閑話 今はいない貴方
次話更新にまだ暫くかかりそうなのでお茶濁し回。
設定だけで深く語られない話。
その訃報を私は海外で聞いた。
かつての同僚であり、友でもあった者の死を私は祖国から遠く離れた地で聞いた。
慌ただしく帰国した私を待っていたのは、既に納骨され、物言わぬ冷たい墓石となった彼だった。
かつての動乱期に共に戦地を駆け、肩を並べ背を預けた友は
戦地ではなく平穏な日常の中、事故で呆気なく逝った。
かつてアレほど敵に恐れられ、見方から頼りにされた彼も今は物言わぬただの石。
墓石に刻まれた銘を見つめ、ただ私はじっと佇んでいた。
彼との出会いを思い出す。
未来の国防を担う者の育成機関、士官学校で初めて彼に出会った。
当時、国家間の緊張が高まってはいたものの、開戦には至っていないと言う微妙な時期だった。
そんな時期だったからこそ、士官学校への入学者の多くは祖国防衛の強い意思を胸に入学してくるものと思っていた。
むろん自身がそうであったからだ。
だが彼は違った。
どこか軽い空気を纏い、へらへらとした軟弱な男。
それが彼の第一印象だった。
同学の級友となった彼だが、当初それほど仲が良かったわけではない。
というか、彼と殊更親しくした記憶もない。
彼は士官学校に入ってからも俗世の遊戯に現を抜かし、あまつさえ其れを他者に広めようとしていた。
みな真面目に勉学に励んでいるというのに、それを邪魔する行為に随分と腹を立てたものだ。
そんな彼であるからして学科は下の下、よかったのは実技くらいだろうか。
士官学校時代は結局彼を毛嫌いするだけで終わった。
卒業後任地が重なり嫌な思いをした経験があるが、その後開戦。
戦地を共にする中で、少しずつ彼の人となりを知った。
肩を並べ背を預ければ、自然と仲も良くなるものか。
私達は自然に話すようになり、戦地でまで布教活動に勤しむ彼を見て、これも個性かとあきらめた。
数年に渡る戦争を経験し、多くの敵と同胞の死を見てきた。
その渦中幾度と挫けそうになる私を支えたのは、意外なことに彼のあり方だった。
敵を殺し、仲間を死なせながら、彼のあり方は変わらなかった。
身を包む空気は軽く、へらへらと軟弱そうな笑みを浮かべ趣味の布教活動に勤しむ彼。
だが一度戦場に立てば鬼神の様に敵兵をなぎ倒し蹴散らす彼を私は知っている。
一体どちらが本当の彼なのか、随分と悩まされたものだ。
だが気付くと彼に救われている私がいた。
私だけではない、他にも沢山の兵士が彼に救われていたのだろう。
あんな軽薄そうな男なのに、多くの兵や仕官に慕われていた。
戦後、あっさり軍を退役した彼を多くのものが惜しんだのだ。
退役した彼は、どこぞの企業のいち会社員となったと聞いていたが
二度と会うことはなかった。
ほんとうに最後まで予想の上を行く男だった。
「ほんとうに、再会がこのような形になるとは・・・
お前は本当に読めないなぁ・・・」
心底そう思い、ふぅと深々とため息を吐く。
吐いたため息は白く、今年の冬は寒くなりそうだ。
外していた帽子を被りなおし、びしりと墓石に向かって敬礼をする。
軍によって特別に設えられた墓石にはこう刻まれていた。
大日本帝国軍中尉 秋津 博則 ここに眠る
貴殿の献身と功績を我ら帝国軍は決して忘れることはない、と。
ただの一般人のはずの秋津がなぜああも戦えるのか、その回答でした。
ちなみにアウラと秋津は同じ世界からの転生者ではないというおまけ付き。
秋津は未だに帝国の日本から、アウラは現在の日本からという設定。
でもその辺の違いに両者気付いていない感じで。
アウラは世間知らずであるがゆえ。
秋津は平行世界論自体に思い至ってない。
二人がかつての世界について熱く語り合っていれば気付いたことかも。
でも今が大事で気付いていない。
そんなお話。
今後二人がその辺に気付くかどうかは謎。
世界的な価値観はあまり違いはないので後は個人の微妙な違いだから
気付かない可能性が大ですが。
そんな感じのお茶濁しな回でした。さーせん
11.5一部修正。
碌に調べずに書いたためおかしな所が発覚、感想にて指摘された箇所を書き換えました。
ほんとすいません・・・(汗。