秘密を探れ 唐突に始まる昔話、突然湧き上がる設定、特に意味はない
名前を付けると(仮)が付く
ある日ふとした疑問がユースティアの頭に浮かぶ。
「そういえば主人様の名前知らない」
「私も存じ上げませんね」
「直接聞いてみればよろしいのでは?」
「ここに来てからもうかなり立ちますけど、今更名前を知らないので教えてくださいって言える?」
「まあ…聞けませんよねぇ…」
「知っていそうな方達に聞いてみましょうか」
ユースティア、マキナ、テレサによる聞き込みが始まった。
聞き込み開始、ニールの証言。
「んー?ご主人様の名前?」
「はい」
「気にした事ないから知らないなぁ、ご主人様はご主人様だし」
「そうですか…知っていそうな方は?」
「タニアなら知っているかも?」
タニアの証言。
「名前ですか…昔に興味があったので調べたことはありますが…覚えていませんね。
ご主人様はご主人様ですので」
「何を調べていたのですか?」
「確か…お伽話や神話でしたかね…?」
「お伽話に神話ですか…有難うございます。
ほかに知っていそうな方は居ますか?」
「エリスかなぁ、普段冷静に見えるけどご主人様大好きっ子でご主人様に関する事だと大体知ってるし」
エリスの証言。
「ご主人様の名前ですか、確かに存じておりますが」
「それで、ご主人様の名前は?」
「聞きたいですか?」
「はい」
「どうしても?」
「はい」
「では教えますね、――――――です」
「今何とおっしゃいましたか?」
「/-//-/-です」
「名前の部分がよく聞き取れないのですが…」
「それはそうでしょう、自分で調べて真実に到達しなければ分からない様になっています」
「何を調べればよろしいのでしょうか?」
「まずがお伽話から、その後に神話、最後にメイド長達と答え合わせをして完了です。
まあ…あなた達であれば200年もあれば辿り着くでしょう」
「にひゃ…もう少し何とかなりませんか…?」
「なりません、お伽話から始めて神話、最後に答え合わせという情報でも大分譲歩しています」
「わかりました…後は何とかしてみます」
「はい、頑張って下さいね」
聞き込み終了。
「名前の一部だけでも聞き取れましたか?」
「いえ、まったく」
「全然わかりませんでした」
「エリス様の出してくれた情報通りにお伽話から調べるしかないようですね…」
「お伽話もかなりの数があるから総当たりするしかないです」
「神話の方も今と昔では内容が都合の良い様に書き換えられて原型の無い物もありますので大変ですね」
「一つ一つ三人で調べるか分担して調べるか…」
「ユースティアがお伽話、テレサは神話の方をお願い、気になる所を抜き出した物を私が一つ一つ確認していく」
「わかりました、神話であれば多少なりとも学んでいますので調べて置きましょう」
「お願いしますねテレサ、マキナ、お伽話を片っ端から集めに行きますわよ」
調査開始。
「どうですかマキナ、そちらは何か分かりましたか?」
「お伽話と言う物は大抵は大昔にあった事が元になっているのも多いので、テレサに神話で気になる所を抜き出して貰ったのと照らし合わせている所です」
「そうですか、また気になる所を見つけたので纏めた物をここに置いておきますわ」
「今度は…狐と子狐ですか」
「メイド長が狐人族なので何となく…ですが」
「わかりました、テレサの集めてきた資料と照合しておきましょう」
「マキナ、追加の資料を持ってきました」
調査はまだ始まったばかり。
なにやらユースティア達が私の名前を調べているらしい。
「どうしますか?ご主人様」
「んー、まあいいんじゃない?」
三人が何時答え合わせをするかは知らないけど、駄目だったら狐さんがもう待ったをかけているし。
「では三人の事は置いておきましょう、フローレンスが先程真実に辿り着き答え合わせを完了しました」
「フローレンスも調べてたの?」
「はい、以前に三人を引き取った時から調べていたようですね。
元々神話を読み解くのが趣味の様でしたので、さほど時間はかからなかったようです」
