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エルフの賢人と精霊王

 エルフの集落は十二か所あった。そこを五日間かけて巡っていく。

 全ての集落に長が居て、全員に挨拶をしていた。

 「誰も止めなかったので、明後日は四賢人に紹介できる」

 エルナンドさんの説明によると、集落の長全員の同意が得られないと四賢人には会えない。俺が来る前に根回しはしていたが、実際に会うまで了承は得られなかった。

 明後日、四賢人に会って万能薬の話が聞ける。素材を揃え、作ることができるだろうか。結果がどうなるか不安はある。

 そして当日、四賢人と面会する為に、集落群の中心へと向かって歩いていた。エルフの集落は円形に配置されている。そこを一周して挨拶をしていったが、今日は中心に向かっていたのだ。

 「中心まで六時間程歩く予定だ」

 出発前にエルナンドさんが教えてくれた。集落一周に三日ほどの距離だと思っていたので、妥当な時間だろう。

 二人は無言で歩みを進めて行く。この数日間、一緒に行動していたので、盛り上がる話も無い。

 集落を廻っていた時には、地球の事を聞かれていた。この世界の魔法を科学で代用する、それが誰でも使える世界に興味を持ったようだった。

 「水道と電気はこの世界でも使えるようにできるのか?」

 これが最大の関心ごとだった。無理だろうと答えてから会話が途切れたのを覚えている。


 夜明けと共に出発し、昼になろうかという頃に四賢人の館へと到着した。

 大きな広場、その中央に屋敷があり、周囲を囲むように家が四棟、建っていた。俺は足を止め、その景色を眺めていた。屋敷も家も街にあるような作りなのだが、何か分らない不思議な感覚を覚えていた。

 とりあえず、景色を眺めながらパンと串焼きで昼食とした。中でと勧められたが、この景色を見ながら食べたかったのだ。

 食べ終わると、

 「中央の屋敷で四賢人が待っている」

 俺達は屋敷に向かい歩きはじめた。

 屋敷の門は開いており、そのまま扉へと向かう。

 エルナンドさんがノックをすると、男性が扉を開けた。

 「エルナンド様、お待ちしておりました。

そちらが異世界からお越しいただいたタツヤ様ですかね」

 「初めまして、タツヤです」

 「私は館の管理をしております。ローレンスです。以後、お見知りおきを」

 胸に手を当てて、綺麗な一礼で挨拶をするローレンスさん、管理ではなく執事の間違いではないだろうか。

 中へと通される。

 「タツヤ様をお連れしました」

 扉の前でローレンスさんが声を掛けると

 「どうぞ」

 扉を開けて、俺を中へと誘う。

 一歩中に入り、一礼してから名乗りを上げる。

 「地球から来た高達達也です。本日はお時間をいただきありがとうございます」

 中には四人のエルフがソファを前に立っていた。賢人と言うから年寄りを想像していたが、若い方たちだった。ローレンスさんが老けて見えてしまうくらいだ。

 「座ってくだされ」

 最初に言葉を発したのは、背が一番高い男性だった。

 丸型のテーブルを中心に八個の椅子が置いてあった。俺は四人と向き合う形で椅子に腰を落とした。

 「儂はタロルゾ、体重が一番重いエルフと覚えてもらって構わんよ」

 最初に言葉を発した人物だ。

 「我はモンレズ、小さいと言っておこう」

 「妾はエイリーン、唯一の女じゃ。覚えやいじゃろ」

 「最後は俺だな。テットスだ。一番の若手だ」

 そこは背が高いと身体的特徴を言うところだと思うぞ。見た目で年齢は分らない。

 「其方・・・ こういう場合、妾を立てるべきじゃ。まあ、よかろう。タツヤ殿、エルフの森まで、よう来て下された」

 「儂からも歓迎しよう。ようこそエルフの森へ」

 歓迎されているようだ。正直な話、嬉しい。

 「ここへ来た理由を聞く前にスキルを教えてくれないだろうか」

 「はい、スキルオープン」

 

 名前  高達達也

 年齢  十六歳

 種族  人族(異人)

