大森林の前で
7月に入り木の国に行く日がきた。
ろくな準備がでなかったが、限られた時間で死にそうな目にあったのは五堂教師だけだろう。
その原因でもある直斗を五堂教師は睡眠不足で目に隈ができるほどの酷い目付きで睨み付ける。
放課後の教室には直斗達のパーティーの他にCクラス3位のナイトラウンズ、2位の暁の戦姫のパーティーがいる。
ナイトラウンズは全員で7名。
暁の戦姫は女性だけで構成された6人だ。
その各リーダー達が不機嫌な五堂教師の前に集まっている。
「ほら、これが依頼表だ!直ぐに行け。1ヶ月経たないと帰還は絶対に不可能だから最悪、逃げ続れば良いぞ」
3人はそれを受け取りギフトに取り込み、それぞれのパーティーの所に戻り依頼コードを皆にまわした。
「行くぞ!」
ナイトラウンズのリーダー、田所守が気合いのこもった声で木の国に転位した。
「さあ、行きますよ」
次に暁の戦姫のリーダー、三月カレンが優しく語りかけるように転位した。
「僕達も行こうか」
直斗は皆を見渡してから転位しようとした時に五堂教師から声がかかる。
「直斗。やってくれたな」
静かな口調だが有無を言わさない強烈な気を発する五堂教師を直斗は見た。
「うっ!なんでしょうか?先生」
「ウフフ、アーハハハ!!」
五堂教師は突如、大声をあけて笑いだした。
「なっ、なんですか?僕のせいじゃないですよ。あの注文の殆どがうちの女性陣の要望ですし」
「ふん!誰が要望したかなんて見ればわかる。良かったな直斗、お前達のパーティーの要望だけは7割がたは通ったぞ」
「え?………え~!!!!」
五堂教師の台詞に直斗達は驚きの声をあげる。
それを堪能した五堂教師は疲れたような表情に戻り話す。
「これは極秘の事なんだが、各クラスの1位のパーティーの要望は5割は叶うように昔から決められている。それが1位を取った者への当然の権利だからだ。だから絶対に他に漏らすなよ!お前達の荷物は後で他のパーティーが居ないときに送るから楽しみにしていろ」
それだけ言って五堂教師は教室を出ていった。
「………まさかの事態だ!」
「そ、そうね。これは予想できなかったわ」
「はい、お嬢様」
「すごいです!」
「本当にいいのかしら?」
「ふふん、マスター。白夜の手柄です!」
驚く表情を見せる直斗達、白夜だけはドヤ顔だった。
衝撃の事実から立ち直り、木の国に向かった。
直斗達が転位して目の前に現れたのは、緑一杯の森の前だった。
いつもは冒険者ギルドの建物の中に転位するに今回は外だった。
既に先行して来ていた二組のパーティーが3人の人影の前に集まっていて、直斗達が来るのを待っているようだ。
「最後のパーティーの者達よ、こちらへ」
3人の人影の内、背の高い男が直斗達を呼び寄せる。
直斗達はその声に従い近づく。
直斗が近づいたとき分かったのは、3人はエルフだった。
直斗を呼んだ男のエルフ、その隣に女性のエルフがいて二人供、身軽な軽装鎧に弓と短刀を装備していて経験豊富そうな出で立ちだった。
二人供、透き通るほど白い肌の綺麗な大人のエルフだった。
そして、その二人から少し離れた所に肌の黒いエルフの少女がいる。
あれがダークエルフかと直斗は思った。
ギフトに入っている初心者の歩き方に載っていたエルフとダークエルフの違い、肌の色と肉付きが圧倒的に違うらしい。
直斗は目を凝らしてダークエルフの少女を見るが肌の色の違いくらいで、肉付きなどはエルフと同じ位に薄く見えた。
そのダークエルフが面倒くさそうに直斗達を見る。
「私、帰っていい?」
ダークエルフの少女が全員を見渡してぽつりと告げると、エルフの女性が声を荒げる。
「あなた何を言ってるの!これは勇者様との契約なのよ、それを破ればどうなるか………わかっているの?」
女性エルフの声のトーンが最後は恐怖に押し潰されないように絞り出す声に直斗は感じた。
「うっ、ごめんなさい」
ダークエルフの少女は女性エルフの忠告に素直に皆に頭を下げた。
「済まないね、日本の方達よ。彼女はまだ幼いようだ、これからの事は私が話そう」
男のエルフが1歩前に出て直斗達を見る。
全員が注目しているのを確認して男エルフが話し出す。
「まず、自己紹介だ。私の名はハマス、彼女はソレシアだ。私達は同じ街から来た。そして、ダークエルフのティーアだ」
ハマスに紹介されたソレシアとティーアが軽く頭を下げると直斗達も頭を下げる。
