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獣人の村と外壁工事2

 三か所目の村は猫人族の村だった。

 ここは一度訪れたことのある、アリエッサが住む村だ。

 「やっと来たのにゃ。待っていたのにゃ」

 出迎えてくれたのはアリエッサだった。どうやら兎人族の村に偵察に来ていたようで、村の入り口に待ち構えていた。

 「今日は族長である父上を紹介するにゃ」

 案内されたのは前回と同じ家だ。

 「初めまして、族長のスタリームです」

 少し険しい顔をしての登場だ。

 「カレーナさんから話は伺っています。今回はカレーナさんが費用を負担するとのことですが、追加の費用とか必要になりませんか?」

 最初の話では、アリエッサが奴隷となることで報酬としていたな。それを危惧しているのだろう。

 「大丈夫ですよ。カレーナとも約束したので、娘さんが奴隷となることはありません」

 奴隷は不要なので、しっかりと説明する。

 スタリームは厳しい顔のままだが、少し余裕が生まれたようにも感じた。

 明日から工事開始を告げ、村の外に出て寝る事にした。野営になるのだろうか?家の中で寛いでいても、魔物に襲われることはない。子蜘蛛達が周囲の警戒と食事を兼ねて、魔物を狩っているのだ。狩りすぎないよう注意はしている。今回は三十匹も居るので、満腹になるまで食べられると、魔物が激減してしまうかもしれない。いろいろと気苦労が絶えないなと自分で思ったのだった。

 翌日から工事を開始する。今までと変わらずだが、ここの住民は千人程で、兎人族より少し小さく、五キロ四方を囲う事になった。

 そうは言っても大きいのだが。次の猫人族は三千人程の村だと聞いた。そっちは最大の七キロ程度だろうか。

 そんな事も考えながら、三日間で工事を終えることとなった。

 「ご苦労だったな。こんな短時間で作れるとは、信じられないようなことだが、事実なのだな。これなら奴隷になっても・・・」

 最後のほうは小声だったが、聞こえないし聞かない。その夜はいつもの宴会で歓迎してくれた。

 どこの村も同じで、人族への警戒が強いということだ。工事前は遠巻きに見ているが、完成したら歓迎してくれる。過去の歴史を見れば当然の結果だろうと思う。この外壁で獣人達も安全になってくれれば、そう思っていた。



 

 その頃、皇国ではタツヤの不在と獣人の村が話題となっていた。ある特定の人物だけであったが。

 「ツルブーム、異人が獣人の村で活動しているのは本当か?」

 「はい、各村に外壁を設置しております。外側には堀を造り、この皇城なみに強固になっているようです」

 「皇城と同じような外壁を数日間で作り上げるとは、やはり異世界の人間は理解できんな」

 「そうですね。一日で十キロ以上の外壁を作るのですから、皇国全土を囲うような外壁も堀が無ければ、数年で作るかもしれません」

 「欲しい力だが、彼は何か企んでいる様子はあるのか」

 「いえ、各村を廻って外壁を作っているだけのようです。ただ、密偵が監視していると必ず蜘蛛が傍で見張っているようです」

 「・・・異人に我々の監視は筒抜けなのだな。距離を開けても無意味なのだろう。だが、監視は外せない。慎重に行動するよう伝えろ」

 「獣人への対応はいかがいたしますか」

 「今までと同じだ。獣人から申し出があれば、奴隷契約も許していく。無理強いは決して許さない。異人のこともある、貴族たちへは再度の通達をだしておけ」

 「理由は?」

 「良きに計らっておけ」

 ツルブームは小さく頭を振った。この王は面倒ごとを押し付けてくるのだ。何と通達するか、尤もらしい理由を考えていた。

 そんなことを知らない貴族も居るのだった。皇都の隣に位置するアムナール伯爵領、当主であるファルバッド・ヒュナ・アムナールが極秘のうちに、獣人の村へ兵を進めようとしていた。

