第48話 保険金殺人
俺が…… 勇者テレスが魔王と誤認されて1週間経った……
このウワサも今頃はグランディア王国まで届き、国中に広がった頃だろう。
つまり俺は世界中で噂されてる時の人だ、この悪評を覆すのはかなり困難だろう。
南部王国連合…… アルテナ王国。
俺達は王都マギアを目指し馬を走らせてる。
走らせてはいるのだが…… 正直、旅の目的を見失いそうだ。
(なんか…… もう元に戻れなくてもいいかな? って気がしてきた……)
『ぅおおい! ふざけんな! アリスたんの身体を返せ!!』
(だって…… そのアリスが俺を魔王にしたんだぜ?
勇者が俺を殺しに次々やってくるんだぜ? 一体どういうつもりでこんなことしたんだ?)
『うむぅ…… たまたまこうなってしまったのかもしれん』
(たまたまってなんだよ)
『魔王軍の総司令官はウチの嫁だからな……』
(嫁って…… 例のトドみたいな奥さん? 総司令官なの? お前じゃなくて?)
そう言えば部下たちも魔王より魔王の嫁の言うこと聞くとか言ってたな。
『くっ! あぁそうだ、その嫁だ。
不本意ながらお前は魔王殺しを成し遂げるだけの実力がある。
そんな者だからこそ新魔王として祭り上げられたのかもしれん』
(あ~~~……)
確かにアリスを言いくるめるのは簡単そうだ、あの娘素直過ぎるから簡単にヒトの言うこと信じる。
『お前はイイのか!? アリスたんが悪に唆されて利用されても! おぉ! なんて可哀相なアリスたん!』
(悪ってお前の嫁だろ? ナニ他人事みたいに言ってるんだ、お前が嫁の手綱をキチンと握っておかないからアリスが鬼嫁にイジメられるんだ)
『なぬ? アリスたんがイジメられる?』
(やっぱり気付いていなかったのか、まぁ実際には嫌がらせに近かったみたいだが……)
『……ッ!!!!』
「キューーーーーーーーー(怒)!!!!!!」
「わあっ!? ど、どうしたの? ティッペちゃんが吠えたの?」
「何でも無いから気にしないで、たまにあるんだ発作的に吠えるコトが、狼が月に向かって遠吠えするみたいな感じ、フィロは馬を走らせることに集中して、ゴメンね?」
「う、うん、大丈夫なの? 発作というより強烈な怒りのようなモノを感じたんだけど?」
あらイヤだ、フィロったら案外鋭い。
「大丈夫大丈夫、どうせ舌噛んだとかその程度のコトだから」
「う…… うん…… ??」
(おいコラ魔王、急に吠えるな)
『ンなコトはどうでもいい!! それより本当なのか!? アリスたんがイジメられていたって!?』
(ちょっと考えれば分かりそうなモノだろ? 前妻との一人娘、後妻が煙たがるのも当然だ。
まして旦那は超絶ドタコンで娘を超溺愛している、要するにアリスがいじめられる原因を作ったのはお前だ)
『ッ!!!!』ガーーーーン!!
つまり魔王プラトンこそが全ての諸悪の根源だったワケだ……
女神様…… やっぱりコイツ殺すべきだよ、封印とか生ぬるい……
『勇者よ…… ココはもう殺るしかないな』
(あ?)
『魔王軍総司令官を倒すしかないって言ってんだ!! お前勇者だろ!? 世界平和の為にも殺るべきだ!!』
(魔王が世界平和を語るな、だいたい仮にも自分の嫁だろ? なに殺人依頼出してんだよ?)
『やかましい! あんなモノ政略結婚だ! お互い好き合ってたワケでもない!』
(情はないのか? 仮にも夫婦だろ?)
『んなもんあるか! だいたい結婚当初から同じ部屋に居ても会話が無い! 残業を終えて帰っても部屋に鍵が掛かっていて入れない! ご丁寧にチェーンロックまでかかってる! 気付いた時にはアイツの護衛は若いイケメンばかりで我の護衛よりも数が多い! 極めつけはこの間 我に掛けられた生命保険の額が倍になってた!』
oh……
それじゃ今頃コイツの保険金でウハウハかな? イケメンボディーガードを侍らせて高級シャンパンでシャンパンタワーとかやってんのかな?
いや、保険金って死亡が確認できないと払われないんだっけ? 魔王の本体は世界のどっかで元気に全裸で走り回ってるかも知れないし……
それもある意味死亡と言えない事も無いが……
『知っていたならもっと早くに離婚してたさ!!』
(だったら尚のコト自分の手でケリをつけろよ、中身が違うとはいえアリスに義理の母親を殺させる気か?)
『ウグッ!? し……しかし今の我には何も出来ない…… だって小動物なんだぞ!?』
(お前、さっきから他人事みたいに語ってるけど、そもそもこうなった原因はお前にあるんじゃないのか?
大方アリスにばかり愛情を注ぎ過ぎて嫁を放置してたんだろ? そのストレスで嫁は太っていった…… つまり嫁をトド化させたのもお前だ)
『ッ!!!!』ガーーーーン!!
