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碧い航海日誌   作者: 松本朱海|徒然なるままに
続きの話

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60、 有効期限

楽しい時間は、どうしてこんなに早く過ぎるんだろう。

ずっと続けばいいのにと思うほど、終わりを考えてしまう。

それでも、その手を離したくない。

「行こっか」


そう言って、僕が何でもないふうに手を差し出すと、

たかこちゃんは一瞬だけ迷ってから、当たり前みたいに指を絡めてくる。


……ほら、やっぱり。


こうして歩き出せば……

でも、時間には期限がある。

永遠では、ない。


隣町までは電車で二駅。

今日は妹の七海と母さんに、バレンタインのお返しを選びに行く、っていう名目なんだけど。

たかこちゃんも、ホワイトデーに欲しいものがあるって、珍しくおねだりをされた。


「七海、何色が好きだっけ?」

「んー……たぶん、淡いの。派手すぎないやつ」


真面目に選んでくれる横顔を見てると、

違う世界に引き込まれそうになる。


でも、ふと視線が合うと――


「な、なに?」

「いや……大人っぽい顔してるな、って」


そう言った瞬間、たかこちゃんはくるっと視線を逸らして、


「はいはい、ほら次のお店」


って、すーっと話を流す。

……まただ。


雑貨屋で小さな箱を手に取ったたかこちゃんが、


「これ、七海に似合いそう」


って笑うから、僕は思わず言ってしまう。


「たかこちゃんも、似合いそうだ」


一瞬、空気が止まる。

手は繋いだままなのに、距離だけが少し近づく。


「……朱海さん、そういうの急に言うの反則」

「うん」


困ったように笑って、とぼけるように視線を泳がせるたかこちゃん。

でも、繋いだ手の指が、ぎゅっと強くなる。


「…で、たかこちゃんは何が欲しいの?」

「あ~、ここには無いかな」


結局なにも選ばず、帰り道。

一駅分、川沿いを歩くことにした。


「朱海さん、あのね…」


いつになく、もじもじしている。


「疲れた?ちょっと座る?」

「ううん、ホワイトデーにね…」


立ち止まって顔を覗き込む。

本当に言いたいことは、なかなか言えない子なんだよね。

どうでもいい事は、ぽんぽん調子よく出るんだけど。


「なにがいいの?」


たかこちゃんは少し黙って、僕の袖をちょっとつまむ。


「あのね…」

「うん」

「あのね…腕、組んでもいいですか?」

「え?」


お返しに欲しい物って…。

ダメなわけないだろ。


かっこよく何か言いたいのに、思いつかない。

そういう所なんだよな。

結局でたのは、普通の言葉。


「…いいよ」


たかこちゃんが、そっと腕に抱きつくように近づく。


腕くむって、どうやってやるんだ?

ぼんやりしながら、ゆっくり歩きだす。


「寒くない?」

「…あったかいよ」


プレゼントの腕くみと、甘くてもどかしい沈黙。


言葉にしきれない想いが、

腕の温度でちゃんと伝わってる。


ほとんど何も話さなかったけれど、

すごく幸せだった。


気づけば、二駅分歩いていた。

あっという間だった。


別れ際、たかこちゃんが聞いてくる。


「あの…お返しの、有効期限はありま…」

「せん!」


即答すると、たかこちゃんは一瞬きょとんとして、

それからふっと笑った。


「よかった」


そう言って、小さく手を振る。


……よかったって。

腕を組むくらいで、そんな安心するのか。


少し寂しくなった左腕を気にしながら、僕は家に帰った。


でもきっと――


このお返しは、

ずっと更新され続けるんだと思う。



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