 職業  陶芸職人

 レベル 二千百十七

 スキル 陶芸 無限収納 投擲 解析

     抽出 従魔 生活魔法

     スグンターナ神の加護

     アーステラ神の加護


 「おおっ、神の加護が二つ! 儂はアーステラ様を知らなんだが、タツヤ殿、教えて下され」

 「アーステラ様は地球を担当する女神様です。この世界に来る時にお世話になりました」

 「二柱の女神様から加護を与えられておる。素晴らしい」

 タロルゾさんとモンレズさんが驚いている。

 「妾も二柱の女神様からの加護を見るのは初めてじゃ。今までの知識に無いことじゃ。長生きはするものじゃ」

 「・・・ 」

 テットスさんだけは口を開けて固まっている。

 「若造は驚いて口も開けぬようじゃ。所詮は若輩者のようじゃ」

 「一言多いぞ。だが、確かに驚いた。言葉を失ったのは事実だ。まだまだ知識が足りないな」

 「タツヤ殿、どうようにして二柱の女神様から加護を授かったのか、教えてもらえないかの」

 俺は召喚に巻き込まれた所から説明していった。四人のおまけだったので、女神様の計らいでスキルを五つ貰ったこと。最初はアーステラ様だけだったが、祈りを捧げたらスグンターナ様にも加護を貰ったこと。湿地帯で古龍達と出会い戦ったこと。ドワーフの国や獣人の村での出来事等々、長い時間一人で話をしていた。

 「いろいろな事を体験しましたが、今まで無事だったのは二柱の女神様の加護であったと思えます」

 「辛いとは思わなかったのか」

 「地球での生活と比べ、辛い事もありましたが、まだ大丈夫です。この世界で生きていたいと思っています」

 モンレズさんが心配してくれるが、俺は大丈夫だと言える。まだまだ大丈夫だ。

「俺達にできることはあるか?」

 「ここを訪ねた理由でもあるのですが、欠損部位を治す万能薬を探しています。必要な素材を教えていただけると聞いて、ここに来ました。教えていただけませんか」

 「欠損部位の治療であれば、万能薬ではなく、特急ポーションでよかろう。それであれば、人族でも作れると思うのじゃが」

 そこから特急ポーションについて説明を受けた。必要な素材は上級ポーションに竜の肝と原始樹の葉だった。

ちなみに、ポーションは普通と上級、特級があることを始めて知った。確かに獣人の村で冒険者たちは怪我に応じて、使うポーションを分けていたように思う。

そして万能薬は蘇生に使える。但し、死後五分から十分以内に使う事が条件となる。それ以上の時間が過ぎると、蘇生後に記憶の欠落が起こる。一日も過ぎてから使えば、それは木偶人形となってしまう。

「我らは万能薬を二度と作らん。これは今後も変わらない」

モンレズさんが寂しげな表情で呟いていた。過去に悲しいことがあったのだろう。俺も万能薬のことは忘れることにした。

「そろそろ夕食にするのじゃ。ローレンス、用意はできておるか」

エイリーンさんが大きな声でローレンスさんに問いかける。窓の外が暗いので、夕食の時間だと思う。結構長く話をしていたな。でも、知りたいことも聞けた。あとは極上ポーションを手に入れるだけだ。

原始樹の葉を手に入れる方法も聞かないと帰れないな。夕食後に聞いてみよう。

「タツヤ様、後ほどお部屋に案内させていただきます」

夕食の配膳の合間にローレンスさんに話しかけられる。宿泊の準備も終わっているようだった。うむ、絶対に執事だ。

そこから夕食になったのだが、四人にいろいろと聞かれた。彼等は自分達の持つ知識と俺の知識、これの答え合わせをしている感じだった。

そして彼等自信の事も話してくれた。

彼等四賢人は数千年の間、知識を紡いできた。それは最初の四賢人にまで話が遡る。

最初の四賢人、それは原始樹の実を食べることにより生まれた賢人たちだった。彼等が初めて実を手にした時、四人が知識を望んだ。そして実を四等分にして分け合った。

これを見ていた精霊王が四人に知識を与えた。これからの出来事を後世に伝える役目も同時に与えた。そして、賢人となってからの寿命を十倍としてしまった。

これのおかげで、賢人となったエルフの寿命は千年を超えるようになった。エルフだから可能な知識の継承とも思える。

そして、賢人は亡くなると遺体が消滅し、一つの黒い石が残る。これを次代の賢人が呑み込むことで知識が受け継がれていく。

エルフ達は、この役目を数千年の間務めている。賢人が亡くなると集落の長が試験を受け、次の賢人が選ばれる。試験は知識の確認で、今まで勤勉に学んでいたかが問われる試験であった。

