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3026  作者: Dar_3026
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27/60

27話 御影玲司との接触

 翌日。

 麦茶を求めていつものコンビニへ向かっていた。

 樹は昨日から続く妙な胸騒ぎを引きずったまま歩いていた。

 澪のことも気になる。

 あの会社のことも気になる。

 考え始めると、答えは出ないのに頭だけが忙しい。

「君が三雲樹君だね」

 不意に名前を呼ばれた。

 振り向く。

 そこには見覚えのない男が立っていた。

 三十代――いや、四十代か。

 黒いジャケットに落ち着いた雰囲気。

 どこか営業職にも見える。

 だが、不思議と隙がない。

「……俺ですか?」

「ああ」

 男は軽く笑う。

「少しだけ時間をもらえるかな」

 知らない男。

 名前を知っている。

 それだけで十分に警戒する理由になる。

「すみません」

 樹は一歩だけ距離を取った。

「宗教とか、壺とかなら間に合ってます」

 一瞬だけ。

 男がきょとんとした。

 そして、小さく吹き出す。

「違う違う」

「安心してくれ」

「私も、そういう連中は苦手だ」

 思わず樹も苦笑した。

 少なくとも、押し売りの類ではなさそうだ。

「じゃあ……何でしょう」

 男は笑みを収める。

 その表情だけで空気が変わる。

「君の友人、白石澪さん」

「狙われている」

 樹の表情が固まる。

「……え?」

「昨夜、白石さんの自宅近くで、東都先端技術総合研究所を名乗る男が接触した」

「彼女は応じず、家へ入った」

 心臓が跳ねる。

「何ですか、それ」

「落ち着いて聞いてくれ」

 男は周囲を一度だけ確認して続けた。

「私は彼女を調べている連中とは別だ」

「むしろ、その動きを追っている」

 樹は黙ったまま男を見る。

 嘘をついているようには見えない。

 だが。

 信じる理由もなかった。

「証拠は?」

 御影は少しだけ笑う。

「いい質問だ」

「残念だが、今は見せられない」

「私の立場もある」


「……」


「だから無理に信じなくていい」

 樹は男を見つめる。

 その落ち着き。

 話し方。

 目線。

 どれも妙に自然だった。

 営業でもない。

 警察でもない。

 何の仕事をしている人なんだ。

「じゃあ、俺に何をしろと?」

「一つだけ」

 御影は真っ直ぐ樹を見る。

「白石さんを、一人にしないこと」

 迷いのない口調だった。

「君なら出来ると思った」

「……なんで俺なんです?」

「昨日、大学の近くで君を見ていた」

 樹が眉をひそめる。

「え?」

「普通の人間は気付かない違和感に、君だけが反応していた」

「違和感……?」

「白いワゴン車と、歩道の男だ。勘がいい」

 樹は昨日の帰り道を思い出していた。

「それだけで十分な理由だ」

 御影は小さく頷いた。

「私は御影玲司」

 差し出された手。

 樹は少しだけ迷ってから握り返す。

「三雲樹です」

 固い握手ではなかった。

 それでも。

 二人の間には、小さな信頼が生まれ始めていた。



 樹と別れたあと。

 御影は引き続き警戒をする。

(しかし面白い青年だ。)

 昨日の監視。

 今日の受け答え。

 必要以上に慌てず、それでいて状況は冷静に整理している。

 素人にしては、勘が鋭すぎる。

 だからといって、訓練を受けた人間にも見えない。

(……本当に、一般人か。)

 御影は苦笑する。

 いや。

 今はそれでいい。

 少なくとも敵ではない。

 それだけ分かれば十分だった。

 ゆっくりと歩き出す。



 樹と別れた翌日ーー

 夕暮れの街を、黒いセダンが静かに流れていく。

 御影は交差点を抜けながら、ルームミラーへ視線を送った。

 後続車との車間。

 歩道を歩く人影。

 交差する自転車。

 信号待ちの車列。

 どこにも異常はない。

 今日一日、白石澪の周囲を見続けていた。

 登校。

 授業。

 下校。

 帰宅。

 誰かと接触する様子も、不自然な行動もなかった。

 ――だが。

 胸の奥に、小さな引っ掛かりだけが残っている。

 理由は分からない。

 証拠もない。

 長年培ってきた感覚が、何かを告げているだけだった。

 御影は信号待ちで車を止める。

 もう一度だけ周囲へ目を走らせる。

 異常なし。

 信号が青へ変わる。

 アクセルを踏み込みながら、小さく息を吐いた。

「……何もなければ、それでいい」

 黒いセダンは、そのまま夕暮れの街へと溶け込んでいった。



 薄暗い会議室に、淡々とした声だけが響く。

「報告」

「対象A、変化なし」

「対象B、変化なし」

 短い沈黙。

「了解」

 席の中央に座る男が、静かに資料を閉じた。

「明日二一〇〇、開始」

「以上、解散」

 椅子が引かれる音だけが、静かな部屋に残った。

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