第47話 激震
--- テレス・サロス・ティザー視点 ---
魔王はイボ痔帝国を滅ぼしてからおよそ5日、俺たちは都市国家群と南部王国連合の間にある山脈「グロウレジア山脈」を貫く大洞窟「ロドルの抜け道」へとやってきた。
ロドルの抜け道とは全長50kmにも及ぶほぼ直線の巨大トンネルである。
内部は2つの軍隊が行軍しながらすれ違えるほど広い。
ちょうど中間の25km地点に国境が作られており数件の宿屋が営業している。
徒歩で旅をする者はだいたいこの洞窟内宿屋に泊まる……が、宿泊料はかなりお高い、俺たちは馬があるから一気に通り抜けたい所だな。
なのでトンネル入口の宿場町「北ロドル」で一泊することになった。
「ん~~~!」
馬から降り体をほぐす、ずっと乗りっぱなしだと体がコリ固まる。
ちなみにフィロは時々馬を降りて並走していた、実に元気な娘だよ。
「ねぇアリスちゃん、まだ時間あるけどもう宿に行く? それとも物資の買い出しに行く?」
「ん~…… 宿に行くにはまだ早いかな? 保存食もまだ余裕あるし……」
「じゃあギルド行ってみよっか?」
数時間でこなせる依頼があったら受けてみるのもいいかも、馬は手に入ったけどまだまだ貧乏だから。
情報も収集しておきたいし……
「そうだね、カードも更新しておきたいし」
「決まりだね、じゃ、ギルド行ってみよっか」
―――
「ようこそ♪ あなたの暮らしに寄り添う冒険者協会・北ロドル支部へ♪
本日はどういったご用向きでしょうか?」
受付のお姉さんはドコでも同じような事を言うなぁ…… やっぱりマニュアルがあるのだろう。
「は…はい、えっと…… カードの更新をお願いしまス」
「はい、ではカードをご提示ください、それから……」
フィロが更新している間に、ちょっと依頼を見てみるか。
―――――――――――――――――
討伐依頼Lv.C
「魔王は耳毛がフサフサ団の討伐」
あいつらのボスに女房を寝取られた、生け捕りにして拷問したいが別に殺してもいいです。
※ DEAD OR ALIVE ※
依頼者:復讐に燃える正義の味方
達成報酬:10000ディル
:正義の味方カード№1
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討伐依頼Lv.C
「魔王の体臭はエグい団の討伐」
娘の連れてきた婚約者が全身ピアスとタトゥーで装飾した盗賊団構成員だった…… 「チィ~ッス☆」って挨拶された…… もうどうでもいいから殺してくれ。
※ DEAD OR ALIVE ※
依頼者:娘の将来を心配する正義の味方
達成報酬:30000ディル
:正義の味方カード№2
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討伐依頼Lv.C
「トンネル内に発生するスライムの討伐」
トンネル内に時折自然発生するスライムを討伐してくれ。半年に1回程度被害者が出る、そろそろ奴らが湧くシーズンだ。
依頼者:ロドルの抜け道管理委員会
達成報酬:50000ディル
:トンネル宿屋の宿泊券
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相変わらずロクな依頼がない、てか依頼人の正義の味方って何人居るんだよ? 前にもこの名前どっかで見たぞ? 一種の匿名希望みたいなものなのだろうか? まさか同一人物じゃないよな?
『おい勇者、この盗賊団討伐の依頼を受け……』
(だから受けねーよ、ここからだと来た道戻ることになるだろうが)
『むぐぅ……』
これは正義の味方さん家の問題だ、そんなプライベートな事情に俺が首を突っ込むべきではない、せいぜい家庭が崩壊しない様ガンバってくれ……
既に手遅れなような気もするが……
この中ならトンネル内のスライム退治が一番まともか…… ただこの依頼も確実にスライムが発生しているとは限らないし…… 全く無駄足になる可能性もある、ナシだな。
くそぉ~、相変わらずの貧乏旅行か。
オブシディアン・ナイフとソードは出来るだけ大きな街で売りたいが、最悪の場合はナイフだけでも売っちまうか……
「アリスちゃん! アリスちゃん! アリスちゃーん!!」
「…………」
フィロがお呼びだ……
「どうしたのフィロ? あんまり公共の場で人の名前を連呼しないで」
「ボクのレベルが25になったよ!」
「おぉ~、上がったね、良かったじゃん」
以前のフィロのレベルっていくつだったっけ? 忘れちゃったよ……
「でもボクってそんなに経験になるコトしたっけ? 心当たりがないとちょっと怖い!」
素直に喜べばいいのに、フィロは無駄に真面目だな。
まぁいいや、俺の方も更新しておこう。
カードを提示して魔道具に手を置く。
「はい、もう手を話して結構ですよ、え~と…… アリスティア・アグノス・ティアさん…… 51/99…… です」
うわ…… すげぇ上がった、確か前に計った時はレベル10台前半くらいじゃなかったっけ?