「それでフローレンスは何と?」
「ご主人様はやはりご主人様ですねと」
まあ、そうだよね。
「三人は何時くらいに答え合わせにきそう?」
「エリスの見立てではあと200年位、私の見立てでは300年位ですかね」
後200か300年たった後にあの三人がどんな顔をするのか、少し楽しみである、忘れてるだろうけど。
「これとこれの内容が似ていて怪しい気がするのですが、どうです?」
「確かに似ていますね」
「これ以外はもう思い当たる節も有りませんし当たりではないでしょうか?」
「それではメイド長の所へ行ってみましょう」
「以上が私たちの答えです、どうですかメイド長?」
「…」
思ったより早く来た三人の答え合わせ、狐さんが少し溜める。
「…」
三人も息をのみ狐さんの答えを待つ。
「はずれです、2.3日で辿り着けるほど甘くはないですよ?」
三人はテーブルの上に突っ伏した、自信満々に答え合わせに来たが見当違いである。
狐と子狐のお伽話から辿っていって神話の似たような部分と合わせたようだけど、そこは間違えてはいない。
ただそれは違う人だから正解ではあるけど間違いである、フローレンスほど神話に深くはなかったか…
「少しだけ情報を与えましょう、狐と子狐のお話は私達を模倣した者を元に作られた物です。
その話に出てくる狐が存在していたのは確かですね」
三人は狐さんから情報を少し貰い再び本を部屋に大量に持ち込み調べ始めるのであった。
その後も何度も答え合わせに来るが全て人違い、模倣の模倣だったり、伝わっている見た目が似ているだけだったり、どんどん迷走していった。
「ヒントと言うか…屋敷には答えがごろごろ転がっているのにねぇ…」
「そこに気づかない様ではまだまだですね、エリスの見立てより私の見立ての方が正しいようです」
このまま迷走が続けば狐さんの言ったように後300年ほどは掛かりそうだ。
「屋敷にいる者達には直接的な情報を出さない様に伝えておきましたので、大いに悩んでいただきましょう」
「狐さんも意地悪だなぁ…」
狐さんを愛でつつ三人が予想を覆してくれるか予想通りに300年後かを少し考えた、多分無理そうだな…
「ユノー様、フローレンス様、神話について少々御教授を頂きたく…」
「あら、テレサが神話を学びたいとは久しぶりですね」
「よろしいでしょう、ではこちらへ、内容が内容ですので防音を施します」
「有難う御座います」
「まずは今現在の教会などで使っている聖書や経典とその原本の違いについてからですね」
ユノーが現在流通している聖書と経典、そしてその原本を取り出す。
「原本があるのですか…」
「面白いのは原本が全て正しいというわけではなく、原本にも間違いはあり、修正されて後に出された物の方が正しい部分もある、ということですね」
「テレサが学んだ聖書と経典は…こちらですね。
それと神話にも言える事ですが、後に読み解かれた物の方が正しいことも有ります」
その後暫くユノーとフローレンスを教師にテレサが勉強をし始めた。
ユースティアとマキナはずっとお伽話とにらめっこをしていた。
「それで、今度はユノーとフローレンスをお供に答え合わせですか?」
「はい、確信が持てましたので」
「よろしい、では答えを聞きましょうか」
「ご主人様は…ご主人様ですね?」
「はい、その通りです」
正解してほっとしたような、なんだか抜けたような、何とも言えない表情をしていた。
「聞き込みをした者達も皆言っていたでしょう?ご主人様はご主人様と」
普段から屋敷のメイド達がご主人様としか呼ばないから地味に分り辛いが、取りあえずは正解である。
「まあこうなったのにも理由はありますが、聞いていきますか?」
「はい、ここまで来たら聞いておきたいと思います」
「では少し昔話をしましょうか。
まだ私が生まれて間もない頃ですね、ご主人様はあの頃はまだ名前を持っておりました。
ルシフや初期から仕えている者達と出会ったのもその頃でしょうか。
あの頃は私も含めルシフ達も少しやんちゃでして、出会って目が合うなりすぐ喧嘩をしていました。
