38、 恋人たち
クリスマスにたどり着いたのは、きらめく光の中。
距離は少しだけ近くなって、でも、まだ言葉にはできなくて。
見えてしまった「恋人たち」の景色に、戸惑いながらも笑ってしまう、そんな夜。
愉快なガラガラヘビの歌が終わる頃、エレベーターが展望台についた。
一曲分の時間、私の手に朱海さんの心臓の音が聞こえた。
始めはどくっどくっ、途中からどくどくどくどくー。
もしかして、高いとこ苦手なのかな?
でも、ガラス越しだから怖くないよ。
一番に降りたかったけど、奥のほうにいたから、降りる時は最後。
ここは我慢。
社会のルール、大事。
降りてすぐ、目の前に広がったのは、いい子にした私たちに、ご褒美の、夜景。
「すごい…」
輝いているガラスに、吸い寄せられるように、近寄った。
初めて見る夜景にくぎづけになった。
「こんなの、初めて」
顔を近づけすぎて、ガラスが曇ってしまう。
鼻息が……。
上着の袖で磨いて、また曇って。
三回目磨いたら
「鼻息あらくない?」
横でクスクス笑ってる朱海さんがいた。
「…見てたんですかっ」
「そりゃ、一緒にいるからね」
朱海さんにアンパンチをしてあげちゃう。
「キラキラですね」
「そうだね」
「人って、あの中のほんの小さな米粒みたいなんですよね。」
「…そうだね」
そうだねを連発する朱海さんを、ガラス越しに盗み見た。
真剣に夜景をみてる。
そっとしておこう。
こんなに綺麗なんだもの。
言葉なんか、いらない。
長い時間、宝石箱をみていたような気がする。
ふいに、朱海さんがこっちを見る。
困ったような、表情。
「朱海さん、どうし…」
どうしたの?
言いかけた言葉を飲み込んでしまった。
ごっくん。
朱海さんの顔のむこう…というか、すぐ隣の人が…抱き合ってる…。
生でみるの、初めて。
なんだか見てはいけない気がして、反対側を向こうとしたら、朱海さんに止められた。
「……見ちゃダメ」
そう言われると、見たくなるのが人間。
そーっと見ようとしたら、壁ドンならぬガラスドンをされてしまった。
でも、二人ともガラス側をみているので、色っぽくもなんともないんだけど。
私の視界には、朱海さんの袖しか入らない。
頭の上から声がする。
「…そろそろ夕飯、食べに行こうか」
「反対側も見たいんですけど?」
「…そうだね、じゃぁ行こうか」
そのまま腕で、わたしの顔を包むようにUターンさせられた。
ほんの一瞬、反対側のカップルがみえた。
抱き合ってキスしてた。
本物だぁ。
反対側の展望台にも、抱き合っている人や、それ以上のことをしている人達がそこらにいて、その間をぬうように、子供が何人か走り回っていた。
「たかこちゃん…」
「…カオスですね」
私たちは、しばらく見つめ合った後で…
声を出さずに大笑いした。




