらいの場所まできて、表情が明るくなる。
「………………おかしいわね」
「?、何がです?」
「ゴブリンが出てこないのよ?私達が登ってきているのは知っているはずなのに変よ」
「カヤさんが居るから襲ってこれないんじゃ?」
「それは無いわ魅沙。奴等は力押しがメインだから、3人しかいない私達を襲わないはずないのに………まさか子竜のせいかも?」
「あのさ、カヤさん」
「何よ直斗?」
「子竜に名前は無いのか?あの子とか子竜とか呼んでいるけど」
「無いわよ。私は子守りで子竜の主人じゃないもの。名前を付けたければ子竜と主従契約でもしなさいよ」
「うわ!直斗さん、ドラゴンマスターですか。凄いです」
「いや、それは無いよ。僕より魅沙さんの方が機会があるじゃない?」
「?。どうしてですか?」
「だってその子竜って、男でしょう?」
いままでのカヤの話を聞いていると、直斗には子竜が女だとは思えなかった。
まあ、ドラゴンの性別なんて見ただけじゃわからないが。
「男じゃないわよ。お転婆な女の子よ」
「………やっぱり、直斗さん向きですね」
「直斗、まだ子竜だから止めてよね。せめて後、100年は待ってほしいわ」
それぐらいなら子竜から成竜に成りかけなので大人として扱うので構わないらしい。
「そんな予定は無いので大丈夫です」
「まあ、あの子も色気より食い気だから平気かな?………………あっ!」
突如、声をあげたカヤはいきなり走り出した。
「え?」
二人を置いて走り出したカヤは休憩小屋に向かって走っていった。
直斗と魅沙は顔を見合わせ、カヤの後を追った。
「アハハ、砕けろ!」
「子竜!何をしてるのよ!」
ゴブリン十体程、積み上げて遊ぶように足蹴にしている。
それを前にしてカヤが不機嫌そうな表情をしている。
「ん………カヤ姉!人間を迎えに行ったんじゃないの?」
「もう行ったわよ。ほら、あそこよ」
「お、本当だ。雄と雌だ」
直斗達が近づいて見るとカヤの前に女の子がいた。
親しげに話をしている。
遠くて聞き取り辛かったが、どうやらあの子竜らしい。
こちらを見つめる黒の洋服を着た黒髪の少女。
金色に光る瞳がこちらを興味深げに見つめている。
「その子は?」
「ああ、この子は………」
「私はドラゴンだよ。ほら!」
カヤの言葉を遮り、ドラゴンと名乗った少女が背中から翼を広げて直斗達に見せる。
「えっ!………本物ですか?」
「そうだよ。触る、人間の雌よ。ドラゴンの翼なんて滅多に触れないよ。レアだよレア!」
恐る恐るドラゴン少女の翼に触れる魅沙は興奮して顔が上気している。
「で、何してたのよ」
腕を組みドラゴン少女に問いかけるカヤ。
「散歩してたらさ、そこの休憩小屋の前でゴブリン達が集まっていたから襲って食事にしてた」
身ぶり手振りを交えて説明するドラゴン少女。
それを黙って聞いていたカヤは笑みを浮かべ、それなら良しと言って少女の頭を撫でる。
「エヘヘ」
目を細めて喜んでいるドラゴン少女、二人が並ぶと仲の良い姉妹にも見えるがドラゴンが人に姿を変えているのにも驚いた。
「ああ、ごめんね。この子が居るのが分かったから慌てちゃって」
「いえ、それはいいのですが………………」
「ん?………ああ、人の姿をしているのにビックリした?」
言いよどんだ直斗を見て察するカヤは改めて直斗達にドラゴン少女を紹介した。
「この子が私がお守りしている子竜よ」
ドラゴン少女の横に並んでその頭に手を置くカヤ。
「私がお守りをされているドラゴンだ。直斗に魅沙?ヨロシク!」
カヤの教育の賜物なのか、ドラゴン少女は直斗達に挨拶をする。
直斗達も挨拶を返して、とりあえず休憩小屋に行って話をしようとなったので全員で小屋に向かった。