 今回は兎人族の村へ向かい、女子供を攫ってくる予定だ。奴隷として慰み者や労働奴隷として売られていく。売り先は帝国や王国だが、経緯を説明する事ができないよう奴隷契約されているのだ。

 帝国では犯罪奴隷と借金奴隷は認めているが、強制的な奴隷は認めていない。だが、獣人の村を襲い攫ってくる者が居ることも皇城は掴んでいる。

 特に有力な貴族が行っている場合が多く、私兵を使わず、傭兵や元冒険者を使っているので、決定的な証拠を掴ませないのだった。

 今回のアムナール伯爵も傭兵と元冒険者を集め、大規模な誘拐を計画していた。伯爵領を立ったのはタツヤがアリエッサの村で工事が終わった日であった。




 無事にアリエッサの村での工事も終り、次の猫人族の村へと向かっていた。

 「本当に奴隷にならないでもいいのかにゃ」

 「奴隷はいらないな。従業員もカレーナが居るから増やす予定もないよ」

 昨晩、スタリームからアリエッサを雇わないかと進められていたのだ。外壁の工事を見て、気が変わったようだ。俺に着いていけば暮らしに困る事はないだろうと。

 人族と獣人での結婚もあるようだが、元の世界で俺は四十九歳、アリエッサのような子供には欲情しないのだよ。もちろんカレーナも。そんなことは言えないので、

 「何かあれば相談にはのるからね」

 とはぐらかしておいた。

 そんな話をしながら、次の村まで案内してもらった。ここで帰るかと思っていたアリエッサだが、猫人族の村が終るまで付き合うそうだ。

 村での説明はアリエッサに任せ、ガーダ達に測量を始めてもらう。ここは予定通り七キロ四方を囲うのだ。

 族長はマルゼーダ、スタリームより若い族長だ。

 「カレーナさんだけの世話になりたくはないのですが、他に対価も見当たりませんので、今回は好意に甘えることにしました」

 そう言って頭を下げるので、

 「それなら、兎人族の村は家が不足しているので、建てる手伝いをしてくれませんか」

 犬人族と同じような家に住んでいるので、家の建築を頼んでみた。

 「それなら恩を返せます。喜んで手伝わせていただきます」

 兎人族の第二村と第三村は伐採した木を置いてきているので、彼等が手伝ってくれえれば、家の問題は片付く。この村には第二村をお願いして、第三村は次の猫人族に頼むとしよう。

 「私の村だけ対価が違うのにゃ。ここは私が奴隷になって払うのにゃ」

 「そこは追々考えるからな。奴隷も従業員もいらない」

 確かに彼女の村はカレーナに甘えたままになっている。何か考えないといけないようだ。

 この村は五日間かけて工事を行った。

 毎度の晩餐では村人から娘たちを押し付けられそうになった。アリエッサが頑張って防いでくれたので助かったのだ。これを見越して残ってくれたようだ。

 「兎人族の村では何も無かったのだけどね」

 「それはカレーナさんが居るからなのにゃ。同族として、彼女を差し置いて近づけないのにゃ。けれど、猫人族は違うのにゃ」

 次の村が思いやられるな。だが、その後は犬人族の村だ。あと三村で予定の工事も終わる。店に戻って皿でも作ろう。

 三番目の猫人族の村は問題も無く完了したが、犬人族の村で問題が発生した。

 最初の犬人族は兎人族へ家の建築を報酬としたのだが、ここはカレーナが費用を負担する。それが気に入らないようだった。

 「我らも何かできないだろうか」

 村長からの申し出だが、返答に困っていた。

 「俺からは何とも言えないので、工事が終わったらカレーナの村に一緒に行って、何か提案してみるのがいいと思うけど」

 村長が毎晩訪ねてきて、相談されたので寝不足になりそうだった。何かと問われても俺には回答が見つからないのだ。同伴として村の娘も連れてくるのだ。こんな事なら猫人族に家を頼まなければよかったと後悔していた。

 寝不足の中、五日間で工事を終え、カレーナの村へと戻ることになった。村での出来事など何も知らずに。



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