「我らは望んで長となった。今の長達も賢人を目指し長になっておる。エルフにとって賢人は憧れ、これが無くては続かないと思っておる。それには我らが賢人として、尊敬に値する振舞いをしなければなるまい。テットス、分っておるのか」

「ああ、こうやって言葉にされると、気が引き締まるな」

テットスが頷く。彼も覚悟を持って賢人となったのだろう。

「明日、原始樹を見に行こうではないか。葉を授かれるとよいな」

「葉を手に入れるのは難しいのですか」

「いや、毎日落ちてくるぞ。エルフは原始樹の葉を使った茶が好物、葉は各集落に順に廻しておる。明日の分はタツヤに渡すことになるがの」

「ありがとうございます。明日が楽しみです」

タロルゾさんは俺が行って葉が落ちてくれば、原始樹に認められたのだと言っている。それが楽しみだった。認められれば実も手に入るかもしれない。

「原始樹の実は百年に一度くらいは実るかのう。実ったものは種にしておる。百年ほど前に人族に渡したが・・・」

原始樹の実は一回に一個しか実らない。エルフが使う用途が無い場合は種にして蓄えている。実のなる時期と必要な時期が重なるとは限らないので、必要な場合は種を使っている。百年ほど前に在庫を減らしているが、必要であれば渡すと言われた。そして、

「寿命が延びるが、使わんか?」

と誘われたが、丁寧にお断りした。今は長寿を必要と感じていない。今後、目標ができ必要になったら相談しようと思ったけど。

「我ら数百年は死なん予定じゃ。困った時は訪ねていいのじゃぞ」

「ところで、この食器は使えますか?」

話題を変える為、俺は白磁器の器をテーブルに並べた。

「俺が作った陶器ですが、好みに合うようであれば贈り物としたいのですが、どうですかね」

「綺麗な白じゃな。妾の食器はこれに変えたいのじゃ」

「儂もこれを使いたいのう」

「俺も気にいった」

「我も使うぞ」

「タツヤ様、お客様用と合わせて、二十人分を譲っていただけますか」

「はい、在庫もあるので、三十人分を置いていきます」

「ありがとうございます。後ほど厨房にて受け取らせていただきます」

うむ、木製食器より料理が映えると思う。作っておいて良かった。


翌日、原始樹を見る為に館を出た。

館から十分ほど歩いてから賢人たちは立ち止まった。

「ここが精霊の住まう地じゃ」

エイリーンさんが呪文を呟くと、目の前の森が消え、大きな木と湖が表れた。

「普段は侵入者を防ぐため、幻惑の魔法で隠しておるのじゃ。我ら四人以外は使えぬ魔法じゃ」

「目の前の大木が原始樹、精霊王様が最初に育てた樹、そう言われておる。ここを守るのも儂らの仕事となっておる」

「大きいですね。この樹を見ていると心が落ち着くような感じがします」

「そうであろう、そうであろう。原始樹には精霊王様が居る。それを感じるのであろう」

「君は異世界人なのかい」

ふいに背後から声が聞こえた。振り向けば小さな子供が一人立っていた。

「精霊王様」

四人が跪き、頭を下げる。俺も一緒の行動をとった。精霊王様と聞こえたからだ。

「いいよ、いいよ、堅苦しい挨拶は抜きだよ。いつも言っているよね。で、君が異世界人君でいいのかな」

「はい、私が地球から来た高達達也です」

「そうか、君が異世界から来た高達達也君か。僕がこの樹を造った精霊だよ。皆は精霊王とか呼ぶけど、ちょっと長生きしている精霊かな。よろしく」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