ゴブリン数万匹殺したからか? しかしゴブリンだけでここまで上がるものだろうか? レアモンスターの痔主が大量に経験値を持ってたのかもな。
「うわ……凄いですね、こんな高レベル冒険者、私始めて見ましたよ? 何でこんなトコロにいるんですか?」
「え~…… まぁ旅の途中ですので……」
受付のお姉さんに驚かれた、しかしそれも当然だろう。
こんなトコロにレベル50台の冒険者がいるのは不自然だから。
「ア…… アリスちゃんにアッという間に追い抜かされた……
それも物凄い勢いで……
目にも留まらぬ速さで……」
フィロが落ち込んでる、いやいや喜んどけよ、仲間が強くて損することはないんだから。
「もう魔王城とかさ…… アリスちゃん1人でも簡単に辿り着けるんじゃない?」
いや、無理だって、アリスは体力もなければ金もない、魔王城へ至るにはフィロの勇者特権が必要なんだ。
「今回はたまたまだよ、たまたまレアモンスター倒したから一気に上がったんだよ。
そのうちフィロにも倒せるよ」
「………… 次…… 見つけたら譲ってくれる?」
「う……うん、譲る譲る、だから元気だして」
「ハァァァ~♪ アリガトウ♡ アリスちゃん大好き♡」
そりゃど~も
「あのぅ…… お二人は魔王城を目指してるんですか?」
「え? はい、そうですが」
受付のお姉さんが遠慮がちに聞いてきた、以前のレベルなら鼻で笑われてたトコロだが、今のレベルなら夢物語じゃない。
「ウワサなんですけどね…… 魔王城への旅、無駄になるかもしれませんよ?」
「はい?」
「実は…… 魔王が倒されたってウワサが入ってきたんです、まだ真偽の程は定かではありませんが……」
「お」
「え? は? え? だ…… 誰が?」
「第7勇者テレス・ティザー様だと言われてます」
「は…… はぁぁぁぁああ!!?」
ついに来たかこの時が!
勇者テレスの名が歴史に刻まれる瞬間が!!
『おい! 我は倒されてなんかおらんぞ!』
(いやいや、お前忘れてるかもしれないけど、お前の体も裸でどっかに飛ばされてるかもしれないんだぞ? しかも中身は小動物かもしれない、社会的には死んだも同然だ)
『……ッ……ッ わ…… 忘れてたぁーーー!!』
「嘘…… テレスお兄ちゃんが……? だって旅立ってまだ半年くらいしか…… そ……それに……」
フィロが遠慮がちにチラ見してくる。
「ア…… アリスちゃんはテレスお兄ちゃんのこと……」
「うん?」
「あ、いや…… ナンデモナイです、それよりアリスちゃんはまだ魔王城目指す……よね?」
「もちろん」
普通に考えれば魔王が倒された魔王城に用はない、でもアリスの真の目的はテレス(の体)に会うことだ、当然旅を続けるし、最初の契約通りフィロにも付き合ってもらう。
―――
――
―
その日は北ロドルで一泊し、翌日 馬を走らせ「ロドルの抜け道」を一気に抜けた。
これでようやく南部王国連合に入った。
そして現実を知ることになる……
南ロドル ギルド併設酒場……
「おい聞いたかあのウワサ?」
「あぁ、勇者が魔王を殺してその立場を乗っ取ったってやつだろ?」
「…………」
「しかしそんなことが可能なのか? 普通は仲間が止めるだろ?」
「それがたった一人で魔王を倒したらしい」
「げ! ボッチかよ! そりゃ魔王になるのも納得だ」
「…………」
「しかもそいつ、例の第7分家の勇者らしい」
「あ~…… それは2代目魔王より酷いことになるんじゃないか?」
こんな噂話がそこかしこから聞こえてくる、酒場のみならず街中からだ。
多分一週間としない内に世界中で話題になるだろう。
『な~んで我が死んだことになっておるんだ?
な~んでお前が我の後継者みたいに言われてるんだ?
不愉快極まりないぞ』
やかましい、不愉快極まりないは俺のセリフだ。
寄りにもよって変態ロリコンの後継者とか……
俺にまで先代魔王の負のイメージが伝染る!
(アリスさん…… いったい何してくれてんのぉ?)




