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森崎夢叶の18きっぷ  作者: おじぃ
30歳の春

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便乗、普通列車・・・・!

 大船駅6番線、撮り鉄たちの熱視線を浴びながらピーッ! と警笛を吹鳴すいめいし熱海方面へのっそのっそと動き出した電気機関車を見送り、わたしはホームの東京方へ気持ち背筋を伸ばして歩く。


 何しろこの6番線、私用で鎌倉へ行った帰りに向かい側の5番線に降り立ち、人混みを避けて大回りしたところ鎌倉車両所から出区してきた上りの特急が回送入線中でびっくりした場所。ヒヤリハットだ。下り列車の入線は警戒していたものの、同一路線で同一方向の列車の入線は意識から抜けていた。


 正にいま、機関車が発車したばかりの油断しやすいタイミング。しかし入れ違いですぐに入線する場合もある。構内に流れる『まもなく、6番線に……』といった接近放送が作動しない場合もある。


 時速10キロ未満、しかし触車したらタダでは済まない可能性が高い。低速でも肢体が切断されたり擂り身になり兼ねない。鉄道車両は恐ろしい。


 例え無傷でも、その場と職場でめちゃくちゃ怒られてメンタルが病む。


 とぼとぼ歩いてホームの東京方へ。先頭車停止位置付近では、これから乗務する列車を待つ運転士の姿が既にあった。


「美奈ちゃんおつかれさまー」


「よっ、おつかれ夢叶」


「〇〇〇(駅名)までよろしくね〜」


「夢叶が運転?」


「できなくはないと思うけど、無免許だよ」


「なっ、なんだってー!?」


 じゃれ合っているうちに、私たちから見て左側から便乗予定の上り普通列車が入線。所定の停止位置より少し手前に停車した。この列車は品川、東京方面で、乗車位置ステッカーが左側にある。右側は渋谷、新宿方面で、乗車位置ステッカーは右側。違う乗車位置に並んだ客を割り込ませないためにわざと停止位置をずらしたと思われる。美奈ちゃんと舞ちゃんもこの方法を採る場合もあるが、会社は正式に認めていないため、気心の知れた乗務員とペアになったときのみにしている。


 ここまで乗務してきたベテラン運転士のおじさんが降りてきた。面長白髪、グラサン着用、チンピラか刑事に見えるけど残念、電車の運転士でした。停止位置が多少ズレたところで文句は言わせねえ、正しく並んだお客さんに損はさせねえぜという感じの風貌。


「おつかれさまです」


 二人同時に会釈。敬礼等、かしこまった挨拶は特にしない。


「おう、ご苦労さん。花粉が凄くてハクションブレーキしそうになったわ。後ろは御城おしろちゃんだからよ」


 御城みしろだけどね。おしろとも読めるので一部の人間は舞ちゃんをそう読んでいる。『後ろ』は車掌の意。


 ハクションブレーキとは……。


 現在主流の電車は前後に動くハンドルで加減速を行う。簡単に言うと中立位置がニュートラル、そこから手前に引くと加速、奥へ押し込むとブレーキがかかる。くしゃみをするとその衝撃でハンドルをうっかり押し込んでしまう恐れがある。これをやってしまうことを俗にハクションブレーキと呼ぶ。


 奥へ押し込むとブレーキがかかるようになっているのは、ハンドルを握っている乗務員が急病等により前へ倒れ込んだ際にブレーキがかかるようにするため。手を離してもブレーキがかかる。


「それじゃ、行きますか」


「御意」

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