力不足
直斗達が階段をおりて行くと岩でできた扉があった。
それを開けて次の階層に入る。
そこで目にしたのは見晴らしの良い崖の上だった。
下を覗くと人の気配が無い民家と、その周りを囲む城壁。
それが離れた位置に2ヶ所あるのが見えた。
「あれはなんのだ?」
「さあ、行けばわかるでしょう」
直斗は周りを見渡して下に降りられる場所はないかと探す。
「マスター、あちらに下に行く道があります」
白夜の声に従って、そちらを見るとなだらかな斜面になっている道があった。
「これだけ見晴らしがいいと、何かが出てもすぐわかる。それでも油断せずに慎重に行こうか」
白雪を先頭に下にくだる道を歩いていく。
障害物がなにも無い平坦な空間、存在するのは城壁に囲まれた町のみ。
直斗は一番近くにある町に向かう。
近づいてみると3メートル程の城壁。
むき出しの地面に道らしき物は無く直斗達は入れる所を探すべく城壁に沿って歩く。
「あっ、あれではないか?」
ティーアが城壁の一部がこれまでと違う形になっているのを見て声をあげる。
近づいてみると、確かに門のようになっていた。
「門だね、開くのかな?」
直斗の呟きを聞いたのか、城壁の門が開く。
「開きましたね。マスター、行きますか?」
直斗は皆に頷いて町の中に入っていった。
この広い空間の天井から光が広範囲に照らしているため、明かりをつけずとも大丈夫なのだが空き家に入ると薄暗い。
「なにも無いのだな」
試しに家の中に入ってみたが、何も無くガランとしている。
家だけを造り、中までは再現していないらしい。
「どうしますかマスター?」
白夜に問われたが、直斗にもあてがあるわけではない。
それでも気になるとすれば、この町で一番大きい建物があった所をだろうと見当をつけてそこに向かう事を提案する。
「わかりました。行きましょう」
入った家を出て、町の中央付近にある一番大きい家に入る。
ここだけ高い壁に囲われていて、特別な家に見える。
(さて、何が出るかな?)
一同が揃って家の中に入るとパッと家の明かりがついた。
明かりがつくと家の様子がよくわかる。
玄関前はホールになっていて、中央に2階に上がる階段がある。
1階には部屋の扉は無く奥に続く廊下が見える。
2階には部屋が有るようで何室か下からでも確認できた。
「なっ、なんなのだ?明かりがついたぞ」
「う~ん、出迎えかな?」
「出迎えですか?相手は管理者ですかね」
「たぶんね。もう少し奥の部屋にいってみようか」
そう直斗が言うと、1階の奥へと続く廊下に明かりが灯る。
「誘われているのですかね?」
「たぶんね。とりあえず行こうか」
罠かもしれないが、ここに居ても進展がない事から直斗達は誘われるままに奥へと進んでいった。
直斗達が進むたびに照らされる明かりを頼りに進んでいくと突き当たりに部屋に入る扉がある。
「この中に入れって事かな?」
直斗は扉を開けて中に入った。
中に入ると家具も無いガランとした室内の中央に置物のように水晶が1メートルぐらいの台の上に置いてあった。
「あ~、あっアッ!テステステス」
「「「あ~、またか!!!」」」
直斗達は上の階層で大猿ゴーレムが話し出した事を思い出して声をあげる。
「すみませんねぇ、芸が無くて。なんせここに来た人は居なかったので」
「はあ!ここに来たものが居ない?」
「ええ。あなた達が最初の人です。ですので………………何をすればいいでしょうか?」
「………………………はい?」
水晶が発した言葉に直斗達は揃って間の抜けた声をだした。
「いや~。ここはエルフ用の施設であって、人間さんは想定していないんだよね」
「いやいやいや、上では相手をしてもらいましたよ?」
「う~ん、それなんだけど彼も苦労したと思うよ。今までエルフさんしか相手にしてなかったからね、君も手応えを感じなかったでしょ?」
「いや、強かったよ」
「そう?なら上手くやったんだ。でも君達が来たということは完璧じゃなかったということだ」
「それで?」
「あぁ、それでどうしようかと皆で相談したんだけど結論がでなくてね。なので暫くまってくれるかな?」
水晶がそう言うとティーアが怒りの声をあげる。
「待つだと?何を言っている!お父様やお母様が眠っているだぞ!早く助けたいのだ」
「なら君だけが試練に参加すれば良い。それなら直ぐに用意をしよう」
その声を聞いてティーアが俯く。
水晶の言う通り、ダークエルフであるティーアが試練に合格すれば両親が帰ってくるがその自信がティーアには無かった。
「私一人では無理なのだ。力が足りない」
悔しそうに呟くティーアを直斗が優しく頭を撫でる。
「暫くってどれくらい待てばいいんだ?」
「そうだね、3日まってほしい。そうすれば君の仲間も近くまで来るはずだからさ」
えっ?と直斗は驚く。
「氷依達が近くまで来ているの?」
「そうだよ。今は君達が最初に行った部屋で試練を受けているよ」
水晶からそう聞いて直斗は思わず天井を見上げる。
「君達は本当に優秀だよ。頭の固いエルフ達を見習わせたいよ、まったく。だから最後の試練は相応の準備をして行いたいんだ」
「最後ですか?」
「そうだよ。これをクリアーできたら皆が帰れる。僕も貴重なデータがとれるから一石二鳥だよ」
この言葉を聞いて直斗は、あぁ~。確かに日本人がこれを作ったのだなと納得した。
「わかった、3日待つよ。それまで好きにしていいんだろ?」
「この階層から出なければ好きにしていいよ。ただし向こうの町には行かないでね。彼方で試練の準備をするから 」
わかったと頷いて直斗達は水晶が置いてある部屋を後にした。
「さて、どう遊ぼうか楽しみだね………………」
誰も居なくなった部屋で水晶が楽しそうに呟いた。
屋敷の玄関ホールまで戻り直斗達は家を出る。
「ティーアには済まないけど、3日待つことになった」
「ん、しょうがないのだ。私だけでは試練を突破できない。もう何十年も待ったのだ数日ぐらい何ともないのだ」
「フフ、ティーアさんの強がり屋さんですね」
「つ、強がりではないぞ。直斗達を信じているのだ」
からかい気味の白夜にティーアが真面目な顔で言い切った。
「フフフ、なら私もティーアさんの両親を助ける為に最大限の力を貸しますわ」
白夜が笑顔をティーアに向けて言った。
「あ、ありがとう」
照れ臭そうに言うティーアは白夜を直視できずに視線を泳がせていた。
「なら、力をその時まで貯めよう。全力で試練にあたれるように」
直斗はそう言うと、泊まるために空いている家を見て回った。
全部が同じ家だと思ったが微妙に違う構造をしていた。
どうせここから3日は動けないのなら住みやすい家がいい、直斗は白夜達と相談して過ごしやすい家を探し回った。
なにせ3日も暇な時間があるのだから。