それを見てハマスが話を続ける。
「皆さんのパーティーに、案内役として私達の誰か一人が着きます。この中で一番最下位のパーティーから優先で誰がいいのか選らんで下さい」
そうハマスが言うと、直斗達はナイトラウンズのリーダーにを見る。
ハマスに言われ、皆の視線が集まる中で田所が考え込む。
そして田所はハマスを案内役に選んだ。
次に暁の戦姫のリーダーは女性エルフのソレシアを選び、直斗は自動的にティーアになった。
「ふむ。無事に案内役が決まったようなだな。次は探索エリアですが、目の前に広がる大森林の中だけです。禁止区域に近づいたら私達が注意しますが、他は自由です。森の中は魔物が多く危険なので注意してください。………もし命が、危険に晒されても私達は干渉しませんので」
ハマスはスーと目を細目て直斗達を見て言った。
「では、それぞれに別れて大森林の中へどうぞ。基本的には野宿ですが、大森林の中にエルフの街とダークエルフの町が有りますので探して見てください。私達が街に案内する事はないので期待しないで下さい」
そう言うとハマスはナイトラウンズに同行する為に向かった。
ソレシアも暁の戦姫に合流し、残るティーアが渋々、こちらに来る。
「ティーアだ、しょうがないから面倒を見てやる!」
エリーナと白夜の間の身長のティーアが偉そう胸を張る。
やはり薄いなと直斗は再確認した。
「はい。宜しくお願いします、ティーア様」
「ヒッ!………なんだティーア様って!私は様付けされるほど偉くはないのだ。だからティーアでいい」
直斗の言葉に驚くほど後ずさりしたティーアは慌てた口調でそう言ったのを見て、直斗達はそのティーアの姿に親しみを感じた。
「アハハ、悪かったティーア。僕は直斗だ」
「………そう素直にタメ口を聞かされると何かムカつくのだ」
ブスっと頬をふくらますティーアを見て更に笑いが皆からもれた。
「私は氷依よ」
「私は魅沙です」
「ティーアさん、花です」
「エリーナです。宜しく」
「私は白夜。マスターの精霊です」
一通り、挨拶を交わして直斗達はその場に残った。
他の二組は既に大森林の中に入っていって直斗達の周辺には人の気配はない。
「いつまで此処にいるのだ?」
何時までも動こうとしない直斗達にティーアが我慢できずに聞いてきた。
すでに一時間は経過している。
直斗達は示し会わせたように休憩をしている。
その間に軽く食事をしてのんびりと過ごしていた。
「ティーア、チョコ食うか?」
直斗はせっついてくるティーアにポケットから一口チョコを取りだし、ティーアに見せる。
「チョコ?なんだそれは?」
直斗が取り出したチョコを不思議そうにティーアが覗く。
「白夜、アーン」
直斗は害が無いことを見せるために白夜が口を開けた所にチョコを放り込んだ。
「ムグムグ。マスターもう一個!」
白夜が食べたチョコの匂いに鼻をヒクヒクと動かしていたティーアの口から涎がたれる。
「むう?何か美味しそうな匂いがするのだ。直斗、アーン」
ティーアが白夜の真似をして口を開けると同じように口を開けていた白夜の二人にチョコを放り込んだ。
「!!!!」
ティーアが目を丸くして驚く、モグモグと口を動かすと幸せそうな表情をした。
「美味しいのだ!なんなのだこれは!!」
「だからチョコだよ。知らないのか?」
「うん。初めて食べたぞ!」
「そうか、なら後でチョコをわけてあげよう」
「本当か!わかった。絶対だぞ!」
直斗とティーアのやり取りを女性陣は微笑みながら眺めていた。
「直斗!もういいんじゃない?」
氷依が辺りを見渡して、人気の無いこと確認すると直斗に聞いてくる。
直斗は立ち上がり、氷依に頷くとスマホを操作する。
「良し、皆!下がって………来るよ」
直斗の言葉に全員が後ろに下がると、転移陣が直斗の前に現れる。
一瞬、強く輝いて転移陣が消えるとそこには大量の荷物があった。
「本当にきたわね」
「そうですね」
「お嬢様、手早く中身を確認しましょう」
「信じられないですが、花さんに賛成です」
「おお、マスター。白夜の頼んだのはあるかな?」
「!?!。なっ!なんだこれは?」
ティーア以外の人は我先にと大量の荷物の前に群がる。
それをボー然と眺めているティーアに直斗が言った。
「ティーア、これから宜しく」
荷物をほどき、アレコレと物色している氷依達を見ながら直斗はこの大森林に挑む決意をした。




