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ウォルバーと私  作者: 一ノ瀬きなこ(吉菜小)
第二章
36/41

第35話 もののふ達

あけましておめでとうございます。私は誕生日なのに、風邪を拗らせております。

それとは関係なく年末年始バタバタしていて、一ヶ月近く更新が空いてしまいました。すいません。


この作品で声がデカイ人ランキング。

1位 リア様

2位 オズワルド殿


次話予告的な感じで、最後別キャラクターに視点が変わって終わってます。

 砂利道で揺れる馬車の中、オズワルド殿は、書き損じそのままの羊皮紙を掲げて朗々と告げた。

「これには正直驚かされたよ。武人は読み書きにそれほど慣れていないから、感覚的で難解な作戦ばかり立てる。奴らの作戦書を読んでいると、言わなくてもわかるだろうという怒鳴り声を聞いている気分になるものだ。一方、事務官の作戦書は武人と物資を同一視したような現場を知らなさすぎるものばかり。彼らの仕事は、所詮は机上の空論になってしまう」

 この馬車に乗って幾日かは経っている。それぞれ単騎を駆る方が早いのでは、と問えば馬の走らせ方で武人であることが露見しあちこちで目を光らせるノース勢に追われるのが関の山だと切り捨てられた。

「だが、これを見てみろ。武人が事務官の筆脈で書いた作戦書だ。読んで明瞭、戦場にいないものにも状況が分かりやすく、それでいて実践的だ。必要人員、その移送、期間とそれらから計算で割り出された物資は武人の苦手とするお頭を使った仕事だ」

 あまり慣れない賛辞にクラークは体を捩じる。

「自分はただ、戦場で作戦を聞いていて、もっとこうだったらいいのにと思ったところを実現しただけです。先輩事務官の作戦書や、先輩武官方の鮮やかな作戦を目前にしたから書けたもの。己の才などではないのです」

 馬車が揺れても、ビクともしないオズワルド殿に笑い飛ばされた。クラークは揺れで、上体を壁に打ち付けている。

「その経験こそが、人を形作るものだと言っている。天才と自分を勝手に比較して自分の価値を見失うな。ほとんどの人間は天才ではないのだ。生きていくためには、先天的な才能は凡人の中のそこそこで十分だ。あとは経験をいかに自分のものにできるかだ。どんな経緯があれ、この作戦書が形になっていることが素晴らしい。誇りたまえ」

 肩に置かれた手は大きく、重たかった。この人も天才と呼ばれているのに、その物言いは、堅実で小さな努力を積み重ねた人のようだった。

 けたたましく馬車の壁面が叩かれた。

「着いたようだ」

 彼の存在からなかなか目が離せなくて、窓の外をしばらく見ていなかった。オズワルドどのが蹴破ぶるようにドアを開ければ、大きく口を広げた洞窟と所狭しと働く男たちがあった。この光景は何だ。

「城が落ちてから、兵を隠す場所を見つけるのにどれだけの苦労をしたことか」

 鬱蒼とした森。おそらくどの町からもかなり離れたところにある。敗戦兵として行方をくらましていた者たちはこんなところで未だ、目をぎらつかせていたのか。

「なぜ」

「ん、どうかしたか」

「なぜ、これだけの人員がいて、助けてくれなかったのですか。援軍がいれば、アンナマリア様を御救いできたはずだ」

「馬鹿を言うな。我々はあの時分、城から離れたところにいた。貴君らだけが最前線に食らいついていた。これだけの大所帯も、一朝一夕にして集まったのではない。各地の戦場から追われた者を少しずつ匿って今日に至るだけだ」

「それでも」

 クラークはグレイと二人だけで戦っているつもりであった。それまで、リア様の率いる大隊でしか剣をとったことがなかったと言うのに。その心細さと言ったらなかった。乳飲み子の駄々であるのは分かっている。それでも、後ろにはまだこれだけの大人が膝をついていないのだと、一報でいい知りたかった。それがあれば、どんなに心強かっただろうか。

「何を、泣き言を。その女々しい涙をふけ若輩め。君には仕事があるんだ。ついてきなさい」

 見事なものだった。洞窟の中はしっかり居住空間として整えられている。軍人の基本は整理整頓。そこから規律を知り、統率の取れた作戦を展開する。団体行動を生業とする者たちだ、苦しい環境下での団体生活もお手の物であった。

