押してダメなら引いてみろ
(大猿ゴーレムが笑った?)
直斗はそれを見て戦慄が走った。
操られているとはいえ、ゴーレムが感情を露にしたように見えた。
ただそれだけなのに言い知れぬ不安が過る。
お互い距離をとり対峙する。
あの動きはこれまで戦ったゴーレムにはない動きだった。
「ティーア!この敵は強い。気を引きしめてあたれ!」
「あっ、はい!」
いつも直斗とは違う雰囲気にティーアは思わず、背筋を伸ばして返事をした。
大猿ゴーレムは直斗を見つめている。
先程の動きから直ぐに攻撃が来るものと思っていた直斗だが、大猿ゴーレムはその場から動かない。
防御主体でこられると正直、打つ手が少なくなる。
それでも直斗は前に出た。
「白夜、行くよ!」
隣にいる白夜に声をかけて、直斗は大猿ゴーレムに向かっていった。
正面から突っ込んでくる直斗に大猿ゴーレムは盾を前にだして構える。
直斗は盾側、白夜はメイスを持っている右側に移動して攻撃を始めた。
攻撃を仕掛ける二人に対して、大猿ゴーレムは器用に立ち回る。
その場をほとんど動くことなく、直斗の攻撃を盾で受けて白夜には懐に入れないようにメイスで牽制する。
直斗は武器を持っていないので、打撃技から掴み技を仕掛け大猿ゴーレムから盾をもぎ取ろうとしたが、力負けして盾を取る事ができなかった。
(なんて力だ、ピクリともしない)
それならばと直斗は大猿ゴーレムの盾を支点に背後へと回った。
(やった!白夜の話だと中は空洞らしい。一当てして確かめる!)
直斗は素早く大猿ゴーレムの背中に拳を当てる。
ボコ!
(え?)
大猿ゴーレムの背中に当てた拳が簡単にその背中に穴を開けた。
呆気に取られる直斗の目に、破壊された背中の穴が塞がっていく。
(自己再生?………しかも本当に中は空洞だった)
数秒で修復された大猿ゴーレムの背中の穴。
その隙に大猿ゴーレムが直斗に向かって、持っていた盾を横凪ぎに攻撃を仕掛けてきた。
直斗は慌てて、上体を後ろに反らす。
顔の前を通過する盾、白夜はその隙を見逃さずに牽制してくるメイスをかわして大猿ゴーレムの正面に回ると左右4連打を大猿ゴーレムの胸の部分に当てた。
(私ではひびを与えるぐらいしか出来ない。それにやっぱり中は空洞です)
最初の感覚に狂いはなかったと確信して白夜は後ろに下がる。
白夜がいた場所に大猿ゴーレムのメイスが通過した。
その攻防を離れた位置で見つめていたティーアは魔法で援護をする事ができずにいた。
(あれほど密着されると魔法で援護ができないのだ。だからといって私に剣の才能はない。チャンスを待つしかないのだ)
ティーアは焦る気持ちを押さえて、目の前の戦闘に集中する。
いつチャンスがきても大丈夫なように。
そんなティーアの気配を感じながら直斗はこれまでの攻防を思い返す。
これまでの大猿ゴーレムの攻撃はかわす事ができた、それは速さに負けていない事を意味する。
盾などで直斗の攻撃も防がれるが、十分に戦えた。
一対一だと厳しいが、白夜の援護もあり攻撃も当てることもできた。
あとはあの体の何処に大猿ゴーレムを動かしている核が有るかだが。
胸と背中に核は無かった。
では何処に………………。と直斗が思っていたとき、大猿ゴーレムがメイスのトゲを直斗達に飛ばしてきた。
「えっ?」
まったく予期していないタイミングで攻撃を仕掛けられて、直斗は慌てて飛んできたトゲを避ける。
白夜とティーア、白雪にもトゲが飛んでいったが難なく避けていた。
ホッとして大猿ゴーレムを見ると、直斗を見てニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「マスター、あいつムカつきます」
白夜にはしては珍しく口調が荒い。
直斗としても白夜と同じ思いだが、それを飲み込み冷静であろうと努めた。
直斗は白夜をそのままで後ろのティーアの所まで戻ると、白雪を前線に出してみようと考えた。
「白雪、行け!」
その言葉を受けて、白雪が猛然と駆ける。
その姿を見つめながら直斗は大猿ゴーレムを観察する。
大猿ゴーレムは白雪が相手でも、上手くたちまわっている。
白雪のパワーなら一撃で粉砕できるはずが、盾を上手く使い受け流していた。
あいだに白夜が攻撃を仕掛けるが、大猿ゴーレムはそれをほぼ無視をしている。
白夜の攻撃なら再生するのが早いと考えているのだろう。
直斗は後ろから白夜達の戦闘を見ていて違和感を覚えた。
それがなんなのか確かめる為に大猿ゴーレムの動きを見つめる。
白雪は盾でいなされても、構わずに前に前にでていく、いつしか白夜は戦闘に参加するのを止めて白雪と大猿ゴーレムを見ていた。
白雪が前にでて攻撃をする、すると大猿ゴーレムが円を描くように盾で受け流す。
それが続くと誰も立ち入れない円舞のようになった。
「まったく、私の出番がないではないですか」
苦笑いを浮かべる白夜は2匹の獣の戦いを見つめる。
「凄いな白雪は、大猿ゴーレムが前に出てこない事を良いことに攻勢にでているぞ」
ふと漏らしたティーアの呟きが直斗の耳に入った。
(前に出てこない。………………あっ!)