そんな事を何年も続けていた時にご主人様がひょっこり現れたわけですね。
そしてご主人様はこういったわけです、君たちそんなに可愛いのだから喧嘩ばかりしてないでもっと可愛くなってみないか?と」
赤裸々に暴露される昔話、少し恥ずかしいので子狐さんになって狐さんに抱き着いて顔を埋める。
「私はもちろん、その場にいた者も何を言ってるんだこいつはと、邪魔だから排除しよう、してしまおう。
そう思い排除しようとしましたが、まあできなかったので今こうなっているわけですね。
今のご主人様からは考えられないですがあっという間に取り押さえられお持ち帰りされました。
その後汚れた体や髪を念入りに洗われて、ボロボロだった服も綺麗なものを着させられ…」
あの時みんな泥だらけの上に服は破れ放題、髪はぼさぼさ、見ていられなかったんだもん…
「ほらこんなに綺麗に可愛くなったと鏡の前に連れて行かれて自分の姿を見せられました。
そんな姿になった私達を見てニコニコ笑ってたのを見て最初は殺意がわきましたが。
暫く一緒に過ごしている内に争うのも馬鹿らしくなり一緒に暮らし始めたのです」
出会った頃の狐さんは態度が非常に刺々しく、今の姿からは想像もできんね。
「一緒に暮らし始めてその時気が付いたのですが、私とルシフは他の者よりも力はありましたが、ミネルヴァ達みたいに名前がなかったのです。
それでご主人様がつけて下さったのですが、私はもう願いを叶えたから力もいらないと、名前と一緒に力のほぼ全てを私とルシフに譲渡した結果名前を失いました。
その事にはもうベタ惚れしていましたので必死に止めましたが、まあ今に至るですね」
他人に過去の秘密を明かされる恥ずかしさは何時まで経っても慣れない、狐さんにぎゅっと抱き着くと頭を撫でてくれる、はふぅ…癒される…
「他にも色々ありましたが名前に関してはこんな所でしょうか」
「ご主人様に名前を付けることはできないのでしょうか?」
「無理ですね、ご主人様より上位の存在は居ませんのでもう二度と名前を付けることはできません。
お伽話や神話に模倣した者の名前はあれど、ご主人様の名前が無いのはそう言った理由です。
この話は辿り着いた者へのご褒美みたいなものなので他言無用でお願いしますね。
言ったところで何を言っているか分からないようになっていますが」
フローレンスもそんな事が有ったんだなぁって顔をしている、フローレンスは聞いてなかったのか。
昔話をしたのは予想より大幅に早く辿り着いたご褒美みたいなものだろう、代償は私の心の傷。
恥ずかしいので狐さんの尻尾を弄って気を紛らわせた。
「テレサ、一足先に辿り着いたって本当ですの?」
「ええ、少し聖書や経典などを学び直したところ辿り着きまして」
「答えを教えてもらう事は…?」
「残念ながら、誰かに教わり学ぶ事は禁止されていないので誰かに教わるしかないでしょう」
「教わるなら誰が良いのでしょうか…」
「そこも自分で探して頂くしかないですね…私は禁止されていますので先にお断りさせていただきます」
「むぅー…すごく気になる…」
「それでは私は失礼させていただきますね、ルシフ様に呼ばれていますので」
「テレサがご主人様の秘密を少し暴いたって聞いたよー」
「メイド長から昔話を聞いただけです」
「ははは、知ってる、あの場に私もいたし」
「気づきませんでした…一体何所に…」
「フローレンスの隣にいたじゃない」
「一緒にいたのはユノー様では…?」
「ああ、あれ私、ご主人様ほどではないけど狐も私も少しなら見た目変えれるからね、ははは」
「では本物のユノー様は?」
「答え合わせの時に入れ替わって貰った、あの時の話を聞くのが未だに辛いのもいるからね」
「それほどまでの哀しみが?」
「いや、笑いが耐えられないって。
9人の女達を屋敷に連れ込んでおめかしして、みんな仲良くなった所で、願いは叶ったからもう力はいらないって、力のほぼ全てを譲渡した挙句名前まで無くすとかどんな大馬鹿だよって。
その時まだ誰一人として手を出されてなかったんだよ?
