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20.君だけは、誰にも譲れない

朝。


窓から差し込む柔らかな陽射しが、黒羽家を優しく包み込んでいた。


いつものように凛は朝食の準備を終え、食卓へ料理を並べる。


「皆様、お待たせいたしました」


炊きたてのご飯。


焼き魚。


味噌汁。


いつもと変わらない朝食。


「いただきます」


穏やかな時間が流れる。


けれど、その空気は昨日までとは少し違っていた。


五兄弟は皆、それぞれ胸の奥に秘めた想いを抱えている。


恋を自覚した今。


もう以前のようにはいられなかった。


***


朝食のあと。


凛が食器を片付けようとすると、太音が立ち上がった。


「凛、少しいい?」


「はい」


「庭を散歩しない?」


突然の誘いに、凛は小さく首をかしげる。


「もちろんです」


二人は空中庭園へ向かった。


色鮮やかな花々の間を、ゆっくり歩く。


風が優しく吹き抜ける。


しばらく沈黙が続いたあと、太音が静かに口を開いた。


「凛」


「はい」


「俺さ……今まで誰かを特別に好きになったことなんてなかった」


凛は足を止める。


「でも、凛に出会って変わった」


太音は照れくさそうに笑った。


「毎日笑ってくれるだけで嬉しくて」


「頑張ってる姿を見ると守りたくなって」


「気づいたら、凛のことばかり考えてた」


まっすぐな瞳。


「俺は凛が好きだ」


「一人の女性として」


突然の告白に、凛は言葉を失った。


「太音さん……」


その時だった。


「やっぱり先を越されたか」


振り返ると、玖音たち四人が立っていた。


「皆様……?」


紫音が苦笑する。


「悪い。二人で行ったん見えたから、つい来てもた」


玖音は静かに息をついた。


「……先を越されたな」


奏音は何も言わず、優しく凛を見つめた。


玲音は照れくさそうに視線をそらし、小さく笑った。


四人は何も言わなかった。


けれど、その眼差しだけで十分だった。


太音と同じ想いを抱いていることを、凛は初めて知った。


「皆様……」


凛は驚きで言葉を失う。


太音は優しく微笑んだ。


「返事は今じゃなくていい」


「ゆっくり考えて」


「俺たちは待てるから」


玖音も静かに頷く。


「凛が自分の気持ちを見つけるまで、俺たちは待つ」


紫音は照れくさそうに笑った。


「ゆっくりでええよ」


「俺ら、逃げへんし」


奏音は穏やかに微笑んだ。


「……凛には、笑っていてほしい」


玲音も小さく頷く。


「……それだけでいい」


その優しさに、凛の目には涙が浮かんだ。


「皆様……ありがとうございます」


「私は……」


胸へそっと手を当てる。


「こんなにも大切に想っていただけるなんて思ってもいませんでした」


「まだ、この気持ちが何なのか分かりません」


「でも……」


凛は涙を拭い、優しく微笑んだ。


「これから、ちゃんと自分の気持ちと向き合いたいです」


その答えに、五人は穏やかに笑った。


焦る必要はない。


彼女が笑っていてくれること。


それが何より嬉しかった。


***


その様子を少し離れた場所から見守る二人の姿があった。


「ふふっ」


マリが嬉しそうに笑う。


「みんな、大きくなったわね」


隣で黒羽家当主も優しく微笑む。


「凛さんなら、この家を幸せにしてくれる」


空中庭園には、今日も柔らかな風が吹いていた。


花々が揺れ、


六人の笑顔を優しく包み込む。


恋は始まったばかり。


これから笑う日も、


泣く日も、


きっとあるだろう。


それでも。


この家には、一人の少女を大切に想う五人がいる。


そして、その五人を優しく見つめる少女がいる。


それが黒羽家の日常。


少しだけ騒がしくて、


とても温かい、


世界で一番幸せな日々だった。


――完――


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