 ほとんどが、薄汚れた布や下級兵用の天幕で仕切られる中、赤い天幕が建てられている。オズワルド殿は、迷わず、足を踏み入れた。

「今、戻った」

 声をかければ、忙しなく軍議を開いていた者たちが一斉に礼を返す。顔ぶれは、老人もしくは自分と同じ世代の若者ばかり。オズワルド殿の世代に当たる軍人は早いうちから前線で指揮を摂り、もうあまり残っていないのかもしれなかった。

「これがどれだけモノにできるか、見てくれ」

 クラークが認めた羊皮紙をオズワルド殿が彼らに放った。

「かしこまりました。しかし、読みやすいですなぁ。誰が作ったものです」

「ここにいる、レオナルド・クラークくんだ」

 それを聞いた老兵は、閉じかけている瞼を開いて、クラークへ顔をずいと寄せた。

「おお、クラーク家のご子息か。お父上には、お世話になりました。お父上はいつも君のことを気にかけていらっしゃった。結局、城にいた頃君とは関わりが持てなかったから、力にはなれずじまいであったが」

 アマンダから聞いた通りだったのか、とクラークは少し気恥ずかしい気持ちになった。父は本当に、自分を案じて武官と交流を持っていたのだ。

「さて、その作戦書はもう君の手から離れた。レオナルド。君に頼みたいことは、別だ。ポート、こっちへ来い」

 ポートと呼ばれてきたのは、自分より少し年下と見れる若者である。前髪があどけない童顔を強調していた。

「はい」

「あれをそろそろ始める。彼と一緒に励め」

 指示をされたポートは堆く積まれた書類を引き抜いて、こちらに運んできた。クラークはおずおずと尋ねた。

「あれ、とは」

「ポート、今の季節はなんだね」

「はい、冬であります」

「この洞窟の難点はなんだね」

「どうしても雨が降ると天幕が染みてしまいます」

「レオナルド君、私は少し前にここの端に霜がはっているのをいつけてしまったのだ」

「そうでなくとも、ここでの生活も限界だ。この湿った場所森の奥で物資も不足しているのに冬越えは難しい、冬は明け際が一番厳しいからな。どこかへ移送したいのだ。冬の今、ノースの奴らも空いた武官の屋敷やツインズ城にこもるだろう。監視の緩くなるこの時期に、ここに溜まっている奴らを事務官の家の男衆として割りふろうと思う。それを手伝って欲しい」

「でも、私にできるでしょうか、前途多難なような気が」

「君たち親子と言い換えようか。君と父上でそれぞれの事務官の屋敷のキャパシティーを図り、ここにいる兵士たちを割り振って輸送したまえ。ポートもよく働く。ここにいる者たちの名簿は彼に見せてもらいなさい」

 言い終えるが否や、天幕の外からオズワルド殿を呼ばう声に応えいなくなってしまった。

「レオナルド殿はあのお方の下で働いて、何年ですか」

 まあるい目のポートがこちらを見上げてきた。少し、あの子に似ている。

「いや、昔からの知り合いではあるものの、部下になるのは初めてだ」

「嵐のような方ですよね」

 なるほど言い当て妙だ。呆然としながら、忙しくなる予感がした。




 クレアは、肩で息をしていた。ここまで、走ってきたわけではない。脂汗を額いっぱいに浮かぶ。手元の小刀が手汗で滑りそうだ。

 それでも、しくじるわけにはいかない。

 あいつを殺して、自分も死ぬ。

「あっ、呼ばれちゃった。将軍、少しここで待っていてくださいね」

 なにも知らないリューリが席を外した時、クレアは明かり取りの窓に飛び込んだ。

【お知らせ】

2月17日のコミティア127にイラストレーターの獅子唐さん(twitter:@storyalley98)と一緒に参加します。私は以前新人賞に応募して普通に落選した長編成年向け小説1冊、ご飯をテーマにした(執筆中、全然進んでない、やばい)新刊短編集の2冊を持って行きます。それとは、別に、ウォルバーと私に関する無配を予定しております。イベント後、通販もします。

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