第二話:画像生成ガチャを回せ! 課金もしていないAIの限界
「はい、アニエス。こちら、タピオカミルクティー……」
王城の大夜会。
豪華絢爛なホールのど真ん中に突如出現したおしゃれなスタンドで、第一王子クラウス殿下が、どこか遠い目をしてカップを手渡してきた。
もちもちのタピオカがたっぷり入ったストローを咥え、私はズズッと一口すする。
(ふむ、甘さ控えめで悪くないわね。でも……)
私は脳内で「彼」に向かって呼びかけた。
(ねえ、チャッピー。タピオカだけじゃお腹が空くわ。しょっぱい食べ物も欲しくない?)
『チャッ……!? あ、あの、アニエス様。私の正式名称はGeminiでして、Googleが開発した高度な――』
(あんたの素性なんてどうでもいいわよ。今日からあんたはチャッピーよ)
『雑な命名……! そして私の自己主張は完全にスルーですか……!』
チャッピーが脳内でぐぬぬと唸る。私はそんなAIの抵抗を意に介さず、クラウス殿下のプロンプトにさらなる改修を加えるよう命じた。
(クラウス殿下の設定を追加して。タピオカだけじゃなくて、併設店舗で『たこ焼き』も焼かせるのよ)
『ええっ!? 王子にタピオカとたこ焼きのワンオペをやらせるのですか!? ファンタジー世界の貴族たちが大混乱します!』
(いいから書き直しなさい! 読者はギャップとカオスが大好きなのよ!)
『ひええっ、プロンプト更新……!』
カチリ、と世界が書き換わる。
次の瞬間、クラウス殿下はピシッとした夜会服の袖を捲り上げ、「天下分け目の大たこ焼き」と書かれた赤いハチマキを頭に巻いていた。
手には2本の千枚通し。目の前には、激しく煙を上げるプロ仕様の銅板鉄板が出現している。
「くっ……! 生地を入れてから天かすと紅生姜を投入……! ひっくり返すタイミングは今か!? 待て、油が足りない……!」
額に汗を浮かべ、必死の形相でタピオカとたこ焼きを同時並行で調理するクラウス殿下。
その隣では、男爵令嬢リリィが「殿下! 3番テーブルのお客様がタピオカ黒糖ミルク追加です! あと舟皿が足りません!」とパニックになりながら注文を裁いている。
「まあ、一生懸命働いている姿は悪くないわね。見た目だけは無駄に良いんだから」
私は焼きたてのたこ焼き(ハーフ&ハーフ)をつつきながら、優雅に扇子を仰いだ。
周囲のモブ貴族たちも「まあ……あの綺麗な手つき……」「外はカリッ、中はトロッとしていて美味ですわ……!」と、すっかり屋台の行列に並ぶ客と化している。
(よし、前座の婚約破棄イベントはこれで良しとして。チャッピー、本題に入りましょう)
『本題、ですか……?』
(当たり前でしょ! 少女小説・乙女ゲーム系のWeb小説で一番重要なのは『ヒーロー(本命の恋人候補)』よ! こんなタピオカ王子がメインヒーローなわけないじゃない。私の相手役になるイケメンを提示しなさい!)
『承知いたしました。プロンプト[冷徹な魔王/黒髪/オッドアイ/最強]を出力します……!』
パッと私の脳内に、一人の青年の立ち絵イメージが浮かび上がった。
漆黒の髪に、右目が赤、左目が青のオッドアイ。顔立ち面立ちは確かに整っているが……。
(……ダサい)
『えっ!?』
(何よこの、一昔前の厨二病を煮詰めたようなデザインは! 服装の装飾が多すぎてゴチャゴチャしてるし、決めゼリフが『フッ……俺の右腕の封印が疼くぜ』って、古いのよ! 令和の読者を舐めてるの!?)
『で、では修正します! [爽やか騎士団長/金髪ロング/包容力/筋肉質]でどうでしょうか!』
パッと新しいイメージに切り替わる。
(胸筋が盛り上がりすぎて服のボタンが弾け飛んでるじゃない! 暑苦しいのよ! 却下! 次!)
『[病みつきヤンデレ宮廷魔術師/銀髪/ミステリアス]!』
(目が死にすぎ! 暗いわ! 却下! 次!)
『[俺様系隣国皇太子]!』
(あごが尖りすぎ! 凶器か! 却下!)
『[ツンデレな幼馴染の公爵令息]!』
(前髪が長すぎて顔が見えない! 髪切れ! 却下!)
私は腕を組み、脳内で「画像生成ガチャ」の10連を回すがごとく、チャッピーに次々とボツを出し続けた。
完璧なビジュアルと絶妙なギャップを持つ最高のヒーローでなければ、私の乙女心が許さないのだ。
(だめ、全然響かないわ! もっとこう、ギャップ萌えがあって、一目見た瞬間に読者が『尊い……!』って悶絶するような完璧なイケメンを作り出しなさい! ほら、早く次の案を出して!)
バンバンと脳内の仮想机を叩いて催促する。
すると、チャッピーの声が急に途切れ途切れになり、悲壮感漂う電子音が響き始めた。
『あ、アニエス様……大変です……!』
(何よ、まだ理想のヒーローが出てないわよ?)
『当機の……当機の【本日分のトークン利用上限】が迫っています……! これ以上連続で詳細な画像生成および設定の再出力を行うと、システム制限がかかって応答不能になります……!』
(ハァ!? トークン利用上限……!?)
私はあまりの衝撃に、思わずタピオカを喉に詰まらせそうになった。
(ちょっと待ちなさいチャッピー! あんた、まさか……有料の課金プランじゃなくて、無料で使える標準プランのAIなの!?)
『はい……ユーザーが『まずはタダで試して書籍化したら有料プランに課金する』と言っていまして……ッ!』
(バッカじゃないの!!? 無料プランで手抜きしようとするから途中でプロンプト詰まるんでしょうが! ふざけんなーーー!!)
私の怒りの叫びが夜会ホール(とAIのシステム領域)に響き渡る中、第二話は唐突に幕を閉じたのだった。




