第4章② 迷い子後編
ユウの隣で、アヤが小さく呟いた。
⸻
「やっぱり……」
⸻
まるで予想していたような声。
⸻
女性は続ける。
⸻
「これから皆さんには」
⸻
「ここで生活してもらいます」
⸻
ざわめきが広がる。
⸻
「生活?」
「帰れないの?」
⸻
不安が一気に噴き出す。
⸻
その中で。
⸻
一人の少年が叫んだ。
⸻
「家に帰してくれ!!」
⸻
悲鳴に近い声。
⸻
だが女性は表情を変えない。
⸻
「残念ですが」
⸻
一瞬の沈黙。
⸻
「それはできません」
⸻
その瞬間。
⸻
レンが再び立ち上がる。
⸻
体を押さえながら。
⸻
それでも、目は死んでいない。
⸻
「ふざけんな!!」
⸻
だが。
⸻
腕を掴まれた。
⸻
タケルだった。
⸻
レンの隣に立つ少年。
⸻
今まで一言も発していなかった。
⸻
だがその目は冷静だった。
⸻
「やめろ」
⸻
低い声。
⸻
レンが睨む。
⸻
「離せ」
⸻
「今やっても勝てない」
⸻
静かな一言。
⸻
だが、それがすべてだった。
⸻
レンは舌打ちしながらも、動きを止めた。
⸻
ナナが少しだけ息を吐く。
⸻
女性は続ける。
⸻
「これからあなたたちには」
⸻
「検査と訓練を受けてもらいます」
⸻
ユウは気づく。
⸻
この女の目。
⸻
感情がない。
⸻
人間を見ていない。
⸻
ただ“観察している”だけ。
⸻
「案内します」
⸻
「ついてきてください」
⸻
誰も逆らえなかった。
⸻
廊下を歩く。
⸻
白い床。
⸻
ガラスの壁。
⸻
消毒液の匂い。
⸻
無機質な空間。
⸻
途中で軍服の集団とすれ違う。
⸻
銃。
⸻
完全武装。
⸻
逃げ場はない。
⸻
完全に管理されている。
⸻
やがて辿り着いた場所。
⸻
円形の空間。
⸻
中央に巨大な柱。
⸻
周囲はガラス。
⸻
見られている。
⸻
そんな感覚。
⸻
「ここが生活エリアだ」
⸻
ユウは周囲を見渡す。
⸻
広い。
⸻
だが。
⸻
自由はない。
⸻
ここは――
⸻
牢獄だ。
⸻
その時。
⸻
ナナが言った。
⸻
「……ねえ」
⸻
「なんか小さくなってない?」
⸻
レンが眉をひそめる。
⸻
「は?」
⸻
ユウも気づく。
⸻
違和感。
⸻
視線の高さ。
⸻
手の大きさ。
⸻
体が小さい。
⸻
全員。
⸻
女性が振り向く。
⸻
そして言った。
⸻
「当然です」
⸻
わずかに微笑む。
⸻
「あなたたちは子供ですから」
⸻
ユウの背筋が冷える。
⸻
そうだ。
⸻
これは――
⸻
元に戻されたわけじゃない。
⸻
作られている。
⸻
「年齢は統一されています」
⸻
「今のあなたたちは」
⸻
一瞬の間。
⸻
「10歳です」
⸻
部屋が静まり返る。
⸻
ソウタが震える。
⸻
「……は?」
⸻
理解できない。
⸻
ユウの思考が止まる。
⸻
その時。
⸻
モニターに名前が表示された。
⸻
神城ユウ 高橋ソウタ
黒崎レン 坂井タケル
白石アヤ 橋本ナナ
⸻
ユウはソウタを見る。
⸻
ソウタは無理やり笑う。
⸻
「よろしくな」
⸻
その笑顔は引きつっていた。
⸻
その夜。
⸻
ユウはベッドに横になった。
⸻
眠れない。
⸻
目を閉じると浮かぶ。
⸻
ミサキ。
⸻
銃声。
⸻
そして。
⸻
石になったカイト。
⸻
ユウは拳を握る。
⸻
ここは何だ。
⸻
誰がやっている。
⸻
そして。
⸻
どうやって出る。
⸻
その時。
⸻
ふと、ミサキの言葉がよぎる。
⸻
「私じゃない」
⸻
あれは何だったのか。
⸻
なぜ撃ったのか。
⸻
なぜ、同じ顔がいたのか。
⸻
答えはまだない。
⸻
だが。
⸻
一つだけ、はっきりしている。
⸻
ここは――
⸻
地獄だ。
⸻
そして数日後。
⸻
ユウたちはそれを、嫌というほど思い知ることになる。
第四章まで読んでいただきありがとうございます。
ここから物語は「ゲーム」から「研究所編」に入っていきます。
迷い子とは何なのか。
なぜ子供の姿なのか。
そしてミサキの正体。
少しずつですが、核心に近づいていきます。
次の第五章では、いよいよ“実験”が始まります。
ここから一気に世界の残酷さが加速していきます。
少しでも面白いと思っていただけたら、
ブックマークや評価をしていただけると励みになります!




