4、 夏祭り
夏祭りとお笑いライブ。
何でもないはずの約束が、
ちょっと特別に変わっていく夜のお話。
4時5分前、5分前行動完了。
朱海班長どこかなぁ。
「ごめん、待った?」
いえいえ、まだ5分前ですから!
「いえ、私も今来たところで!」
「そう、じゃ、行こうか」
鳥居の奥、特設ステージではそろそろお笑いライブが始まるところだった。
「こういうの生で見るの初めてでさ、楽しみなんだよね」
「私もです!一度見てみたいと思ってました!」
どこで見ようかウロウロしていると
「あらぁ、朱海くんに、たかこじゃないのぉ♡」
この声は…ママ!
「こんばんは、ライブ、見に来ました。教えてくれてありがとうございます。」
「あらぁ、良かったわぁ、楽しんでね。」
「はい!」
「あのね、向こうで自治会のチケットを配っているから、もらって行きなさいね。
屋台で使えるから。夕飯作ってないからね。ママもお手伝いしなきゃならないから。
あ~、朱海くん、昔はよく迎えに来てくれたわよね。あの時はありがとうね。
帰り、暗くなったら送ってくれると安心だわ。本当にありがとうね、これからもよろしくね!
じゃぁまたね!」
台風のように過ぎていった後姿をみながら、しばらく瞬きができなかったし。
ママうざ!それ、私のセリフでしょーがっっ!!
しかもライブの話って?
初耳なんですけどおぉ!
なんなのよ!もう!
「そういえば、たかこちゃんも電車で言ってなかった?」
そう!そうなの!
それがメインだったの!
「はい!あの、初詣の時どうもありがとうございました。
それから、小学生の時に一緒に学校に行ってくださって、
とっても心強かったです。ありがとうございました!」
「あぁ、あの時ね。そんなお礼を言われるほどでもないよ。
内心泣かれたらどうしようかと思って、心配だったんだけどね。
素直についてきてくれたから助かったよ。」
言うことを伝えたら、次に言う言葉が無くなってしまって、
二人でにっこり笑って固まっていると、お笑いライブが始まった。
小さな神社のライブだけど、なかなかの人だかりで、
必然的に班長の横にぴったりとくっつく感じになってしまった。
朱海班長背が高いなあ。
顔一つ分くらい違う。
私の前の人の頭でよく見えなくて、軽く背伸びをしていたら、
「こっちおいで、前が小さい子だからよく見えるよ」
つつ―っと朱海班長の前に移動させてくれた。
確かによく見える。
会場が大爆笑になり、私もつられて声を上げて笑った。
そのまま、何気なく班長を見上げたらーーー目があってしまった。
近い…。
思っていたより、ずっと。
移動させてくれた時に肩を押してくれた手が、まだそこにあった。
離れる気配もなくて、力を入れるわけでもなくて、
ただ「ここにいるよ」と言ってるみたいで。
笑い声や太鼓の音、屋台の呼び込み、
全部聞こえているはずなのに、急に遠くなった。
朱海班長の指先が、ほんの少し動いた。
それだけで胸がどきっとして、
私はもう一度ステージに視線を戻すふりをしたけど…
心臓の音は、全然言うことを聞いてくれなかった。




