第26話 夜の姫
ナイフを持った男がアルバに迫る。領民たちは皆一様に混乱した。彼はひゅ、と息を呑む。ナイフがアルバに突き刺さるかに思われた、その一瞬のことだった。
「だめ!!」
ノーチェは闇の雷を飛ばす。それは男の腕を正確に貫き、ナイフを落とさせる。
「クソっ。お前ら、やれ!」
男がそう叫んだ瞬間、領民に扮していた刺客たちが、一斉にアルバへと襲いかかろうとした。
「近づかないで!」
ノーチェは彼らの足元に、重くまとわりつく闇を発生させる。彼らはそれに足を取られ、バランスを崩す。近づけないなら、と刺客たちはナイフを投げたり、祝福を使って光弾を放ったりした。
「絶対、絶対に、アルバは守る!」
ノーチェは腕を伸ばす。その瞬間、アルバの前に闇の渦が現れた。渦は音を一つも立てず、光弾もナイフも余すことなくのみ込んでいく。刺客たちは一歩も踏み込めず、戦意を喪失してその場に倒れ伏した。
「夫人! そのまま捕まえてください!」
「分かった」
ノーチェは騎士の声に頷くと、足元の闇で刺客たちの四肢を拘束する。ようやく到着した騎士たちが、彼らを拘束したのを見て、ノーチェは闇をほどいた。
(……わたし……守れた……?)
ノーチェは肩で息をしながら、自分の手を静かに見た。アルバは腰を抜かしたまま、彼女をじっと見つめる。まるで、言葉を失ったかのように。
「……アルバ……?」
ノーチェは恐る恐る名前を呼ぶ。その瞬間、アルバは満面の笑みを咲かせた。
「すごい! すごいよ、ノーチェ!」
彼は割れんばかりの拍手を贈る。
「みんな、今の見た? ノーチェ、すごくかっこよかったでしょ!」
アルバは本当に嬉しそうに破顔する。ノーチェはその姿を見て、だんだんと何かが湧き上がってきた。
「……わたしでも……守れた……」
心がぽかぽかと温かくなる。ノーチェの指先から力が抜け、次の瞬間、膝が崩れた。
「ノーチェ!」
彼はすぐさま駆け寄り、ノーチェをそっと抱きしめる。
「大丈夫?」
「……うん。……力が抜けた……だけ……」
その言葉を聞いたアルバは、ふ、と笑みを柔らかくした。
「そっか。……寝ててもいいよ。後のことは全部、ぼくに任せて」
「……うん」
「助けてくれてありがとう。大好きだよ」
「……わたしも……」
アメジストの瞳がゆっくりと閉じる。ノーチェはそのまま、小さく寝息を立て始めた。安心しきった顔で眠る彼女を、アルバは優しく胸元へ抱き寄せた。その腕の中で眠る彼女を、何よりも大切なものを見るように見つめながら。
そんな二人の頭上には、柔らかい青をした空がどこまでも、どこまでも広がっていた。
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次作(2026/08/15投稿)→https://ncode.syosetu.com/n0301mp/




