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■ 王の攻撃、根上の攻撃

 

 根上は飛び出すタイミングを見計らっていた。

 見える相手は3人だ。王と私で片付けたらあっという間だと思ったが、女の両手には拳銃が握り閉められている。

 これは丸腰じゃ勝ち目は無いと踏んだ。

 王はさっき倒した奴から奪った拳銃を持ってるからいいとして、問題は私だ。

 野本さんの胸元に仕込まれているのはたぶん短銃だろう。

 田ノ木さん、いつの間にそんなに親しく?

 と考えると眉間に皺が寄るものだが、今は余計なことを考えている暇は無い。

 さっきから余計なことを考えすぎる。

 と、雑念を振り飛ばすように小さく頭を振った。

 視界の片隅に入り込んできたのは、安西だ。

 安西も同じく静かにこっちの様子を伺っていた。

 根上がその視線が自分に向けられていることに気付いたのはすぐのことだった。

 視線が合うと、安西はにこりと口角だけ上げて笑い、しかし目は真剣そのものだった。

 根上はそんな安西を見て、どことなく野本に似ていると感じた。

 どこが?と言われると正直困るのだが、

 雰囲気や仕草が少しばかり似ているんじゃないかという気になってならなかった。


 なんせ動いている安西を見るのは初めてなので、彼女の情報が頭に入っていないし、極端に少ないから、見た感じのインパクトで安西という人のイメージを作り上げねばならなかった。

 そして体型も似ていた。

 野本も細いが安西も負けずに細い。

 歳は安西のほうが遙かに若いだろう。

 しかしなんでこんなに歳の離れた二人が一緒にいることになっているのだろうか。 

 根上はタイミングを見計らいながらこの二人の接点について考えてみるが、なかなかにその答えにはたどり着けない。

 そもそも、そのヒントとなることすら今の根上の情報には入っていなかった。

「私が向こうに回ってあの雑魚二人を始末してきます」

 王が根上の耳元で言うと行動を動かそうとした。

 待て!と制した根上は、発砲音はまだまずい。

 と、自分が武器を持っていないことも考慮して言った。

「大丈夫ですよ、撃ちませんから」両手を見せる王の手にはやはり手術用の薄いゴム手袋がはめられていた。

 王はみんなに微笑みかけると、敵に気付かれないように音も立てずにコンテナの間を縫うように移動し、あっという間に見えなくなった。


 野本と安西もそれを見逃さなかった。

 王が動いたということは遅かれ早かれこっちの身に良かれ悪かれ何かが降りかかるかもしれないと覚悟を決めた。

 ヨーコはコンテナの周りを確認している男二人の姿を視界の片隅に入れながら、野本の前で拳銃をおもちゃのように手の中で回し、恐怖を煽っていた。

 男の一人がコンテナの後ろに回り、ヨーコから見えなくなった時、男はそこにはいないはずの人を見て声を上げる為口を大きく開いた所で身体が硬くなった。

 王はコンテナ後方に背を預け、足音を聞き、どこから男が来るのかを見計らっていた。

 王の思惑通りの方向から出て来た男はびくりと身体を震わせ声を出そうとしたところで、王は右手を伸ばし男の喉元を締め上げていた。

「お前は日本人か?」

 王の問いに男は呼吸が出来ないためもがきながらもなんとか顔を左右に振った。

「中国人か?」

 こくこくと首を縦に振る男の手は王の手をほどこうと試みるが、やはり手術用の薄い手袋が伸びるだけだった。

「声を上げたら殺す。いいな」

 中国語で言った王に男は一瞬動きを止めた。

 またしてもいつの間にか奪い取った男の持っていたナイフを男の喉元に当て、動いたら喉にナイフが突き刺さり、まだ死なないうちに海に突き落とすと囁いた。

「誰に雇われた」

「・・・あの女だ」

「あれは誰だ」

「ヨーコ」

「名前じゃない」

「あいつは・・・あの、日本人の女だよ」

「あの日本人?」

「・・・アフリカで人体実験してんのがいんだろ?お前も仲間じゃないのか?」

 男が薄ら笑ったのに嫌悪感を覚え、喉にナイフを押し当てた。

「分かった、無駄口は叩かねーよ」

「なんの実験だ」

「そこまでは知らねー。俺たちは金に困ってて、それでこの仕事を引き受けたんだ。これが終わったら国に帰って家族みんなで暮らせるだけの金が手に入る」

「だから、罪の無いあの女二人を殺すってわけか?」

「・・・」

「日本人の男の名前は」

「・・・知らねー」

「俺に殺されるか、ヨーコに殺されるか、どっちか選べ」

 男は選択肢が遅かれ早かれだけしかないということに焦りを覚え、言うから逃してくれと懇願し、王はそれに応じた。

 この船にはあと何人乗っているのかを聞き出すと、ここにいる二人の男とヨーコ以外いないという。

 やはりこの船は沈められることになっていたんだなと思い直した王は、いいか、同じ中国人同士で話をしよう。お前のことは今はまだ殺さない、これからお前はここから出て行き、あの女に何もなかったと言うんだ。

 それからもう一人いるあの男とヨーコを拘束しろ。

 下手なまねをしたら俺が後ろからお前の頭にナイフを突き刺すことになる。

 分かったと男が言うと、王はゆっくりとナイフを外し、行けと手で合図した。

 男は側にいたもう一人の男に近づくと、今あったことを簡単に話し、小声で言い合いをし始めた。

 ヨーコは野本に何かを聞かれているらしく、誇らしげに笑いながら野本に勝ち誇った笑みを見せていた。

 男二人がコンテナのところでいつまでも言い合っているのを不快に感じたヨーコは、何やってるの、さっさと逃げた奴らを探しておいで!と怒鳴りつけたが、男たちの顔色が悪く、目つきが変わっていることに気付き、野本を無視し、何があったと男に中国語で話しかけた。

 何も言わない男は王に聞こえるように、『何もない』と言ったが、手でヨーコにコンテナの所に侵入者がいることを伝えていた。



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