第1話 夜明けの王子
ディーア王国の第三王子、アルバ・ディーアは玉座の前で跪き、頭を垂れていた。
「アルバ。此度のポラール王国との和平の実現、誠にご苦労であった」
「お言葉、痛み入ります」
彼の答えに、王は満足そうに頷く。
「して。褒美を取らせよう。何でも申してみよ」
「ポラール王国第一王女、ノーチェ・ポラールに求婚すること。こちらの許可をいただきたい」
アルバがその言葉を口にした瞬間、玉座が凍りつく。
「殿下、お考え直しください!! 彼女は十年前、貴方様のご尊顔に傷をつけ、長年の友好を冷やした張本人ではございませんか!?」
重臣の一人が声を上げた。アルバの頬には、大きな一本の傷跡が走っている。父王は彼をじっと見つめて口を開いた。
「アルバ。お前は、ノーチェ・ポラールを恨んでおるのか?」
「いいえ。この傷は、ぼくが彼女を一人にしてしまった、その証でしかありません」
広間に決意のこもった声が響く。「しかし……」と言い募ろうとした重臣を、王は目で制する。
「本人が恨んでおらん、と言っているのだ。周りが怒る道理もなかろう。闇の祝福持ちの姫とは、縁起が良いではないか。わが国に、星の輝く夜をもたらしてくれよう」
重臣は静かに黙り込む。それを見て、アルバは口を開いた。
「ありがとうございます。陛下、一つわがままを申し上げても?」
「申してみよ」
「求婚の使者として、ポラールへ参ることをお許しください。幼少の約束を、果たさなくては」
彼の目に灯る火を見て、国王は静かに笑いをこぼす。
「顔に似合わず、熱い男よの。よいよい、行って参れ」
「感謝いたします」
アルバは頭を下げる。地平線のかなたからは、朝日が昇り始めていた。
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