■ やられたら、やりかえすのが大人???
幸元は電話を切ったそのすぐ後で、ミャンマーにいる旦那に電話をかけてその旨を伝えると、刑事が一緒なら安心だということで、明日の車の手配を旦那が整え、朝8時には迎えに寄越すと約束し、電話を切って、ブランケットを顔まで被せてソファーで丸くなった。
「いい機会だから今の幸元の電話を逆探知しよう」
田ノ木は今かかってきた非通知の幸元の電話、今どこにいるのかをたった今ここで割り出すと野本に言った。
「そんなにすぐに出来るわけ?」
「俺を誰だと思ってんの?」
「・・・仕事の出来ない刑事?」
「・・・」
「分かったわよ。じゃ、いいから早くやてみせてよ、時間無いんでしょ?」
ぶつぶつ文句を言いながらも作業に入る田ノ木は、何かやりきれない気がしていた。
ややしばらくしても逆探知の結果が出ない。
「まだ?」
「そうせかすなよ」
「本当にできるわけ?」
せかす野本に乗るわけにはいかない。
なんせ、本当に逆探知が出来ないのだから。
どうしたことかと首を傾げる田ノ木は、幸元の旦那のことを思い出した。
その手のプロでもあった。
こんなことは朝飯前だ。
だからこそ幸元は今いる場所に設置されている、逆探知不可の設定にしてあるであろう電話から電話をかけてきたに違いない。
それを本人が言っていたのを思い出した。
『どこにいるのかはちょっと言えない』
それが全てだ。
「出来ないんでしょ?」
野本が田ノ木の手元を覗き込んで、携帯と田ノ木と安西をそれぞれに見て、安西の側に置いてある椅子に腰を預けた。
「幸元の旦那が逆探知出来ないようにしてある電話でかけてきたんだと思う」
「でしょうね、だから非通知だったんでしょう?」
「お前は何でもお見通しか?」
「嫌みじゃないわよ。こういう性格なの昔から」
「明日合流したら聞くことにする。もしかしたらこっちの助けになるかもしれない」
「あ、そうなの。じゃ、あたし帰ろうかしら」
野本が椅子から立とうとしたのを田ノ木が制した。
「今日は俺らは病院泊まりだ。しかもこの部屋にな」
「は?冗談でしょ?一晩あんたと一緒ってこと?冗談は顔だけにして。そして寝言は寝てから言ってくれる?」
「失礼な言い方だな。それに安西もいるから3人だな。二人じゃない」
「・・・本気?」
「冗談に聞こえるなら、もう年だな」
またも野本がカチンとすることを言う田ノ木は、やはり変わらないスタンスだ。
そりゃそうだ。人間そう簡単に性格は変わらないものだ。
「あんたは廊下で寝なさいよ」
「なんでだよ」
「ここには女子が二人いるのよ」
「・・・女子と言うのには気が引けるけどなぁ」
「帰ろうかな」
「殺されてもいいなら帰れ」
ちっと得意の舌打ちを一つすると渋々ソファーに腰を落とした。
側で突っ立っている田ノ木に、あんたはそのへんの椅子に座って寝なさいと命じ、自分はソファーに横になり、部屋に用意されていたブランケットをソファーのところに持って来て、確保した。
「おい」
「気持ち悪いから呼ばないで」
「・・・いちいち面倒くさい奴だな。一つ聞きたいことがある」
「ねぇ、さっきから聞きたいことばかり聞いてるじゃない?」
「お前もう更年期だな」
「あったま来た、このアホタヌキ」
ブランケットを田ノ木に投げつけた野本は、何か他に投げつける物がないかその辺を目で探した。
田ノ木と野本の間に火花が飛んだ。
両者とも目を離さないその姿勢はさながら雄ライオンの睨み合いにしか見えない。