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悪女と名高い聖女には従者の生首が良く似合う  作者: 千秋 颯
第二章―魔法国家フォルトゥナ 『魔導師に潜む闇』
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第88話 生徒会

 去り際、ノアが押し付けた紙切れには簡易的な地図が描かれていた。

 それに従い足を進めたクリスティーナとリオが辿り着いたのは生徒会室という看板を吊り下げた部屋の前。


 そこから学院内のレミの立場に凡その目星を付けながらクリスティーナは戸を三回ノックした。


「はい」


 少しの間を空け、生徒会室の戸が開かれる。

 中から顔を出したのは見覚えのない女子生徒だ。

 四角い赤ぶち眼鏡をかけたおかっぱ頭の彼女はクリスティーナとノアを見て首を傾げる。


「……ええと?」


 制服を身に着けていない二人の姿に対し不思議そうな顔をした。しかしその瞳がリオの双眸を捕らえた途端、彼女の顔は明らかに強張る。

 クリスティーナは学院の移動中、奇怪さや珍妙さを隠さない視線が頻繁にリオへ向けられていることに気付いていた。


 それでもあからさまに嫌がる態度を見せる者が少なかったのは傍にノアがいたからだろう。

 例え警戒してしまうような人物を目の当たりにしたとしても、見知った者が顔色一つ変えずに関わっている姿を見ることで人は警戒心を和らげることが出来る。


 しかし、こういった反応を見て、赤目というのはそれだけで悪目立ちするもののようだとつくづく考えさせられる。


 やれやれと肩を竦めるリオに変わってクリスティーナは口を開いた。


「ここにレミという生徒はいる?」

「……あっ、レミ先輩のお知り合いですか? し、失礼しました……!」


 応急措置としての作用が残されたブレスレットのお陰だろう。いくら赤目とはいえ、フォルトゥナ滞在初日のように急に臨戦態勢を取られるようなことはなかった。

 女子生徒はバツが悪そうに頭を下げると戸を開き、クリスティーナ達を中へ招き入れる。


「レミ先輩。お客さんです」

「客……?」


 入った先は中央に長机を配置した部屋。

 両脇に並ぶ大きな本棚には時系列順に纏められた書類や文献が丁寧に並べられている。


 数名の生徒が書類を運んだり机に向き合ったりしている中で、一人の生徒が顔を上げる。

 ローブの下から紫紺の髪を揺らしてクリスティーナ達を見やったレミは一度目を丸くしたがすぐに腑に落ちたように呆れ混じりのため息を吐いた。


「さてはノアの差し金だな」

「言いがかりよ」


 どうせ厄介な案件だろうと言わんばかりにレミはげんなりとする。

 まるでノアと共に何かを企んでいるのではとでも言いたげな発言にクリスティーナは眉を顰めた。


「ならあいつの独断か……」


 どうやら彼は長机に座る生徒の一人へ何やら教えていたようだ。

 椅子に腰かける生徒の脇に立ち、机に広げられていた書類を確認していた彼は相手に一言断りを入れてからその場を離れる。


「アレット先生の元へ行ったんじゃないのか」

「行ってきたわ。その後図書室を見せてもらう約束だったのだけれど……」

「大勢に追いかけられ始めたノア様がレミ様を当たるようにとだけ残して走り去ってしまって」

「ああ……」


 クリスティーナ達へと距離を詰めたレミは二人の説明を聞いて大方の察しが付いたらしい。

 大きく息を吐くと出口である戸へと手を掛けた。


「わかった。要はきみ達を図書室へ連れていけばいいんだろう」

「恐らくそういう事だと思うわ」

 レミが戸を開く。クリスティーナとリオはその後に続いた。

 しかしその足を止めるように後ろから声が掛かる。


「あ、レミ先輩。用事ですか?」

「ああ。少し外すよ」

「そうですか。……あ、そうだ」


 レミを引き留めたのは先程のおかっぱの少女。

 彼女はレミの返事に頷きを返しながらも、何かを思い出したように手を打った。


「もう少しここに顔を出すよう、ノア先輩に言っておいてくれませんか? 引継ぎや必要な活動が終わっているとはいえまだ任期中である以上、生徒会長はノア先輩に他ならないんですから」

「せ……」

「ああ、伝えておくよ。気苦労を掛けてすまないな」


 女子生徒の発言に目を剥くクリスティーナとリオを他所にレミは返事と謝罪を返して今度こそ退室する。

 その背中を見失うことがないようにとクリスティーナ達も続いて部屋を後にするが、その顔には未だ困惑の色が残っていた。


「あの人、時間に余裕があるって顔しておきながら役職持ちだったんですか」

「それが事実なら多忙を極めているものだと思うのだけれど。最近は殆ど私達につきっきりだったはずよ」

「言っても今は引き継ぎ期間だからな。各々の役職の仕事内容を後輩に教えれば他にやることは殆どないんだ」


 顔を見合わせて声を顰めるクリスティーナ達の話が聞こえたのだろう。

 先へ進みながらレミが口を挟んだ。


「……とはいえ、ただでさえ最終学年はばたつきやすい。そんな中生徒会に属しながらも時間を持て余してるのは要領の良いあいつくらいだよ。普通は学業と生徒会の仕事とで手一杯になるはずだ。ぼくみたいにね」


 自分もまた生徒会の一員であることを仄めかしつつレミは大袈裟に肩を竦めた。


 それを視界に捉えながらもクリスティーナは学院内の顔の広さを指摘した時のノアの反応を思い出す。

 口籠もり、よそよそしい様子を見せたのは自分の立場をひけらかすのが憚られたからかもしれない。


「優秀なのね」

「それが妥当な評価だろうな」


 クリスティーナは会話を交えつつレミの様子を窺う。

 脳裏をよぎるのは昨晩の彼の様子だ。

 体調も精神面も明らかに不安定であったレミだが、前を歩く彼にその面影はない。


 フードの下に隠された顔色まで窺うことは出来ないが、少なくともその声音や振る舞いからは昨晩の様子を連想させるような何かを感じることはない。


 前を歩く青年の様子を気に掛けながらも、昨晩の件について触れることは出来ず。気が付けば別館の入り口まで辿り着いていた。


「ここが図書館だ」


 移動中見かけた通常の教室達とは違った、大きな両開きの扉。

 それを押し開けるレミに続いてクリスティーナとリオはオーケアヌス魔法学院の図書館へと足を踏み入れた。

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