まぁ話を聞く限りじゃコイツの再婚は最初から双方共に愛情なんか欠片も無かったっぽいが…… 大人の世界のコトはまだまだガキの俺には分からん。
しかしコレで俺のハーレムへの道はほぼ閉ざされたと言っても過言じゃない、アリスには責任を取って貰って俺の嫁になって貰わないとな、うん、アリスも嫌とは言うまい、いや、言わせない。
…………
まてよ?
もしかして魔王だったらハーレム作るのに世界の許可とか要らないんじゃないのか?
プラトンは悪魔との間に色々な柵があったみたいだけど、俺にはそんなモノは無い、ハーレムが作りたかったら幾らでも作れるのではないだろうか?
…………
魔王ルート…… もしかしたらアリかもしれない!
少しだけ希望が見えてきた!!
―――
――
―
旅のモチベーションを新たに上げ、国境越えから4日ほどで魔法王国アルテナの王都マギアに到着した。
「ふぅ~…… なんとか日が暮れる前に辿り着けたね」
「ご苦労さまフィロ」
馬から降りて二人して体をほぐす、馬でハイペースの旅をすると、速度的には文句無しなのだが、快適さは皆無だ。
だが馬車にすると速度が落ちるし…… アム大陸ではどのみち馬車は使えない、このまま行くべきか……
「ぅんん~~~~~! ぷはぁ~!
さてどうしようか? まだ少し早いけど宿探しちゃおっか?」
「そうだね、初めて来る街だし先に宿を決めておいた方がいいと思う」
『…………』
「それでねアリスちゃん、その後でいいんだけど武器屋行ってもいい?」
「武器屋? あぁ、鞘を作らなきゃいけないんだ」
「うん、さすがに麻布グルグル巻きじゃいざって時に困るから」
「うん、いいよ、私も杖見たいし」
「あぁ…… そうだったね」
俺の持ってた安物の杖はゴブリン帝国で没収されて失ってしまった。
フィロのシィル=レイドみたいに是が非でも取り返したい一品でもないし、ゴブリンの体液の付いた杖など使いたくもない。
洗ってもなんかキチャナそうだし…… だからわざわざ探さなかった。
貧乏だけど許容できるコトと出来ないコトがある!
だからブーツも買い換える! お金ないけど買い換える!
今はブッカケられた部分を切り取って使ってるが、穴開きブーツはカッコ悪い。
「じゃあ行くよ~、マレンゴ~」
「ブルヒヒイイィィィン!!!!」
「うわあぁっ!!?」
フィロがマレンゴの手綱を引いて歩こうとすると激しく抵抗される。
「うぅ…… やっぱりボクの言うこと聞いてくれない、乗ってる時は大人しいのに、ナンで?」
フィロは割りと馬の扱いが上手い、子供の頃は馬の世話をして小遣いを稼いでいたとかなんとか……
だがそんなフィロを持ってしても……
「ガルアアァァアッ!!」
「うわっ!! か、噛もうとしないでよ、ボク人参じゃないよ!?
はぁ…… アリスちゃんお願い」
「ん」
選手交代…… ちょっとヤなんだよなぁ……
「ほら、フィロに噛みつかないの」
ペシン!
マレンゴの額を叩くと……
「ブフウウゥゥゥウウゥゥ♪」
マレンゴは満足そうに大きな鼻息を漏らす……
この馬、前の飼い主そっくりで変態だな、美少女に叩かれて興奮してやがる。
アム大陸に渡る時に売り払ってやる。
―――
――
―
カランカラン♪
「いらっしゃいませ~♪」
武器屋に入ると速攻で店員が寄ってきた…… ウザい、汚物にたかるハエみたいだ…… ゴメン今のナシ、適切な例えじゃなかった。
ただ寄ってくるのは何故か俺のトコロだけ、美少女に近づきたい気持ちは分からなくもないが…… と、思っていたのだが、どうやら俺が魔法使いだからみたいだ。
「本日はどういったモノをお求めでしょうか? 当店ではお手頃価格から高級品まで幅広く取り揃えております」
「そう……ですか」
ウザいなぁ~、こっちは傘立てみたいなのに突っ込まれた「どれでも100ディル」みたいな安物でいいのにグイグイ来るなよ。
「私はひと通り見てから決めるので、コッチの娘の話を聞いてもらえますか?」
「………… そちらの?」
「よ、よろしくおねげぇします!」
「はぁ、まぁ聞くだけは聞いてみましょう」
この店員感じ悪いな、商売する気あるのか?
「えっと、剣の鞘をカスタムメードして欲しいんですが……」
「剣の鞘? ハッ!」
「え?」
「申し訳ございませんお客様、当店では刀剣の類は取り扱っておりません」
「そ…… そうなんですか?」
はて? 魔法使い専門店なんて書かれていなかったと思ったが?
「え~とそれじゃ…… 取り扱ってるお店ってどこにあるか知ってますか?」
「そうですねぇ~…… 少々お待ちを」
そういって店員はカウンターの奥にいる同僚に話しかける。
「おーいコリンズ、この街で剣を扱ってる店ってどこかにあるか?」
「あ~…… ギルドの売店で売ってた気がする」
売店…… そうだよな、ここ魔法王国だもんな、魔法職の店が中心で当然だった。
だとしてもコイツら感じ悪い、この店で買うのはやめておこう。




