運命の人
正しいことを正しいと言う勇気。
凛とした姿。
幼い彼女は不安や恐怖を隠しながら勇気を出した。
助け舟を出そうと思いながら、めんどくさいと今一歩を出せなかった自分を恥じた。
次にあった時こそ彼女の力になりたい。
家族以外に初めて抱いた思い。
いつか彼女を自分の側に。
「何?相手を見つけた?」
寄宿舎からの手紙。
5歳の時に女王陛下の前で言い切った彼。
その彼の理想。
それは月の女神。
現実主義な父親はそのことを知って愕然とした。
小さい頃に読んで聞かせたという物語。
その中に出てきた女神は、まさに男の理想というより、女性の理想という姿だった。
勇敢で、頭がよい女性。
ふと隣で微笑みながら手紙を読んでいる妻を見る。
そう、見た目こそ可憐で大人しそうに見える彼女は、芯が強く、頭の良い女性だ。
そんな母親からの愛情を受けて育った息子は、理想が高いのだろう。
5歳でそんなことを言い切った息子が理想の乙女を見つけるまでにかかった年月は3年。
まだまだ子供だと言うのに人より早く大人になっていく息子。
それを淋しいと思いながらも父は頼もしさも感じていた。
「ええ、黒髪に金色の瞳をした可愛らしいお嬢さんですって。」
「貴族かい?」
文面を目で追う妻は、ふうっとため息を漏らした。
「違うみたい。」
「そうか、それは苦労しそうだな。」
夫の言葉に妻はコロコロと笑った。
「あの子、貴方に似てちょっと強引なところがあるから、どんな手を使っても探し出して手元に置きそうね。」
視線を天に向けた後、夫は妻を見た。
「私は強引かね?」
「ええ、この私をモノにしたんですもの。強引だったのではなくて?」
出会いからプロポーズ、そして結婚までの道のりを思い出す夫婦。
身分も何もかもお似合いとされていた二人であったが、出会いは最悪だった。
女王陛下の命令のような婚姻。
お互いが素直な気持ちで結婚を決意したのは結婚式の後だった。
「あの時はお互い、素直じゃなかったからね、君には辛い思いをさせた。」
ちゅっとコメカミにキスをされ、妻は体を竦めた。
「そうね、でもライモンは、私に似て人の気持ちもよく理解する優しい子だから、きっと相手のお嬢さんも好きになってくれるはずよ。」
「おやおや私は優しくないのかい?」
ふふっと妻は笑う。
「信用してくれるまでは冷たい人でしょ?でも、その冷たさに私は優しさが紛れてることに気付いたわ。だから、貴方の奥さんになったのよ。」
口付けをかわす夫婦。
側に仕えていた家令は、そっと部屋を出て行った。
それからのライモンは、自分の周りに居る者にもハッキリと自分の意志を伝えていた。
彼女を見つけるまでは本気の恋は有り得ない。
社交界での出会いは、遊び、戯れ以外、何物でもない。
親友のジオンと共にいれば自分も派手な女性遍歴になりそうだとわかったのは、思春期頃。
女ったらしなんて、きっと彼女は好きではないだろう。
そう思い、かなり慎重な付き合いしかしてこなかった。
そんな彼がやっと彼女を見つけ、手に入れたのだ。
「貴方のことは私が一生をかけて守ります。だから、私を愛して?ディアナ。」
甘い囁き。
慣れていない初心な彼女は彼のテリトリーから逃れることはできなかった。
owari