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創炎のヒストリア ~転生執事の日常~  作者: 十本スイ
第五章 クーデター阻止編
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第百八十一話 黒炎

 初めて見る鬼。今、目の前にいるのはその鬼たちを束ねる長。見た目は自分とそう変わらない年齢には見えるが、風貌は明らかに人間とは逸脱している姿。



 エメラルドのような透き通る緑色の髪。強靭さを体現したような筋肉が膨れ上がった体躯。



(これが千手童子……)



 ソージは、彼の身体から抑え切れずに溢れ出しているオーラを見て表情が引き締まる。内包するエネルギーの膨大さが一見して分かる。気を抜けば一気に殺されてしまう予想が簡単に立てられる。



「お前……先程の一撃は見事だったぞ」

「鬼の頭領にそう仰られるとは光栄ですね」

「ククク、まずは小手調べだ。ゆくぞ?」



 刹那、千手童子がその巨体に似合わない速度で突っ込んでくる。剛腕がソージの顔を捉えようと伸びてくる。ソージはサッと半身に身体を動かして紙一重で回避。



 風圧が物凄く、髪の毛が巻き込まれるのではないほどの威力が込められている。避けた反動とその風圧に任せて身体をクルリと回転させ懐に詰めひじ打ちを相手の胸へと打ち込む。



 バキィィッとそのまま後方へ吹き飛ぶ千手童子を追撃するために大地を蹴り出し距離を詰める。



「燃え焦がせ、赤炎!」



 右手から紅蓮の炎を生み出し、形状を鞭のようの変化させていく。千手童子の身体に巻きつけ、そのまま力任せにブンブンブンブンと振り回していく。



 そのままソージは空へと跳び上がり、振り回しながら遠心力を利用して大地に向けて叩きつける。同時に千手童子の身体が激しく燃え上がった。



(さて、どれだけのダメージを与えられたのやら)



 案外呆気なく攻撃が当たったので拍子抜けな気持ちもなくはない。だからこそ、相手がわざと攻撃を受けているような印象も受けた。

 案の定、炎に包まれているはずの千手童子のがのっそりと起き上がり、腕をブォンッと振り回した結果、風圧で炎を一気に吹き飛ばした。



「うむ、なかなかの熱量だが。まだ温いな」



 どうやら無傷のよう。頑丈さは折り紙つきといったところらしい。大地に勢いよく叩きつけてみたが、それでもダメージは無し。



「ならこれならどうです? 喰らい尽くせ、白炎!」



 今度は両手から二つの白炎を創り出す。パックリと口を開けた白炎が二つ   真っ直ぐ千手童子へ向けて突き進んでいく。



「ほう、今度は白い炎か。面白い!」



 ブゥゥゥゥンッと千手童子の両拳が高速振動を起こし真っ赤に色づいていく。千手童子は楽しげに笑みを浮かべながら観察するように目を細めて白炎を凝視する。



「ふむ、どうやら炎には熱量が備わっていないようだ。なら何か特異能力がありそうだが……」



 一目見て白炎がただの炎ではなく、危険なものだと判断した相手の観察力に肝を冷やす。スパイラルを描きながら二つの炎が千手童子へと襲い掛かる。



 千手童子は構えながら目だけを動かして炎の動きを捉える。すると何を思ったか、真っ直ぐ突っ込んでいき、炎の口に自らの腕をそれぞれに突き刺した。

 普通ならこのまま食い破る予定なのだが、



「ぬぅっ!」



 千手童子の力に押し負けているのか、いつまで経っても食い破ることができずに徐々に押し返されていく。



(くっ……堅い……っ!?)



 今までも多くのものをあっさりと食らい尽くしてきた白炎だが、初めての経験だった。



(まさに喰えない相手ってことか……!)



 上手いこと言っている場合ではないのは分かっているが、次の瞬間、千手童子がそのまま跳び上がり両腕に白炎を噛みつかせたまま大地を叩いた。

 その衝撃により白炎が弾け飛び霧散してしまう。



「さあ、次はどの手でくる?」



 まるでソージの攻撃を楽しんでいるかのような様子。いや、実際に楽しんでいるのだろう。純粋に戦いを楽しんでいるだけ。



「戦闘狂ですね……あまりお相手したくないタイプです」

「ククク、そう言うな。俺はワクワクしてきたぞ」



 軽口を叩くソージだが、内心では相手の強さに辟易している。まさか攻撃性の高い白炎までも無傷で看過されるとは思ってもいなかった。



(こうなったら橙炎を使ってもダメージは見込めないよなぁ)



