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円満離婚に持ち込むはずが。~『冷酷皇帝の最愛妃』  作者: みこと。@ゆるゆる活動中*´꒳`ฅ
本編

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17/19

17.冷酷皇帝の最愛妃

「ルーイ! シュテファン様!」


 私はふたりのもとに駆け付けた。


「かーしゃまっ!」


 シュテファンの腕の中からルーイを引き取り、ぎゅっと抱きしめる。

 我が子の体温が尊く愛しい。


 小さな身体にどこも異常がないことを確認しながら、涙で濡れた頬を拭く。

「無事で良かった……!」

 こんなにも幼い子を脅しに使い、恐怖させるなんて! 心底ベルントが許せない!


 それはシュテファンも同じだったらしい。

 

「く、エリザ! お前が当主である俺に素直に従えば、こんな騒ぎには──ぎゃあああ」

「ふざけるな」


 まだ(わめ)いていたベルントを踏みつけ、怒りを(あらわ)にした声でシュテファンが言う。


「俺の妻と子に対する狼藉が許されると思うな。本来なら今すぐ首を()ねてやりたいところだが──」


 凄む彼は、押し付けた大地ごとベルントを凍てつかせそうだ。


「場所が場所だし、子どもの前だ。改めて裁きの場を設ける故、悔いながら待て」


 "場所が場所"。


 その言葉にハッと、託児所(ここ)が教会だったことを思い出す。


(シュテファン、敷地内で剣を抜いてしまったわ)


 教会は神聖な場所だ。武器の持ち込みは勿論、暴力や流血沙汰は固く禁じられている。

 最初に騒ぎを起こしたのはベルントだけど、皇帝という立場で禁を破った場合、どんな影響が出てしまうのか──。


 慌てて首を巡らすと、先生たちが銘々(めいめい)(くわ)や麺棒、鍋を持った状態でこっちを窺っていた。


(え?)

 目が合うと、グッと勝利のサインを送ってくれる。


(先生たち──。ルーイを救おうとしてくれてたのね……!)


 じん、と感謝の気持ちが沸き上がる。

 先生といっても、教会所属の聖職者なのだ。日ごろ荒事(あらごと)から程遠い身で、それでもこの騒ぎに子どもを守ろうと武器(?)を取ってくれたことに胸が熱くなる。

 最後までベルントに食い下がってくれてた先生も、安堵した表情(かお)で優しく頷いてくれた。


 感謝の気持ちを込めて会釈を返す私の横で、シュテファンが警邏を呼ぶ。


「皇帝シュテファン・ライザーが命じる。この罪人を捕えて、詰所に待機している俺の騎士たちに引き渡せ」


「はっ、はいっ、皇帝陛下!」


 弾かれたように、彼らは動いた。


 皇帝の顔は通貨(コイン)に刻印されてる。それにさっきのベルントの言動と、シュテファンの迫力から、彼らはシュテファンを帝国の主と認識したらしい。

 命令に従い、暴れるベルントを速やかに縛り上げていく。


 周りで取り巻く人たちは互いに情報を共有しあって、"皇妃が身分を隠して町で暮らしていたところ、皇帝が迎えに来た"、という結論に達したらしい。

 概ね間違っていない。


 彼らの会話に聞き耳を立てていると、腕の中のルーイから問いかけられた。


「かーしゃま。あの人、ルーイのとーしゃま?」

「え、ええ」

「ほんとに? ほんとのほんとに?」

「そうよ」


 私の肯定にルーイがどんどん興奮して、金紫の大きな瞳がキラキラと輝いていく。


「さっき、"むかえにきた"って言ってた。じゃあ、おしごとおわったの? これからは、いっしょにいてくれる?」


 そのあまりに必死な様子に、いつも聞き分けの良かったルーイが、本当は父親を切望していたと痛感して、胸が痛む。この子から父親を取り上げていたのは、私──。


 と、シュテファンが私の肩に手をかけた。


「そうだぞ。ルーイ、今までよく頑張ったな。さっきは特に、凄かった」


 ぱぁぁぁ、とルーイの顔が喜びで満たされる。


「とーしゃま! はじめまして。ぼく、お利口に待ってたよ!」

「ああ。初めまして。挨拶も上手に出来るなんて、俺の息子は偉いな」


 眩しい笑顔で、シュテファンがルーイの頭を優しく撫でる。

 

(初対面なのに、ルーイが懐いてる?)


