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「そうですか。認めましたか。意外と素直なところがあるのですね」
帰ってきてからミラノとのやり取りを話すと、伽音はそう言った。
「むしろ無理をして嘘をついていたんじゃないかな」
「確かに彼女にとっては無理なキャラ設定だったかもしれませんね。しかし、不死を願う猫の妖かしですか。ある意味、彼女にはピッタリです」
「どうして?」
「好奇心は猫を殺す……と言うでしょう。なんなら語尾に『にゃ』とでもつければ、もっとキャラが立つものを」
「伽音さんはもっと何か彼女のことを知っているみたいだね」
「そんなことはありませんよ。ただ、私はあなたと違って、全てを疑うところからはじめるのです」
「今は何を疑っているの?」
「気になりませんか? なぜ彼女はその妖かしを受け入れたのでしょう?」
「受け入れた?」
「そうです。私の見たところ、彼女自身が妖かしと化したわけではない。妖かしが彼女に取り憑いたのですよ」
「どうしてそう思うの?」
「妖かしになる者は、強烈な体験が元になることが多いからです。しかし、彼女の場合はそれがない。子供の頃からの力でもない。どこかで妖かしが彼女に取り憑いたと考えるほうが自然でしょう」
「彼女はそれを知っているの?」
「さあ、それはどうでしょうね。彼女には、自分自身も知らない秘密があるのかもしれませんし」
「あの写真の女性のこと?」
「そうかもしれませんね」
「伽音さんは、あれが誰なのか知っているの?」
すると伽音はニンマリと笑った。
「あれは彼女のお姉さんでしょう」
「お姉さん? どうしてそれを彼女は知らないの? いや、彼女はともかく家族の人たちはどうして? まさか彼女に嘘を?」
「いいえ、おそらく本当に忘れているのです。そして、それこそが彼女のお姉さんの力なのです」
「それじゃーー」
「妖かしは彼女ではなく、彼女のお姉さんですよ。彼女はその影響を受けたのです」
「どうして伽音さんはそれがわかるの?」
「あなたもあの家に行ったじゃありませんか。彼女の部屋を見たではありませんか? あの二段ベッドを。普通、兄弟のいない家庭で二段ベッドなど買いませんよ。彼女の部屋にあったもの、あの多くがお姉さんのものだったのではないでしょうか。彼女はそれを貰い受けた」
「だから伽音さんは部屋のものを調べていたの? じゃあ、どうして一人っ子だなんて」
「そう思い込んでいるのでしょう」
「彼女のお姉さんはどんな人なの? なぜ、そんなことに?」
「そこまでは私にはわかりません。二宮瑠樺の羽を使えばわかるかもしれませんけどね。でも、それを使ったからといって幸せになれるとは限りません。そう思ったからこそ、御厨ミラノも羽を使おうとはしなかった。わからないからこそ知りたくなる。いつでも知ることが出来ると思えば、それで必要以上に知ろうとはしなくなる。それで良いのですよ。常に真実を知らなければいけないなんてことはないのです」
その言葉にドキリとする。それはまるで自分に向けられた言葉のようにも思えた。
「伽音さん、君は何者なの?」
「おや? どうしてこのタイミングでそんなことを?」
「一条家に関わる者の多くが妖かしと関わりがある。ボクにもその力がある。それなら君にもその力はあるということだろ。君は何者なの?」
「私は人間ですよ」
「人間?」
「そう、ただし人間の妖かしなのですよ」
その低い声はゾクリとするほどのインパクトがあった。
「人間の?」
「私はかつて大切な人を奪われ、その恨みや憎しみ、悲しみから、ある妖かしに自らを投じたのです。そして、長い年月をかけてそこから人の姿を持った違う妖かしとなったのです」
「どうしてそんな話を?」
「あなたは知っておくべきだからですよ。前にも話したはずですよ。死んだ人間の恨みや呪いは、獣の肉体を使って妖かしとなる。私の場合、それが人間なのですよ。もっとも恐ろしく、もっとも強い恨みから出来ているのです。どうです? 怖いですか?」
「いや、そう言われてもピンとこないな」
「しょうがありませんね。それも二宮瑠樺によって一度、消されてしまっていますから」
「瑠樺さん?」
「気にしなくてもけっこうです。私の話はただの余談でしかありません」
「そう言われてもーー」
「憶えておくといいですよ。人間も妖かしもそう違いがあるというものではありません。そして、あなたという存在だって、決して特別なものでもありません。気楽にかんがえればいいのです」
きっと伽音は、自分を思いやって言ってくれたに違いない。だが、その言葉はむしろ響にとって重いものとなって心に届いていた。
自分の存在というものに、いつか向かい合わなければいけない。その気持が以前にまして強くなっていることに気づいていた。
了