 相手は遥か化け物。生半可な力では傷一つ付けられない相手。



「では、あまり多用したくはないですが、次のステージへ向かいましょうか」

「む?」



 ソージは「ふぅ」とゆっくり息を吐くと、静かに腕を広げて手の平を上に向ける。



「…………あらゆるを纏え、黒炎」



 ズズズズズズと両手から滲み出るように黒い炎が姿を現す。千手童子はその炎を見て無意識に口角を上げていく。

 黒い炎がソージの身体を覆い始め、徐々に巨大化していく。



「ほほう、黒炎を纏った巨人といったところか」



 彼の言う通り、現状のソージを説明すればまさしく、だろう。



 この黒炎の能力はこうして纏うことで攻防力を飛躍的に高めることが可能。また黒炎を使い様々な攻撃バリエーションも豊富になる。



「はあぁっ!」



 ジッとしているのも退屈だったのか、風のような動きでソージに詰め寄ってきて拳を突き出してくる。だがソージは黒炎で創った手で相手の拳を受け止める。



「! ……ほう。なら!」



 千手童子の連撃。拳と蹴りによる息もつかせぬ攻撃がソージに放たれる。だがソージも腕と脚を器用に動かして防御していく。がっがっがっがっと大気を震わしながら攻防が繰り返される。



 ボボボボボゥッとソージの背後に黒い火の玉が複数浮き出ると、その火の玉が矢の形に変化し、千手童子に向かって射出される。



「むっ!?」



 グサグサグサッと、今までどれほどの攻撃を与えても傷一つ付けられなかったというのに、矢は彼の身体を貫いた。



 動きの止まった千手童子を見て、好機と判断したソージが黒炎の形を変化させて巨大な剣を作り出す。しかも右手と左手の双剣。



「《黒双連舞》っ!」



 ソージは右手で持つ剣を下から上へと斬り上げるが、千手童子にかわされる。しかし空振りの勢いのまま身体を回転させて左手に持った剣を下から上へ再度斬り上げる。



「ちっ!」



 ピッと相手の左肩に剣筋が走る。だがそこで終わらない。右足を前に出して右斜め下から左斜め上に向かって右の剣を走らせる。避けられても再び回転運動を利用して、決して止まらずに烈火のごとく連撃を繰り出していく。



 またそれだけではなく、ところどころに水面蹴りを加えたりハイ、ミドル、ローと蹴り分ける攻撃も加えていく。



「うぐっ!」



 ザクッとようやくハッキリとした手応えを感じる。左の剣が千手童子の腹部を一閃した。緑色の血潮が飛び散る。千手童子は堪らずその場から後方へ大きく跳び、ソージと距離を取るが、



「逃がしませんよっ!」



 両手を合わせると二本の剣が一体化して鋭く長い槍へと形状が変化する。ブンブンブンブンと振り回しながら、相手がとったはずの距離を槍の長さで潰して攻撃を届かせる。



「ぐぅっ!?」



 せっかく距離を取ったというのに、一瞬にして無力化されたことに虚をつかれたのか、またもや身体を斬られてしまう千手童子。

 よろめく相手を見て、ソージは大きく跳び上がり、今度は槍を巨大なハンマーの形へと変貌させていく。力一杯振りかぶり、地上にいる千手童子の頭上へと向けて振り下ろす。



 その威力は凄まじく、大地が四方八方に割れ始め地盤が盛り上がっていく。小さな隕石が落ちたような衝撃が千手童子を襲う。









「王子っ!?」



 ソージの攻撃を真正面から受けてしまった千手童子を視界に捉えて叫びながら近寄ろうとする阿弥夜だが、



「おっと! 君の相手は私だってば」



 前方に立ち塞がる希姫によって足を止められてしまう。



「くっ……そこをどけ」

「どいてほしかったら私を倒すんだね」

「ならば縊り殺してやろう!」



 阿弥陀が腰に携帯している刀を抜くと同時に希姫に詰め寄り頭上から振り下ろす―――――が、希姫は真剣白刃取りによって彼の攻撃を受け止める。



「何っ!?」

「舐めちゃダメダメ!」



 希姫が阿弥夜の腹部を蹴り後方へ移動させる。忌々しげに睨みつけてくる彼を見て、希姫はクスリと笑みを零す。



「ソージくんも強くなったよね~。あんなの初めて見たよ」

「……奴は何者だ?」

「ウチの娘の執事くんだよ?」

「執事……? まさかだろ?」



 あれほどの強さを持つ者が、武人でないことが驚きなのだろう。目を見張って口をポカンと開けたままである。



「私もソージくんに負けてらんないかな。んじゃ! 気合入れて君を倒させてもらうよ!」

「見縊るなよ人間。《混沌一族》の恐怖を見せてやる」




また忙しくなってきたせいで、しばらく更新ができないかもしれません。

なるべく早く復活しますのでお待ち下さい。

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