 それは新鮮な驚きだった。シュテファンもルーイも、ごく自然に笑い合っている。


 二人に父子だと明かすことなく、一生秘しておくつもりだった罪深さに苛まれていたら、口に出してないのに。

 肩に置かれたシュテファンの手に、力強さが加わった。


「大丈夫だ、エリザ。あなたは息子を立派に守って、ここまで育ててくれた。その事実のみを、誇って欲しい」

「!」


 私の目を見て、彼が優しく微笑む。そして。

 

「皆、騒がせたな。気になること多々あるだろうが、詳細は追って皇宮から発表されるだろう。──この町に栄えあれ」


 ワアアアアア!

 よく通るシュテファンの一声が、飛び交う様々な推測を絶大な歓声へと昇華させた。


 皇帝や私たちを(たた)える声が、場にあふれる。

 私は呆然と、その高らかな空気と、凛々しいシュテファンの横顔に見惚れた。


(これが皇帝のカリスマ……! こんな凄い人が私の夫で、ルーイの父親……!)

 

 民の間に、"冷酷皇帝"に対する恐怖や忌避感は微塵もない。

 シュテファンが治世の中で築いた信頼が、確かにそこにあった。


「さあ帰ろうか、エリザ。俺たちの皇宮(いえ)に」


 耳元に落とされる声はどこまでもあたたかく、私は。

 結婚した相手が"彼"で良かったと、心から思ったのだった。



 その後。

 私が勤めていたカフェや託児所にお礼と別れを告げ、私はルーイを伴い、皇妃として皇宮に戻った。

 私たちが世話になった場所に、それぞれ寄付が届けられたのはまた別の話として。


 実家のリーネル伯爵家は当主ベルントの凶行により、罪を問われ廃絶。ベルントは処断され、引退していた元公爵は息子の暴走により、平民として余生を牢に繋がれることになった。

 これにより、栄華を誇ったリーネル家は一旦幕を閉じることになる。


 一旦というのは、皇妃の出身家門を失くしてしまうと、私の立場が弱くなり、他の貴族が台頭してしまうため。


 それを気にしたシュテファンは、広大な()()()()()()()()を皇帝の一時預かりとし、ルーイの下に子が出来た時、新家門として姓と領地を与える予定だと宣言。他家を牽制した。


 ただ、"下の子"と仮定したものの、シュテファンは私にお産の無理をさせたくないらしく。

 ルーイがひとりっ子の場合は、パワーバランスを見ながら後々、皇太子領や(エリザ)の姉の子に公爵領を振り分ける方法もあると言っていた。


 このまま皇帝直轄にすると皇権が大きくなりすぎ、貴族たちの反発が激しくなる恐れがあるからだって。政治ってややこしい。


 また、皇子の存在は、政情不安の折から、皇命により隠されていたとされた。

 シュテファン自身、私を見つけて初めて子ども(ルーイ)のことを知ったのに、エリザに非難が向かないよう、盾となってくれたのだ。


 広くて大きな皇宮に引っ越し、人が大勢いることに戸惑い驚いていたルーイは、持ち前のバイタリティであっという間に馴染みつつある。子どもの適応力ってすごい。

 "皇子"とか"皇帝"とかはまだよくわかってないみたいだけど、専任教師もついて、育ちながら学んでいくことになると思う。

 髪はもちろん、銀色に戻した。

 

