エピローグ
その後、メルディーナは屋敷へ籠って、しばらく一歩も出なかった。
レオル皇太子殿下から、夜会の招待状が届いたが、体調が優れない為と言って断った。
わたくしは…わたくしはどうしたら、アルクに償えるのかしら…。
それしか、考えられなくて。
考えて考えて、そして…メルディーナは答えを出した。
それから、一月が経った。
皇都のとあるカフェで、メルディーナは珈琲を飲んでいた。
「二度とお会いする事はないと、いったはずですが…メルディーナ様。
俺を呼び出して、何の用でしょう。」
「座って。アルク…。」
アルクはメルディーナの前に座る。
メルディーナはボーイに、アルクの分の珈琲を頼んで。
「どうすれば、貴方に償えるか、わたくし、考えたの。」
「償いなんて必要ありません。貴方と俺はもう、関係ないんですから。」
「皇太子殿下の婚約者候補、お断りしたわ。」
「だから…俺には…」
「だって…皇太子妃になったら、わたくしのやりたい事に、すぐに着手出来ないから。
わたくし、貴方に会うまで、いいえ、前世の記憶を思い出すまで、夫のリカルドにいつもお前のような愚かな女は俺の言う事を聞いていればいいって、暴力を振るわれていたの。
自分が愚かだからって、どんな仕打ちも耐え忍んで来たわ。
そうね…前世のわたくしは、高慢な女だった。兄達が嫉妬のあまり蔑んでいた弟をクズだって虐めていたこともあったわ。貴方に向かっては、面と言って蔑んだりはしなかったけれども、
きっと高慢だったのね。それがどんなに間違っていたかって事が今、とても解るわ。
わたくしが、リカルドや、叔父のような酷い人間の傍に生まれ変わったのは、神様が前世を反省しろって事なんでしょう。
だから、これからのわたくしは、伴侶に虐げられて苦しんでいる人達に力になる事を、アシュッツフォアベルク公爵家の力を使ってやりたい。そう思っています。
有難う。アルク…。お礼を言いたかったの。
前世のわたくしは、確かに貴方を蔑んでいた。
でも、貴方と共にいて幸せだったことも確かよ。
そして、さようなら。
今度こそ、わたくしのような酷い女に捕まらないで、幸せになって頂戴。
長生きして頂戴…。それがわたくしの願いだわ。」
涙がこぼれる。
どうか…神様…。アルクを今度こそ、幸せな運命を…。だって彼は最強の運を持つ男だったのだから。
「メルディーナ…。俺だって、君を愛していたよ。あの頃の俺は周りの貴族達にも蔑まれていて、苦しんでいた。
だから、君の為に…池に身を投げたんだ。
俺が傍にいなかったら、君はふさわしい伴侶を見つけて、女帝としてさらに輝けるんじゃないかって…。でも、今は思う。あんな可愛い息子を残して、そして何より愛しい君を残してどうして、俺は死んでしまったんだろうって。もっと長く君と一緒にいたかった。
息子の成長を一緒に見て、彼が皇帝になる所を俺も見たかったな…。
メルディーナが苦しんでいる人達を助けたいというのなら、そのパートナーになるのは、俺では駄目かな…。
今世だって、俺は、大した男じゃないけれども、苦しんで来た人の気持ちは良く解っている。君だってそうだろう?
だから、今度こそ、君と一緒に歩みたい。
君がやりたい事の力になりたい。
愛しているよ。メルディーナ…。」
「ああ…アルク…わたくしを愛しているだなんて、有難う。」
立ち上がって、わたくしはアルクに抱き着いたわ。
アルクが耳元で囁いたの。
「それにその…こんな時に言うのは何なんだけど、君の身体は最高で…
もっと堪能したい。」
わたくしは、真っ赤になってしまったわ。
「ええ…アルクはわたくしを最高に喜ばしてくれたわ。アルク…愛している。愛しているわ。」
最高の男を捕まえると言った割には、結局、わたくしは前世の夫と結婚致しました。
でも、気が付いたのです。
最高の男ってなんでしょう?
地位?容姿?それとも…
わたくしにとって最高の男は、前世で、わたくしを女帝にし、支えてくれて、今世ではわたくしのやりたい事を共に力になってくれる。アルクは何て最高の男なんでしょう。
アルクと共に、わたくしは、今、伴侶によって、悩む人たちが逃げ込める施設を作って、
その人達の相談に乗る仕事をしております。
どうか、一人でも多くの人が救われますように。
貴方は愚かなんかじゃありませんわ。もっと、広く世を見て欲しい…
貴方が輝ける場が必ずあるはずだから…
それに、息子が生れましたの。今、可愛い盛りで。今度、二人目も産まれる予定ですわ。
夫はそれはもう、可愛がっております。幸せだって口癖のように言っておりますわ。
勿論、わたくしも、最高の夫を得てとても幸せです。
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