獣人の村と外壁工事
開けてある門の先で組手をする人。壁の上で張り込みをする人が居た。そこから村へと進む道には材木を持って走っている人。
何故か壁の内側には走り廻る獣人が沢山いた。カレーナが俺を見つけて走ってきた。
「タツヤ様、お疲れ様でした。猫人族との話し合いはいかがでしたか」
「族長の娘が奴隷になるのは中止になった。そのほうが問題も起きないのでいいのだが、別の方法を考えると言っていたよ。五日後にはドワーフ国に帰ると告げているので、その日までに返事がなければ、外壁を作る作業は無くなったと考えていいかな」
「そうですか。私のお金でお願いしてもよろしいでしょうか」
「うーーん、どうしようか、カレーナは獣人族全ての村を囲いたのかな?」
「可能であれば、しかし、人族の手助けを好まない種族も居るので、全てではないですね」
「その種族を除くと、どれくらいの村があるのかな?」
「そうですね、兎人族は他に二村、犬人族は二村、猫人族が三村ですかね。狼人族と虎人族、熊人族あたりは武勇を誇っているので、人族の協力は断りそうですね。微妙なのが狐人族でしょうか」
「結構な数の種族と村がありそうだな。カレーナは兎人族、猫人族、犬人族の村を対応すれば、納得できそうか?」
「はい、狐人族もできれば入れたいです。確か二村あったと思います」
「そうなると七村か。カレーナが支払うと言うなら外壁を作ろう。交渉は任せたよ」
「ありがとうございます。明日から兎人族、犬人族、猫人族の村に行ってきます。二日間ほどかかると思います」
「移動は一人でも大丈夫なのか?」
「そうですね、訓練も兼ねて二人ほど連れて行きます」
翌日、カレーナは兎人族の二人と一緒に村を廻る事になった。俺は村で留守番だ。その間に土を仕入れに湿地へと走った。全力で走れば一日で到着できると判断した。
確かに一日で着いたが、食事も休憩も無であったため、非常に疲れた。だが、暗くても土の収納は可能なので、寝る前に必要と思われる量を収納していった。
仰向けに寝転がりながら、星空を見ていた。日本では見ることのできない夜空だな、と日本を思い出していた。ふと女神様の事を思い出し、収納から女神像を取り出し、拝んでいた。
「高達さん、もう少し神に祈りを捧げてもいいのではないでしょうか。本当に嫌われているのかと悩みましたよ」
と言ったのはアーステラ様だ。
「久しぶりやな、タツヤ。元気そうでなによりや。皇国では面白いことしてはったな。ああいった時は呼んでや、すぐに駆け付けるで。
ほんで、獣人に肩入れするんか?大変やで、ほんま。いろんな柵があんねん、気つけや」
相変わらず怪しさ満点のスグンターナ様だな。似非関西弁、どこで覚えたか聞きたいな。
「スグンターナ、私の話が終っていませんよ!高達さん、お元気そうですね。
獣人の村の件は私も見ていたので知っています。困難なこともあるかと思いますが、悩んだら祈りを捧げて下さい。多少のアドバイスはできると思いますので」
「そやで、力になったるさかい、たまには祈ってや」
「ありがとうございます。獣人の村はカレーナの希望なので手伝いしますが、深くは関わらないと思いますよ」
そう言って笑うと二人は頷きながら消えて行った。
そこで目を開けると空が白み始めていた。そろそろ夜明けなのだろう。起き上がり、大きく伸びをした。気持ちのいい朝だった。昨晩、女神様と会ったからだろうか、体調も良い。
「さて、戻るか」
一人で気合を入れ、兎人族の村へと走り出す。
帰りはガーダが道案内だ。村の方向が判るらしく、森の中を走っている。途中で出てくる魔物から逃げるように走っていく。俺の走りに付いてこられないのだ。ふふん、と得意げに鼻を鳴らしていた。
『もう少し右』
