99.歯車は動き続ける
コンコン。
「お嬢様。目覚めのミントティーをご用意致しました。」
カゲトのブレンドしたミントティー。それが私の目を覚ましていく。
執事の気の利く行動が私の行動をスムーズにしてくれる。
訂正――執事カゲトが気が利くに追加訂正。
コンコンコン。
「お嬢様。目覚めのコーラっす。重い瞼をこじ開けるっす。」
「朝から炭酸はいらんわ!」
いや、朝から炭酸飲料は不健康極まりないって……。目は覚めるのかも知れないけどさ。
「後、もうカゲトから飲み物は貰ってるから。それは自分で飲んで。」
「そんな出遅れてたなんて……。もっと早くに。今度はカゲトさんよりも早く来るっす。」
その時間帯は完全に寝てるね。起こされたら機嫌が悪くなりそうな早朝ね……。
「うん。迷惑!」
執事ハロミトの空回りに頭を悩ませる。普通に好みでなきゃ解雇してるレベルだ。
まぁ、けど……
完璧執事とポンコツ執事が私のために尽くしてくれるのは悪い気はしない。
「茶道は一つ一つの所作を大事にして行います。まず勇者様、お菓子はまだ食べてはいけませんし、草食動物を見る肉食動物のようにがめついてもいけませんよ。」
茶道の稽古が始まった。大まかなことは分かるようになったけど、細かなことがまだ覚えられない。
「勇者様、回しすぎでございます。」
お茶碗を時計回りに回しすぎるハロミトにカゲトが手を焼いている。
「お嬢様だけに限らず勇者様も立派な立場がございます。勇者の立場として最低限の教養は身につけさせて貰います。貴方様ならスパルタでも構わなかったでしょうか。」
「お手柔らかにお願いするっす……。」
情けない声が和室に響いていった。
――――――。
「出発は一ヶ月後だったよね? 確か。」
「ええ。左様でございます。」
「じゃあ、うちは一旦、永久の町に戻っときます。」
フェルナが帰っていった。
「この屋敷も残り一ヶ月でおさらばね。」
カナリンが感慨深そうに頷いた。
「そうでございますね。上級地域の旅は長いものになりますからね。それにお嬢様にとっては、最後の旅となる可能性がございますから……。」
「最後の……旅?」
「ええ。上級地域にて最後に待ち受けるものは魔王討伐でございますので、これからの旅は即ち、最後の冒険と言った所でしょうか。魔王の討伐に成功した瞬間に、お嬢様が元の世界に戻る可能性が大いにある以上、この屋敷に戻って来れるとは限らないのです。それ故に、最後の旅なのかもしれません。」
色々な出会いと別れがあったけど。目的を達成したら、この世界とこの世界の人達とお別れになるのか。
「最後の旅か……。」私は名残惜しくても進むしかない。
春の風が、どこか名残惜しそうに頬を撫でていった。
◆
一ヶ月後――。
「思い返して見れば、すっごく楽しかった。楽しい思い出ありがとね。これでお別れかもしれないから、ここでありがとう言っとくね。そして、さよなら。――行ってきます!」
私は屋敷にお別れを告げて次なる道へと進んでいった。
――――――。
岡山大河町――。
「上級地域はぼっけぇ危険なところじゃ。死になんなよ。では、無事物事が進むことを祈っとる。」
この町の主忍である桃太郎将軍の見送りを受けて、私達は険しい山を登った。
その山の名は――幸せの道。
幸せには程遠く足場の不安定な狭い山道が続き疲れを感じさせる。
険しい山道も残り僅かだ。
「もうすぐで育ちの故郷でござるな。」
ボーニーがカゲトに話しかける。
「えぇ。大変な修行の日々が思い出されますよ。して、私達には魔王討伐のために、二つの石像を破壊しなければなりませんね。そのうちの一つは『風忍』――」
「拙者らの師匠でござるな。」
「師匠には一度も勝てた試しがありませんでしたから、この旅は我々にとっても試練となりそうですね。」
「ああ。頑張るでござるよ。」
カゲトとボーニーは少年時代を共にしている。ちなみに、聞いている情報だと既に死んじゃった女と、ヘイムという男の四人が師匠と呼ばれる人の下で修行に勤しんでいたみたいだ。
「この旅は私にとっても危険な旅。今まではお嬢様や勇者様を守って戦えましたが、今回からはそうはいきません。個々の戦力が問われてきます。ですから――期待しておりますよ。」
この二年近く、カゲト不在で色々なことを乗り越えてきた。私達だって成長している。
「もちろん!」「もちろんっす。」
私は強く大地を踏みしめて先へと進む。
辛いことも乗り越えてきた。ダイセナの負傷、マユダの死。目を背けたいこともあった。けど、成長した今はくよくよと過去に引きずられない。
まぁ、やっぱり心が弱い所もあるけれど、今は全てを糧にして進むしかない。
私は強く大地を踏みしめて前へ前へと進んだ。
ようやく山の頂きだ。
山の頂上から見下ろす景色は、太陽に照らされた広大な土地を映し出す。
緑に包まれた巨大な森が大きく広がる。
あまりに広大で、あまりに自然豊かで、悠々とした勇ましい雰囲気がそこにはあった。
「綺麗――。」
その自然は、私の瞳を虜にしてしまった。
ここが最後の冒険の舞台。
不足はない。
私達の冒険は始まったばっかり――。私達の歯車は回り続けていくんだ。
◆◆
『詩忍にくちなし』~言葉で戦う世界で、「は」しか使えない執事と、お嬢様の成り上がり~
◆◆
あたしは占い師。
面白い未来を見たの。けど、秘密よ。
ねぇ、ヘイム。本当に行くつもりかしら?
止めはしないわ。上級地域は危険なのは、百も承知よね――。
「大丈夫。ボクには今や魔族四天王という兵器があるんだから。」
頼もしいわね。けど、油断はしないことね。
「カゲトとボーニー……。少し彼らとケジメをつけてくるよ。」
行くのね……。
止めはしないわ。
さぁ、未来はどのように転ぶのか。
楽しみね。
歯車はもう動き出している――。
これにて『詩忍にくちなし』第二幕は終了です。
ご愛読ありがとうございました。
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異世界《伝説秘境》【9選】~『詩忍にくちなし』まだ見ぬ出会い(景色)がそこにある~
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(第1幕は下のURLとなります。)
死亡=現実でも死のバグ世界、お嬢様と執事の生存・脱出戦略~『詩忍にくちなし』~
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