■ ヘリからの応援、田ノ木と幸元
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「まさかとは思うが、あのコンテナの中に野本と安西は入れられるとかいう話か?」
そんなまさかな?と思いたい気持ちを珍しく田ノ木は口に出した。
「いえ、たぶんあの不自然な置き方はそうでしょう。入り口もどうぞお入り下さいとばかりに開いてますし」
コンテナを確認して速やかに嬉しくないことを言ったのはヘリの操縦士だ。
王が言った通り、この操縦士は幸元の旦那だ。
この事件の連絡を受けてから、幸元の旦那は仕事そっちのけで自家用ジェットで日本へ戻り今に至るわけだが、毎日のように信じられないくらいの桁のお金を移動し、又それ以上を作り出す幸元の旦那にとって、こんな行動は朝飯前。
いや、それよりももっと前、朝起きる前とでも言えようか。
「素人相手にそこまでするか?」
田ノ木は操縦士に問いかけた。
「例えば、素人じゃなかったとしたら?やりますよ」
「そういった奴らがからんでるってわけか」
「これには表沙汰にしてはいけない何かがあるようにしか思えません」
そんな憶測のことをやりとりしているところに田ノ木の電話に着信が入った。
それは部下の一人からのもので、野本をもう一度1から多角的に綺麗に洗い直したという連絡だった。
部下の話を聞きながら田ノ木は徐々に眉間に深く皺を作り、そんな小細工があったのかと憤慨し、また、なぜもっと早く気付かなかったのかと自分自身に苛ついた。
「船に近づけてくれ」
田ノ木は電話を切ると、内容も告げずに言い放つ。
一瞬どうしようかと迷った幸元たちだったが、田ノ木の表情から、ここはひとまず何も聞かずに言われた通りにした方がいいと考え、分かりましたと一言言うと、言われた通り船の方へと近づけた。
「田ノ木さん?もしかしてよからぬ事でも聞いたんでしょうか?」
幸元が我慢しきれずに口を割り込ませた。
「ああ、もしかしたら船の上のやつらみんなが危なくなるかもしれない」
「どういうこと?」
「野本の旦那が日本に戻ってる」
「は?だって野本さんの旦那様って確かアフリカで考古学だかなんだか知らないけど、そんなかんじのことしてるんじゃなかった?」
「そうだ。しかもあいつの旦那は『人類の起源』なるものを探している学者でもある」
「・・・また夫婦揃って小難しいことやってるんですね」
幸元はよく分からない言語でも聞いたかのように顔をくしゃっとやった。
「それから、非公式にだが、行き過ぎた研究もしているそうだ」
「行き過ぎた研究って、一体何ですか?」
「・・・安西に関係していることだろうな。今はそれ以上は分からん」
田ノ木は重要なところをお茶に濁し、ヘリから身を乗り出して船の甲板あたりに目をやった。
「なんか、嫌な臭いがぷんぷんしますね」
操縦士は田ノ木に向かって言うと、ほどよく距離を置きながら船の周りをゆったりと旋回し始めた。
「居たぞ!」
田ノ木は嬉しそうな声を上げ、根上を筆頭に全員集合していることをようやく確認でき、ホッとした様子も垣間見せた。
根上と王と桜坂に白戸、王の子供がコンテナの横にべたりと張り付いているのを確認した田ノ木は、甲板で黒い服を着た女と外国人風の男二人、それに、野本に安西を発見した。 他には誰も見当たらない。どこかに隠れているのか、それとも端からこの船もろとも沈める気でいるから人が少ないのか、今のところ定かではないが、状況下から考慮しても後者のような気がしてならない。
「兎に角だ、あとは野本がうまく根上に銃を渡しさえすれば、こちらに勝ち目はある」
「は?ちょっと田ノ木さん、いつの間に野本さんに銃なんて渡してたんです?」
びっくりして振り返った幸元は目をまん丸くして田ノ木を見た。
操縦士の幸元旦那は口元をにやりとしたが、それは田ノ木だけにしか見られず、幸元はそんなことすら気付かなかった。
しかし田ノ木はこの操縦士は幸元家が雇ったただの操縦士だとしか思っていない。
まさか幸元の旦那だなんてことは、ちっとも分かっていなかった。
「それはな・・・」
にたりと笑う田ノ木は幸元の目を見返し、ゆっくりと言った。
「あいつが救命具を着けているついでにこっそりと胸元に短銃を忍ばせた」
「胸元?って、それ、野本さんに知られたらぶっ飛ばされますよ」
「もう知ってる。救命具をつけて梯子から下に下りてく間にこっそりと教えてやったからな」
思い出し笑いをする田ノ木はまるでいたずらを仕掛けた子供のようだ。
「私には聞こえなかったけど?」
自分の夫に目を向ける幸元は、夫がいつものように謝るときにする仕草、『ごめんね』と口だけ動かして首をすぼめる仕草を見て、
あぁ、そういうことねと一人で頷いた。
「だから野本さん、みんなまとめてぶっ飛ばす的なこと言ったんだ」
なるほどねと肩を揺らす幸元は、これから後の出来事を想像して変な笑みを浮かべていた。
おいおい、俺がぶっ飛ばされるのがそんなに見たいのかと若干心外になる田ノ木はさておき、田ノ木は、うまいことやってくれよと心の中で野本にエールを送った。
「じゃ、私たちは非常事態に備えて空からの応戦ってわけね」
幸元は旦那に向かって言うと、貨物船に目を戻し、
「うっわ、なんか久しぶりにみんなを見る気がする」
なんでだろう?そんなに時間なんて経っていないのに・・・
と、この短時間の間にできた出来事を振り返るように頭の中のスクリーンに記憶を呼び出していた。