念話で指示された方向に向かうだけだったが、最短距離だったようで、暗くなる前に村に到着した。
カレーナは戻っていなかった。
彼女のお金で外壁を作るのは、施しを受けることと同じと考えてもいいだろう。それを無条件で受け入れるとは考えられない。説得は難航しているのだろう。
逆にカレーナの申し出に疑問を抱かず、これ幸いと受け入れる村があれば、俺が断ってもいいと考えていた。
その日、カレーナは戻ってこなかったが、翌日も姿を確認できなかったのだ。
カレーナは同族である兎人族の村で説明を行っていた。
「外壁を作れば、魔物に襲われることも無くなります。畑の収穫量も増え、子供達を手放すことも無くなるのですよ。費用は私が負担するのに、何を戸惑っているのですか」
「カレーナさんの話は理解しているよ。有難い話だと思う。しかし、我々に黙って施しを受けろと言われても、解りましたと安易に返答もできないよ。その人族も信用できるのかい?今までの人族との関わりを考えても、素直には頷けないよ」
カレーナの説得は予想通り難航していたのだ。彼女は村人達が喜んでくれると思っていた。だが、結果は違い、外壁は不要と言われた。いや、不要とは言われず、カレーナが資金を出す事に難色を示していたのだ。
「タツヤ様には私が外壁の工事をお願いしています。費用は私が負担するので、何も心配しないで大丈夫です」
「そのお金は君の為に使うべきだと。君は足と耳を失っているのだから、将来のことを考えて残すべきではないのかな?」
カレーナは将来のことも考えている。このままタツヤの傍に居られるとも思っていない。いつか村に戻りたいとも思っていた。
「私は村に戻りたいとは思っています。その時がきたら、今回使った費用の代わりに仕事を頂くことはできませんか。将来の自分に使うと思って下さい」
「・・・そこまで言うなら、今回はカレーナさんの言葉に甘えさせてもらうよ。将来、村長が変わっても外壁の恩返しが行われるよう、しっかりと伝えていくからね」
こうして一村ずつ説得して回っていたのだ。兎人族、猫人族、犬人族の村を説得するのに、三日間掛かっていた。
四日目の昼にはタツヤと合流し、各村への説明が終ったことを告げていた。
「最初は兎人族の村、二村からお願いします。その後、猫人族と犬人族の村々をお願いします。私は自分の村で家の建築の手伝いをしています。次の村への案内は、村の住民にお願いしています」
タツヤの作業が開始されたのであった。
最初の兎人族の村に着いたが、カレーナの村と同じで家が質素だった。
(家は頼まないのかな?)
俺が思った感想だ。そして、森の奥になったので、住民の数も増えており、村は畑も含め三キロ四方程度の大きさであった。
(土、足りるかな)
湿地の土は成分を調整するとセラミックのように固くなる。少し脆いが普通の剣や槍では傷もつかないレンガが作れる。今回の村には六キロ四方は必要だろう。三千人は居るような村だった。
早々にガータと子蜘蛛達に測量をお願いする。俺の周囲にいた子蜘蛛がガータの指示で散っていった。
そのまま村の中へと進み、一番大きな家を目指す。多分、そこが村長か族長の家だと検討をつけていた。
「すいません、外壁の工事にきた者ですが、工事を始めてもよろしいでしょうか」
布越しに声を掛ける。少しして声が返ってきた。
「お待たせしました。私が村長のタムザックです。貴方がカレーナさんの言っていたタツヤさんでしょうか」
「はい、タツヤ・コウダテと言います。よろしくお願いします。早々ですが、外壁の工事を始めてもよろしいでしょうか」
「構いませんが、どれくらいの範囲になるのでしょうか」
そこから、六キロ四方を囲う事を説明する。村を中心とした絵を地面に描き、広げる範囲を描いておく。門の場所も説明し、村長の意見を取り入れて場所を決めた。一辺に二か所だ。そして、中の森は依頼があれば伐採すると伝えると