持ち逃げされてもおかしくない状態でそんな事やったからもう皆大笑い。
その後私と狐でご主人様を襲ってなし崩し的に全員に手を出すようにして、苦労したなぁ…
まあそんなこんなあって皆でご主人様を守ろうねって、皆で決めたのさ」
「いい話なようなそうでも無いような…」
「狐が言ってたでしょ、出会ってすぐに喧嘩をしてた私達を即座に取り押さえられる力が有ったわけだし。
その力を使えば誰でも跪かせる事ができた筈なのにそれをしなかった、その気になれば今存在している神域ですら雑草を抜くくらいの気軽さで消せるくらいの力だからね、いや…それ以上かな?
狐と私に平等に分け与えられたし、狐が別次元とかに海を創ってるのも元々はご主人様の力だね。
今此処にいる皆が笑顔で暮らしているのを見れたからもう満足だーって力を放棄しちゃったけど」
「ご主人様にそこまでの力が…今のご主人様からは想像できませんね」
「ははは、ご主人様は何やっても死なないし消滅もしないけど、今の身体能力とか非戦闘のメイド達以下だからねぇ。
昔は大変だったんだよー、力を譲渡して弱体化したご主人様の領域を奪おうと各所から攻められたりしてねぇ…
まあ私と狐二人で消滅させて事なきを得たけど、ははは。
今残っているのは様子見してた所と最初から何があってもご主人様の味方だった所だけかな?
そことは今も細々と交流を続けているし、向こうから惚れ込んで座を託してメイドになったのも何人かいるね。」
「しかし…今日のルシフ様良く喋りますね」
「昔話だからね、良く口が回るのさ」
「少し目が赤いですよ?」
「ははは、そこは見逃してほしかったなぁ」
「ルシフ様、少し失礼しますね」
「ありがとね、テレサ。
何でもできたはずのご主人様が、私と狐の為に自分の名と力を捨ててまで…名前を付けてくれたのは嬉しいけど、やっぱり悲しくてね…少し胸を借りるよ…」
「ええ、何時までもお貸ししますね…」
最近テレサが以前よりルシフについて回るようになった気がする。
まあ仲が良いのは良い事だ、今日もメイド達の尻尾などの手入れをがんばろう。
しかしユースティアとマキナは大丈夫だろうか、毎日唸りながら本を読み続けているが…
読んでいる本も答えとは関係の無い物であるが、情報は出すわけにはいかないので、お茶とお茶菓子だけを差し入れ立ち去る。
この調子だと本当に300年コースかな…たまには実家に帰らないと源泉で寿命が延びてるとはいえさすがに国王が隠居するぞ…
なお1年位唸り続けた結果ユースティアとマキナはもうご主人様はご主人様だからいいかと結論を出して放り投げた。
エリスと狐さんの予想が外れ、密かに行われた賭けは勝者無しとなった。
そしてユースティアとマキナの両親は唸っている間に隠居して温泉街で暮らしてた。
饅頭を買いに行ったら温泉卵をつついてる四人と遭遇。
事情をしる息子に王位を託し夜逃げの如く温泉街まで逃げてきたらしい、マキナの両親も息子が成人したので家督を譲り温泉街まで逃走。
後でユースティア達に教えたら国に向かって行ったので丸く収まるだろう、多分。
「わし、もう息子に王位を託したから!もうこれ以上政治に関わらなくて良いもん!」
「もん!じゃありません、戴冠式もせず手紙と王冠だけ置いていってもダメです、認められません」
「他の国からの圧力が凄いんじゃよ…会談する度にいつまでも若くていいですなぁとか、わが国にも女神に降臨して頂きたいものですなぁとかネチネチ言ってくるんじゃよ…
若いのも女神様が降臨したのもわし関係ないのに…」
「はいはい、それは置いておいてせめて戴冠式はしましょうね、そうしなければ王位はお父様のままです」
「うん、する、戴冠式して妻と隠居する」
その後戴冠式が行われ念願の隠居生活を開始したとかなんとか。
マキナは両親と温泉街で饅頭食べてた。
 