「固いね、もっと普通に接してほしいな。君は葉が欲しいと言っていたね。これくらいでいいかな」

精霊王が言うと同時に原始樹から葉が落ちてくる。地に落ちる前に風が吹き、葉が舞い俺の前に集まった。葉が必要だと何故知っているのだろうか。

「不思議そうな顔をしているね。彼等の家は僕の領域でもあるから、話声も聞けるよ。あっ、高達達也君は本当に女神様の加護を二つも貰っているね。高達達也君にはいろいろと聞いてほしいな」

「精霊王様、タツヤと呼んで下さい。聞いてほしいこととは、何でしょうか」

「固いけどいいか。タツヤ君は世界の始まりを知っているかい」

「はい、精霊と人型、龍種をお造りになったと聞いております」

「そう、最初にこの樹を育てた精霊が僕。この樹を見て水が好きな精霊は泉を造り、土が好きな精霊が栄養一杯の土地にした。風を好きな精霊は心地よい風を送ってくれた。皆が力を合わせたから、この樹は立派な樹に成長できたのさ。でも、火を好きな精霊が樹を焦がしちゃって、皆に怒られて出て行ったのが残念だけどね」

原始樹の生い立ちを教えてくれる。火の好きな精霊が出て行った、ここには居ないってことだな。

「タツヤ殿、ここには水の大精霊様と土の大精霊様、風の大精霊様が住まわれておる。火の大精霊様はお出かけ中、ですな」

タロルゾさんが精霊王様に同意を得るように視線を送る。大精霊様は笑いながら頷いていた。

「タツヤ君には見えないけど、皆、隠れながらこっちを見ているよ。本当に人見知りな精霊たちで困ってしまうよね」

そう言って周囲を見ながら、また笑っていた。笑顔の絶えない精霊王様だと思う。

「君が異世界から来たのも何かの縁だと思う。少しだけ世界の話、人間の話をしてもいいかな」

俺が頷くと、精霊王様が人間について教えてくれた。

創造神様が人間に感情を持たせたことで、妬みや憎しみ、恨みといった負の感情もうまれてしまった。

それらが瘴気となり、この世界に漂い始めている。それが要因で人間が作る作物に凶作の年が多くなり、干ばつも頻繁に起こるようになった。

そんな時、人間の国からエルフの森に一人の王子が尋ねて来たのが百年ほど前の事。王子は大地の異変に気付き、エルフに知恵を借りに来たと言った。

四賢人が話を聞き、精霊王様に判断を仰いだ。そこで原始樹の種を人間に渡すことを提案されたのだった。

原始樹の種を植え、育てていけば精霊が生まれる樹を成りうるのだ。精霊が多く住まえば、土も水も風も豊かとなる。そう精霊王様は考えたのだ。

受け取った王子は他国へも種を提供した。三十個の種を一国に十個ずつ配ったのだ。

受け取った国は十のうち七個を育てることに成功した。

一国は全てが育たなかった。残りの一国は種を大切に今でも保管している。

成功させたのはサリムガンダ帝国、失敗したのはブラッドリッテ王国、保管しているのがミュツザハルフ皇国だった。

精霊が増えたことで、サリムガンダ帝国は穀物が豊かに育ち、畜産も盛んな国となった。しかし、枯らしてしまったブラッドリッテ王国は帝国を逆恨みし、エルフを魔族と罵倒し憎んでいる。

皇国は何とか自給自足のできる国であったが、ここ数十年は厳しい状態である。種を使うか他から奪う事になるだろうと精霊王様は笑っていた。

獣人達も瘴気の影響を受け、力のある種族が力を使い始めていると嘆いていた。

負の感情を集めた瘴気、これが無くならない限り、人間も獣人もエルフやドワーフ、皆が感情のまま生きるようになってしまう。それを精霊王様は嘆いているのだ。

「僕にできることは何も無いけどね。エルフ達やタツヤ君にも無いよ。でも、覚えておいてほしい。どのような形になるのか、創造も出来ないが瘴気は必ず顕現するよ。それは神、邪神かもしれない。その時は、ここに来るといいよ。僕達も抗ってみるからね」

最後は悲しそうな笑顔で精霊王様は消えてしまった。


四賢人にとっても衝撃的な話のようで、全員がその場から動けずにいる。

俺は目の前に積まれた原始樹の葉を収納し、原始樹を見上げていた。


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