ティーアの呟きから何かを思い付いた直斗は白雪と白夜を呼び寄せて、その間はティーアに攻撃をさせた。
「ティーア、無理せず攻撃をしてくれればいい。あいつは前に出てこないはずだから」
「?、………わかったのだ。」
直斗の言い方に疑問が沸いたが、ティーアはただ頷いて魔法で攻撃をする。
「どうしたんですか、マスター?」
「ちょっと思いついた事があってね。もうアイツには近づかなくてもいいよ」
「?、どういう事です?」
首を捻る白夜に直斗はそっと耳打ちをする。
「えっ、あの大猿は攻撃をしに前には来ないのですか?」
「ああ。いくらでもチャンスがあったのにアイツは進んで攻勢にでなかった。たぶんだけど何かしらの制約があるんだと思う」
成る程と唸って大猿ゴーレムを見る白夜、ではどうしますか?と白夜は直斗に聞いた。
「ここはエルフの為の訓練施設だ、なら大猿の攻略は決まっている」
「それは?」
「押してダメなら引いてみろだよ」
「????」
直斗の言っている意味がわからずに白夜は更に首を捻る。
「アハハ、そんなに難しいことではないよ。遠距離からの魔法攻撃でアイツを仕留める!」
「魔法攻撃ですか?………………どうやって?………ってアッ!」
「そうだよ。この前、魔法道具屋で買った魔法結晶を使う。数はあるからね」
そう言うと直斗はアイテムボックスから魔法結晶(安)が入った袋を取り出す。
「ティーア、魔法結晶で援護するから押し破れ!。白夜と白雪は待機、敵の核を探って」
「わかったのだ!」
「はい、マスター」
返事を聞いて直斗は魔法結晶の入った袋に手を突っ込むと、無造作に結晶を掴みとった。
ティーアの魔法攻撃を狭い範囲で凌いでいた大猿ゴーレムは、直斗の手の中の輝きを見て敗北を覚る。
出現した位置から二メートル以内で最大限の力が発揮するように作ったゴーレムである。
直斗達の攻撃方法を観察してゴーレムを強化したのだが、見破られてしまった。
幾重にも煌めく魔法の輝きを見つめながら大猿ゴーレムはそっと盾の後ろにトゲトゲメイス隠した。
白夜は直斗とティーアが魔法で攻撃する様を見つめていた。
ティーアの魔法が直斗の魔法結晶での攻撃を先導するように数十発の様々な魔法が、大猿ゴーレムに放たれていた。
大猿ゴーレムはジッと盾の後ろで隠れているが、隠しきれない大柄な体は既に削れていた。
盾で隠れている部分だけが残る。
それを見て直斗とティーアは少しずつ大猿ゴーレムの周りを移動する。
それで勝敗は決まった。
後ろに回ったティーアが、大猿ゴーレムを木っ端微塵にした。
盾とメイスだけが残り、後は土の山ができた。
「マスター、大猿ゴーレムの核はどこでしょう?」
最後まで観察していたが、それらしい物が見つからなかった白夜は直斗を見上げて聞く。
額の汗を拭きながら直斗は白夜の問いに答えた。
「たぶん、あのトゲトゲメイスの中じゃないかな?」
「え………、あの中ですか?ちょっと行ってきますね」
直斗の答えを聞いて、白夜は大猿ゴーレムが持っていたメイスに近より、おもっいっきり拳をメイスに叩きつけた。
白夜の拳にメイスの中で何かが弾ける感触がして直斗の推測が正しかったと白夜は確信した。
土の山とメイスと盾が地面に消えていく、それを見ていると壁の一部が無くなり下に降りる階段が現れる。
「おめでとう、合格だよ。あの階段を降りると次の階層だよ」
どこからか大猿ゴーレムの口を借りて話した声が聴こえてきた。
「わかった。………だけど疲れたから明日にしようと思う」
「賛成なのだ」
「はい。マスターの言う通りに」
さすがにティーアと直斗の顔には疲労の影が濃かった。
それは魔力の使いすぎの精神疲労が原因だと思われるので、今はゆっくりと休むしかない。
「いつでも構わないよ。準備が整ったら行くといい。………………とても楽しかったよ………………」
その言葉を最後に直斗達はここで声を聴くことは無かった。
再び、安全地帯の部屋まで戻り1日かけて十分な休息をとった直斗達は次の階層に行くために階段を降りていった。