「森ですか・・・家の周辺の畑を広げていただけますか?収穫物が少し足りていないので、広げていただけると助かります」
「構いませんよ。外壁工事に二日間は掛かるので、その間に位置を決めて下さい」
人口の割に畑が少ないと思ったが、やはり足りないようだ。今の倍程度も開墾すれば問題ないだろう。 使わない部分があっても、放置すれば問題ない。
結局、三日掛けて外壁と堀を完成させた。一辺六キロは長く、堀の水も大量に必要だった。早めに魔道具を用意しないと、俺が森から出られなくなりそうだ。
内部は四キロ四方になるよう木々の伐採と整地をおこなった。これにはガータと子蜘蛛の手伝いをお願いしたのだが、村人達が蜘蛛を恐れて近づいてこなかった。村長曰く、ガーダは恐ろしく強い魔物だそうだ。怖くないのに。
伐採した木々は村のはずれに置いた。家や柵を作るのに使いたいので、譲ってくれと言われたからだ。収納に入れておくだけなので、勿論全てを出していた。
「ところで、家はこのままですか」
「建て替えしたいですが、我々には技術がありません。当面はこのままでしょうね」
カレーナの村は犬人族と交渉して、家の建て替えができたが、ここは難しいようだ。犬人族に提供できるものがあれば交渉も可能だろう。だが、ここには何も無いようだし、俺が口出しするのも憚られる。
「沢山の木を切ると、エルフに怒られる」
そんな声が聞こえたのは、完成祝いの宴会の場だった。気になったので村長に確認すると
「彼らは森の守り人ですからね。人族が森を切り開き、街や畑を広げるのも嫌な様子です。我々の村にも年に一度は訪れて、森の様子を見ていますよ。それに木々の元気がなくなると、精霊も居なくなると言われています。その辺も見ているかもしれませんね」
おおっ、精霊が居るのか。この世界に来て初めて精霊の話を聞いた。ちょっと感動。一度は見てみたい存在だな。
「エルフ族は精霊魔法の使い手なので、精霊を大切にしています。森や川を大切に扱うのも、精霊の為と言われていますね」
うむ、一度はエルフの森に行くべきであろう。そう思ったら、外壁工事を速く終わらせたくなってきた。
「明日の早朝、次の村へ案内していただけますか」
こうして、第二兎人族村の工事は終わった。カレーナの村を第一兎人族村と呼ぶことにして、ここは第二村、次を第三村と俺の中では決定したのだ。
第三兎人族村へは夕方に到着した。村長の家まで案内してくれたので、問題なく話も進んだ。案内がタムザック村長だったのも影響しただろう。外壁の大きさは第二村と同じ、門も二か所で話は終わった。
ここで、見張りについて確認してみると、タムザックが難しい顔をしていた。第二村では誰も手を上げなかったらしい。それなら、男衆を当番制にするよう進言した。第一村は当番制だったはず、第二村でも可能だろう。
第三村村長のルブルザークは当番制で進めると言っていた。だが、揉めるだろうとも言っていた。何故第一村は揉めないのか聞いてみると
「カレーナさんが提案したのなら、外壁を作った功績もあるので、住民も従いますよ」
「それなら、交代制はカレーナの提案だと伝えればいいのでは?」
「そうですね、村に戻って伝えます。それでも反対されるようなら、カレーナさんにお願いして説得してもらいますね」
カレーナの言葉なら従うのか。まあ恩を仇で返すような真似よりはいいだろうな。
第三村も四日間かけて作業を終えた。六キロ四方は結構な広さだが、畑と森の維持を考えると、ある程度の人口増加は可能だろう。
作業中に第三村の見張り問題は片付いていた。交代制の提案に異論が無かったようだ。もちろん最初にカレーナの提案であると伝えてのことだが。




