■ 根上の気持ち
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熱いコーヒーが飲みたいわぁ・・・と桜坂は心から思った。
熱いココアが飲みたい・・・と白戸も心から思った。
二人はたった今根上に言われた言葉が頭の中を駆け巡り、思考はその思考をストップさせるがごとく、リラックス効果のある甘い飲み物を欲した。
そして根上には背中を向けていた。
王ははらはらしながら事の成り行きを見守っていたが、甲板の方から小さくではあるが声が聞こえてきたのを聞き逃さなかった。
「しっ」
根上は王よりも早くその動きに気付いた。
「誰か来る」
『見下した淑女二人』を手でコンテナに押しつけ、強引に張り付かせ、悟は王が責任を持ってコンテナに同じように張り付かせた。
根上は身体を小さくし、いつでも出て行ける体勢を整え、声のする方を目を懲らして、耳を澄ませて集中した。
その格好はさながらチーターのごとしとでも言おうか。
甲板に出られる入り口はたった一つ、誰かが来るならそこから来るに決まっている。
複数の人の足音が聞こえてきた。
王もいつの間にか根上の側に寄り、何人かいますね、でも女性の声が聞こえるような気もします。と小さく耳元で言った。
根上はただ黙って頷き、甲板に不自然に置かれているさっきまで自分達が入っていたコンテナの戸が平きっぱなしになっているのを確認した。
きっとこの中に入れられるんだろうと読み、ということは、今こっちに向かってきているのは、野本さんと安西なんじゃないか?
と読みを膨らませ、早く出て来いといわんばかりに待ち望んでいる人を見るのが楽しみといった笑みを浮かべて上唇を舐めた。
何人いても、絶対に負けない。
全員捕まえてやる。
できれば生け捕りにして。
そのための訓練だって受けてきてるし、この両腕の火傷のあとだって言わばその勲章だ。
それが私の自信に繋がっている。
と、根上は過去にあった火傷の原因となる事件を振り返り、あれがあったから今のこの私がいるんだ。
だから私は強い!負けるはずがない!
と、高鳴る鼓動をぐっと抑え、自分の気を失わせ、拉致し、コンテナの中に詰め込んだあの女と男の顔を忘れないように頭の中に再度叩きだした。
その仕掛け人があの女だってことを考えると、腸が煮えくり返る思いがした。
「でも・・・助け出さなきゃなんないのが一人増えた」
根上の独り言はしっかりと王の耳に届いた。
「人を助けるのはいいことじゃないですか。そうしたら私はもう一人の方を助けますから」
振り返って目をまん丸くする根上に王は優しく微笑んだ。
男嫌いな根上も間近で見る王の笑顔と、整った顔の綺麗さに若干ドキリとする。
今までこいつをこんなに間近で見なかったし、ちゃんと顔を見ることもしなかった。
グレーのコンタクトレンズをして髪の毛は長く、日焼けをしているちゃらい男だという印象しか持っていなかった。
三十センチと離れていない距離でその顔を見ると、それは自分の思い過ごし、先入観でしか相手を見ていなかったという事実に気付かされた。
刑事としてこれでいいのかと、実は真面目な根上の心にうっすらとヒビが入ったような気がした。
こいつはもしかしたらそのコンタクトレンズで自分の瞳の優しさを隠しているんじゃないのか。
行き過ぎた考えが根上の頭に予告無しに滑り込んできた。
いや、ダメだ。今はそんなこと考えている場合じゃない。
根上は甲板の方に視線を向け、視界から王の姿を消した。
甲板につながっているドアが開け放たれた。
根上と王は息を飲み、雑な扱いを受けた二人は相変わらず口を手で覆っている。
もちろん悟も両手で一生懸命に自分の口を抑えている。
根上は血のついたナイフを右手に持ち、ナイフの柄の部分を自分の手に合わせ、力を込めた。
王は奪い取った拳銃をいつでも引き出せるような位置に置いた。
「ねぇ、その拳銃と私のナイフ、交換しない?」
根上は開かれたドアに目を向けたまま、王に交渉した。
拳銃はまだ見せていないのになぜ自分が持っていることが分かったのか不思議でならない王だが、そこは何も言わず、今からでてくる奴らを倒せば拳銃は手に入りますよと根上を挑発した。
ちっと小さく舌打ちをすると、足の感覚を今一度確かめた。
船の中からは思った通りの人物だ。
野本と安西が二人の男によって腕を取られながら強引に甲板に引きずり出されるところだった。
野本に至っては、ちょっと日が照ってるじゃないよ!
日焼けするからなんとかしなさいよ!しみになったらどうしてくれんの?日傘くらい用意するとか気が回らないわけ?、
っとに使えない奴らね!とそこら中に聞こえるように文句を言っていた。
野本は、自分がここで大きな声で文句を言うことにより、ここにいる!ということをアピールしているつもりだった。
「ちょっとこの汚い手を放しなさいよ!こんな状態で逃げやしないわよ!」
掴まれている腕を左右に振ってみるものの、男の力にはかなわなかった。
その横には安西がおとなしく、言われるがままにくっついてきていた。
「野本さんはこの期に及んでまだ文句を・・・」
根上は野本のこの行動には何かあるんじゃないかと感づき、野本は何かを知っているのかどうか、なんとか探ろうと野本と安西の動きに神経を集中させた。
野本はまだ騒いでいる。
普通こんな状況で騒いだりしない。
いや、待て。
野本は最初から普通じゃないからこんなことが出来るのか。
といった不安要素も沸々と沸き上がってきた。




