第8話 授業開始
翌日の六月二十七日は、ごく簡単な入校式の後、早速授業開始となった。
授業そのものは、栃金崎高校とほぼ同じ。強いて言えば進み方が少し早いかな程度。
だが毎日朝の三十分程度、研究協力の時間がある。その分だけ、拘束時間が長い。もちろん通学時間が無い分、自由時間は長い筈なのだけれども。
教壇に立っているのは副担任の梅園先生。男子の一部が早くも名付けたあだ名は『女史』。
確かにそんな雰囲気がある。教師と言うより研究者という雰囲気が。
「これから毎日、この時間は魔法の研究に対して協力する時間になります。本日はアンケートです。皆さんがおぼえている『向こうの世界』について、回答をお願いします。なお周りの人と相談はしないで下さい。それでは始めて下さい」
机上に置いたタブレットパソコンの画面が更新された。
どれどれ。俺は早速マウスとキーボードをセットし、設問を読みはじめる。
問題そのものは、歴史や地理の試験にあるような感じだ。どの時代に何が起きたかとか、どんな国や地方があって地形や人口、産業はどうなっているかとか。
世界史的、そして地理的に双方の世界を比較する為のアンケートだろう。
茜先輩は用心しろと言っていた。でもこの手のアンケートについてはあまり気にしなくていい気がする。だから思い出せる限りの事は記載する方針でいこう。
他の皆さんも真面目にやっているようだ。マウスをクリックするカチッという音やキーボードを打つカタカタ音が聞こえる。
なお俺はキーボードの方が楽だが、フリック入力派も結構いる模様。慣れればフリック入力の方が音が静かだし、入力速度もそう変わらないらしい。
なんて思いつつも回答していく途中で、ふと気づいた。向こうの世界と地球や日本、よく似ているなと。
勿論向こうの世界は魔法が使える。魔獣なんてこちらにはいない存在もいる。しかし歴史や地理は、こちらの地球と酷似しているのだ。地理的名称も歴史的人物の名前も。
歴史的なものではなく、もっと細かい部分はどうなのだろう。少し脱線して俺自身について思い出してみる。
まず俺の出生地の位置と出生病院。やはりほぼ同じ場所で、酷似した名称だ。
これは何故なのだろうか。魔法のあるなしなんて違いがあるのに、何故ここまで似ているのだろうか。
そもそもこの学校だってそうだ。学校の創立理由や創立の時期は全く違う。しかし思い出す限り、同じ場所に同じように建っているようだ。所在する国一番の国立大学の特例付属校として。
これは何か誰かが意図した結果なのだろうか。意図されているとしたら、意図したのは誰で何の理由でなのか。それとも自然と同じになるような修正力が働く仕組みでもあるのだろうか。
より細かく向こうの俺の事を思い出してみる。大雑把に思い出す限りは小学校まではほぼ同じ。でも中学から、向こうの俺はこの学校に通い始めている。
ふと何かあったような気がした。中学に入る前、小学校の高学年でだ。向こうでも、そしてこっちの世界でも何かあったような気がする。でも思い出せない。
何だっただろうか。そう思った時、画面が瞬いて警告メッセージが出た。残りあと三分、というメッセージだ。
取り敢えず今は、このアンケートを埋めてしまおう。俺は自分の事を思い出すのをやめ、作業に戻る。
午前中の授業が四コマなのは、以前の学校と同じだ。その後の昼食は、売店で買ったものを食べてもいいし食堂で食べてもいい。
本日は最初という事で、食堂に向かう。話をするようになった有明や北村と一緒だ。
食堂は三年までの中学相当の生徒が、そろそろ終わりという感じで去って行く状態。向こうは午前中三コマ午後三コマの授業らしい。これは単純に食堂や売店の混雑を避けるための措置だそうだ。
食堂はカフェテリア方式。御飯や味噌汁、各種おかず類をお盆に勝手にとり、最後に計算台にお盆をおいてカードをかざせば、自動計算してカードから金額が引かれる。
なかなか良く出来たシステムではあると、思うのだが……
「流石に高校相当の三学年が一気に来ると並ぶな」
有明の言う通りだ。ずらっと列が伸びてしまっている。
「こりゃ結構待つかな」
「最大でも百人程度だから、そこまで待たない。会計処理は十秒以下、移動時間を含めて一人あたり所要十五秒と仮定しよう。会計端末三台で一分あたりの処理人数は十二人。前が七十人としても六分以下」
北村は何でも計算する癖がある。本人が『自覚があるけれど治らない』と言っていた。
でも今の場合、確かに北村の言う通りだろう。見た限りボトルネックになっているのは、会計の場所だけのようだし。
「テーブルの方は空きがあるから大丈夫だな」
有明の台詞でテーブルの方を見る。確かに三年生までらしい生徒は撤収に入っていて、席は空きつつあるようだ。そう思った時だった。
見覚えがある誰かが、いたような気がした。とっさにもう一度そっちを見る。
「どうかしたか」
有明が俺に尋ねた。
「いや、何でもない」
気のせいだったようだ。元々この学校での俺の知り合いは、先輩二人だけの筈。
列が大分カウンターに近づいてきた。さて、おかずは何を取ろうか。俺はそちらの方へ思考を集中させる。




