■ キーマンは逆探知を希望
「幸元以外は皆捕まってる」
「そ。で、幸元さんは今どこにいるのよ」
「それを今から電話して聞くんだろうが」
「・・・ほんと仕事遅いわね」
ちっと大きく舌打ちをした田ノ木は野本を睨みつけた。
相変わらず噛み合わない田ノ木と野本の二人は病室の中にも関わらず悠々と電話をかけていた。
「で、他の人はどこにいんのよ」
「コンテナの中だ」
コンテナって言葉に首を傾げた野本は少し険しい顔をしたが、田ノ木は野本に背を向けながら電話の画面に幸元を呼び出しているため、そんな野本には気付かなかった。
野本は未だ意識が戻らない安西の顔をちらっと見て、複雑な顔をして病院の外の廊下に目をやった。
「ねぇ、そんな簡単にコンテナなんて用意できるわけ?」
「そのルートさえあれば簡単だろう?」
ルートがあれば・・・ねぇ。
何かを考える風な野本を横目に幸元に電話をした田ノ木は、しっかりと意識の片隅に野本の存在を捉え、何を考えて、何を言おうとしているのかを汲み取ろうとしていた。
「例えばさ、あんたは簡単に逆探知なんてことができるんでしょうけど、それも今この場でできたりするの?」
とんでもない野本の質問に思わず電話から耳を離した田ノ木は、今電話中なのが見えないのか?と電話をわざと振りながら、嫌みを言った。
そんな田ノ木の嫌みに野本は、綺麗に髪を後ろに払い退けながら、幸元さん電話に出てないじゃない、そんなのは電話中って言わないのよ。それは呼び出し待機中って言うの。
さっさとあたしの問いに答えなさいよ。と、上から被せた。
人に何かを聞く時にこの大きな態度とは何事だと思う田ノ木だったが、確かに幸元は電話に出ないので、野本の言うことも一理あると変に納得するところでもあった。
「あたし、なんか少しだけ気付いたかもしれないのよね。てか、気付きたくなかったとも言えるんだけど」
安西のベッドの横に椅子を置き、そこに座って安西の手を取った野本はその手を優しく撫でた。
しかし、安西が握り帰すことはなかった。
「この子のおかげかもしれない」
「この子?・・・一体どういうことなんだ。お前と安西にはどんな関係性があるんだ?」
田ノ木は電話を切って野本に向き合った。
漢字の川の字のように深い皺を眉間に三本寄せて野本の目の奥の本当の心を覗き込もうとしたが、野本は目を伏し目がちにして表情を読み取らせることはなかった。
目の動きでその心理が分かる。
それが分かっていればその対処法も簡単に分かる。
むしろ、そこのところは田ノ木に負けず劣らず、人の心を読むことにかけては、同じくらいかもしくはそれ以上だ。
「そろそろ話してはくれないか」
絞り出した声は怒りを静めるようにどっかりとした重たい言葉となって空中に溶け込んだ。
「そうねぇ。どうしようかなぁ」
にったり笑った野本は田ノ木を見ることなく安西の顔を見ながら笑いかけた。
「カギを握ってるのは今のところお前なんだよ。安西が目覚めない限り答えにたどり着けない」
田ノ木は苛立つ心を理性でぐっと抑え、喉の奥から声を押し出した。
「知ってる」
「だったら・・・」
「逆探知はできるのかって聞いてるんだけど?」
「それが何かに関係があるってわけか?」
「そんなのはやってみなきゃわからないわよ。最初から答えが分かってたら、この大宇宙の仕組みにだって答えが出てるはずでしょ。そもそも私たち人間の根本のことだって答えが出る。分かる?」
「お前、本当に頭にくる奴だな。なんなんだその言い方に考え方は」
「それってあたしにしてみたら最高の褒め言葉。素直にありがとうって言っておくわ」
ここでようやく野本は田ノ木の目を捉えた。
その目に冗談の色は無い。
同じ事は何回も言わせないでときつい目で睨みつける野本の目をまっすぐに捉えた田ノ木は、『できる』と言い切り、一つ頷いた。
それを聞いて満足そうに口角を引き上げた野本は、安西の手をゆっくりとベッドの上に戻し、腕に優しく布団を掛けてやった。