第9話 課外活動
七月一日、月曜日。
学校が始まって土日を含めて四日間、特に何事もなく進んだ。強いて言えば昨日、二件ほど新設校らしいお知らせがあったくらい。
この学校ではお知らせは、主に学内SNSのメッセージという形でやってくる。このお知らせも三十日日曜の朝方、SNSメッセージでやってきた。
そして翌日である今日、一時間目が始まる前。
「リアルで『いい知らせと悪い知らせがある』という奴だよな」
早速有明から、そんな感じでお知らせの内容を話題にあげた。
まず悪い知らせから言うと、夏休み及び冬休みの短縮。
『本来は七月二十七日から夏休みに入る予定でした。ですが本学は六月に開校したため、このままでは授業日数が足りません。ですので本年の夏休みは、八月九日からになります。冬休みも三日間ほど短縮する予定です。日程の詳細については別添のファイルを参照して下さい』
開校スケジュールにかなり無理があったから、仕方ないだろう。どうせ夏休みの予定なんてものも無いしな。
そしてもう一件はこんなお知らせだ。
『本学は開講したばかりなので、まだ部活やサークル等の課外活動がありません。そこで夏休みに入る前を目安として、課外活動を発足ささようと思います。発足までの手続きとしては、以下の通りです。
① 参加したいという活動のアンケートを実施
② ①のアンケートを集計し、五名以上の参加が見込まれるものについて参加者募集のアンケートを実施
③ ②で五名以上の参加者が集まったものについて活動を承認
④ 以降は
ⅰ ③で発足した活動へ個々に参加する
ⅱ あるいは五人以上の参加者を集めて新たに申請する
のいずれかによって部員を集め、活動を実施する
⑤ 活動場所については放課後の特別教室、会議室、運動施設等を貸し出すこととする。なお当初は参加者が多い順に希望する場所を割り振り、後は設立順に希望する場所を割り振るものとする
課外活動に参加するかしないかは、各生徒の自由です。参加しない自由もありますし、部活あるいはサークルが認めれば、複数所属も認めます。なお詳細については別添ファイルを参照して下さい』
このお知らせは、教室内でもかなり話題になった。何せ全員寮員だし通学時間は無いしで、暇な時間はありあまっている。推薦入学が保証されているので、受験勉強に集中する必要も無い。
「何か面白そうな活動は無いか」
朝から早速、有明がそんな事を言う。
「しかしここの学校は普通の運動部は出来ない。各学年一クラスずつしかいないし、男子は四分の一程度。高校相当だけで三十名弱。最大のサークルで仮に男子全員の三割を集めたとしても、普通のスポーツでは、対抗試合できる人数すら集まらない」
北村らしい分析だ。
「となると、少人数でも出来る活動が主になる。良くあるのは文化部で囲碁、将棋、文芸部、漫研あたりか。運動部だと、卓球あたりなら人数が少なくても何とかなる」
確かに有明の言う通りだ。
「川崎は何か入りたい物があるか?」
「特にない」
俺は北村の問いに、首を横に振った。わざわざ自由時間を潰すつもりは無い。
確かに前の高校の時は、魔法研究会に入っていた、しかしあれは、この学校に入るという目的があったから。今は特にそんな目的も無い。
「この学校に来たのだから、魔法を研究するべきだろうか? せっかく魔法が使える生徒が集まっている事だから」
北村がそんな事を言う。俺はあえて言わなかったのだけれども。
「でも魔法を研究するって、何をやるんだ?」
「理論はどうせ大学の方でやっている。だからこっちは実践メインだろ。校庭隅のような危なくない場所で練習して、たまに測定装置を借りて、どれくらい魔力が増えているかを見るとか」
「あ、そっちも魔法研究会を考えてるの?」
これは斜め前の席に座っている須崎さん。有明の話が聞こえたようだ。
「ここに来た理由とかを考えると、そうなるんじゃないかな?」
須崎さんと一緒に話していた塩津さんも、そんな事を言う。
「でなければ、向こうの世界を研究する会かな。記憶を持ち寄って、向こうの世界がどんな世界か明らかにする活動」
これは同じく日野さん。確かにそれもあるな。
でも俺自身としては、あえてこの辺には当初加わらないつもりだ。用心してというか、危険回避の為というか。以前、茜先輩達が言っていた忠告が、頭の中に残っている。
『状況が見えないうちは、出来るだけ行動を控えた方がいい』
そして先輩が危険を感じたのはもっともだ。少なくとも今の俺の考えでは。
以前、先輩が言った開校までの異様な早さも、その例だ。念の為先輩に聞いた後、俺はネットで裏を取った。
たとえばこの学校のような大きい建物を建築する場合、通常は五ヶ月以上はかかるらしい。それも建築期間が短くて済む、システム建築やプレハブ工法を使うこと前提でだ。
それでも基本設計や確認申請なんて作業だけで、二ヶ月半はかかる。土地の造成も必要だっただろう。ここは山奥の、何もない谷間だった筈だから。そう考えると、事案が発生してからこの学校が開校するまで、四ヶ月というのは早すぎるのだ。
予算の執行手順等を考えると、一年くらいかかってもおかしくない。むしろ一年で済んだら早いほうだろう。これだけ急いで予算の執行から全部出来るのは、大災害かそれに類する事態位だ。
それ以外にも傍証はある。
一日に二回か三回、近くで離着陸するヘリコプター。その手に詳しいらしい倉橋によると、陸上自衛隊のヘリだそうだ。
オスプレイとかチヌークとかブラックホークとか言っていたけれど、その辺は俺はよくわからない。でも何故この学校に陸上自衛隊のヘリが行き来するのだろうか。少なくとも普通の学校ではあり得ないだろう。
担任として自衛隊から教官が来ているなんてのも、普通じゃない。
ただ俺が何かあると感じているのは、実はそういった観察とか推理からくるものではない。感覚的な何か。今までに無かった、もしくは忘れていた何かの気配を感じるのだ。
それが何かは、今の俺にはわからない。知っていたような気もするのだけれど、思い出せない。目覚めた時、ついさっきまで見た夢を思い出せないようなあの感覚だ。
だからせめて、もう少し此処についてよく知るまでは、用心しようと思っている。
勿論他の人には言わない。確たる根拠とかがある話では無いから。
「川崎、黙っているけれど、何か他に案があるか?」
おっと、不自然に思われたか。
「いいや。でもとりあえず俺は帰宅部希望だな。自由時間が多い方がいい」
「帰宅部も何もそこの寮へ帰るだけだろ。どうせなら、ここでしか出来ない事をした方が楽しいんじゃないか?」
「それも確かだけれどさ。まあ今すぐ決めろって訳じゃないし。今回は単なる案のアンケートだろ」
「それもそうだな」
なんて話したところで、チャイムが鳴る。