 多忙を極める毎日ではあったけど、私たちは時間をあわせてお茶をする。

 麗らかな午後、小鳥がさえずる東屋では、今日も子どもの笑い声が響く。

 ほんのちょっぴりのお説教も。


「ねえ、ルーイ。前にも言ったけど、危ないことはしないでね。父様が受け止めてくれたから良かったけど、地面に激突するところだったじゃない」


 石像の高さから、どうして飛び降りようと思ったのか。


「"でんぎゅり"! ぼく、"でんぎゅり"しようと思ったの!」

「?」


 地面に落ちる前に、こう、と手真似をしてくれる。

 つまりルーイは、庭に飾られた彫刻から跳び、回転レシーブの要領で衝撃を殺そうと考えたらしい。前転で。


 わからないではないけど、たぶんそれ、余計危ない。

 そのことを告げると、目に見えて"しゅん"と肩を落とす。


「でもね、前にこわいおじさんがぼくを捕まえたことあったでしょ。あの時も"でんぎゅり"が上手くできたら逃げれる、と思ったの」

「っつ」


 ベルントの一件は、幼子にトラウマを植え付けるほどの恐怖だったと思うのに、ルーイは対策を練ろうとしている。その思考に愕然としつつ、やはり事件の残した爪痕の大きさに眩暈がする。


 あれを日常の前提にしたくないし、思わせたくない。


「あんな事はもう起こらないから」


 私が言うと、シュテファンも言葉を揃える。


「もちろんだとも。──だがあれは、なかなかの機転だった。ここぞという時に咄嗟に動けるなんて、さすが俺の息子だ」

「ちょっ、シュテファン様?」


 やめて。変なこと褒めないで。


「ルーイのおかげでベルントに隙が出来たのは間違いない。手柄は認めないと」

「!!」


 彼はルーイに甘い。仲良くして欲しいとは思ったけど、甘すぎるのは困る。

 私はキッとシュテファンに視線を送る。


「ンンッ。しかし自己判断で危険なことをするのは違う。これからは父様が教えてやるから、何かしたいなら、まず俺に相談するんだぞ」


 シュテファンが言うと、ルーイは勢い良く頷いた。


「あいっ! とーしゃま、すごいんだよね! 前のおうちでも、かーしゃまがいつも言ってた! とーしゃまは強くてかっこ良くて、国を守るための大事なおしごとをしてるって」


「ルーイっ? そそそ、そんなこと伝えなくても!」


 いきなり何を言い出すのか、この子は。

 ニヤ、とシュテファンの口端が、得意げにつり上がる。


「ほう! 母様がそんなことを?」

「うんっっ」


 一気に頬が熱くなる。

 真っ赤になった私を見て、嬉しそうに目を細めたシュテファンが、ルーイを促す。


「他には? 何か父様のことを言っていたか?」

「んとね──」


「ルーイっ、シュテファン様っっ」



 冷酷皇帝の最愛妃。


 皇帝が溺愛する皇妃の名前はエリザ・ライザーだと、自国だけでなく他国にも知れ渡るのは、すぐ先の未来の話だった──。




 お読みいただき有り難うございました!!

 大変お待たせしました。ようやく! 本編完結までお届けすることが出来ました!!

 実はこの先も、幕間のあの人とか絡めた展開で書いていたのですが、どうにも長引きそうだったため難航し、一度終わらせ、切り離して書こうと決断するまで時間を要してしまいました。


 というわけで、

 前編・皇宮編

 幕間・移動編

 後編・田舎編

 番外・舞台裏

 という構成となります。


 番外は、時間が取れる時にゆるゆると書き進めようかと思っておりますので、更新しましたらどうぞのぞいてやってください♪

 一度終わらせておくと、「お待たせしてる」感が薄らぐ気がするので……! すみませんっっ。


 ここまでエリザたちにお付き合いくださいまして、本当に有難うございました!!

 ルーイ4歳説はまだ迷ってますが(笑)、とりあえずこんな感じの決着です。

 お話を楽しんでいただけてたら嬉しいです。引き続き、どうぞよろしくお願い申し上げます。

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― 新着の感想 ―
本編完結おめでとうございます! シュテファンの溺愛、最高でした!
完結おめでとうございます。お疲れ様でした。 「武器(?)」に笑いました。 教会にいる方々が、真摯に神に仕えながらも人を大切にし、愛情をもって接しているんだなとわかりますね。 だからこそ二人も守られて…
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