カレーナの今後と工房の今後
ドワーフ国への帰路、二日目の夕方に差し掛かっていた。
往路と同じ野営地に到着し,ガーダとカレーナの訓練を眺め、道中に聞いたカレーナの話を思い出していた。
「大金を手に入れたから働かなくとも生活できるね」
俺はカレーナの今後を考えていた。大金を手にしたのだ。自分のやりたいこともあるだろう。このまま店の従業員を続けることに抵抗もあるのではないかと思った。
「そうですね、お金は故郷の村の為に使いたいですね。兎人族の村には壁が無いので、常に魔物の襲撃に怯えています。このお金で外壁を造れれば、それに使いたいです」
詳しく聞けば、廻りは木の杭を刺した簡易な柵しかなく、畑や村人が魔物に襲われているようだ。それを解決したい、素晴らしい。
「それなら俺が大きいレンガを作って、外壁を造ろうか?代金は不要だしね」
「いえ、代金はお支払いします。余ったお金で畑の拡張もしたいですね」
代金はともかく、外壁と木々の伐採なら、カレーナとガーダ、俺達二人と一匹で作業すれば、時間も掛からずにできるな。
「ドワーフ国に戻って、少し休んだらカレーナの故郷に行ってみようか。そこで何ができるのか、考えてみようよ」
「はい、お願いします」
こうして獣人の森に行くことが決まった。
そして、カレーナは強くなるための訓練を怠らない。彼女が何を思うのか、聞きたくもあるが、彼女の故郷である村に行ってから、確認するとしよう。
「食事にしようよ」
今晩はピザにした。ピザ用の窯は陶芸で作り収納してある。どこでも簡単にピザが焼けるのだ。しかし、俺のレシピが少ない。基本は焼肉、他はうどんかピザだ。何か追加しないと食生活も飽きるだろう。
同じ頃、皇城にサルコムーナが到着していた。走竜の首筋を撫で、
「ご苦労さん」
一声掛けてから、衛兵に走竜を預け城内へと向かう。まずはカームル公爵へ報告に向かうのだった。
「苦労を掛けたな。詳細は王と共に聞く。執務室へと向かうぞ」
二人が王の元へと向かう。
「疲れただろう。明日は休んでいいぞ」
公爵から言われたサルコムーナだが、内心は休めないだろうと思っていた。報告書とか後回しにはならないだろうと。
ノックをして入室すると、中には王以外にも財務担当伯爵、外務担当公爵、軍務担当伯爵の三人が待ち構えていた。
「王、アルマブル男爵が戻りました。彼から詳細な報告をお聞き下さい」
サルコムーナはテルダム公爵領での出来事を説明していった。
テルダム伯爵は次男の愚行を知らなかったこと。そして、自身の報告から次男の廃嫡を即断したこと。
王家に献上した品の取り扱いに困惑し、長男へ家督を譲り、侯爵が更迭されるので、許しが得られないか、王家への言付けを受けたこと。
決闘前日、異世界の人物と獣人の娘がギルドを訪れ、地力で冒険者とギルド長を捕らえたこと。それに伴い、ギルド職員が多数捕まったこと。
決闘当日、騎士も侯爵次男も瞬殺だったこと。蹴り、殴り、意識の飛んだ相手を、ポーションで治す、これを幾度も繰り返したこと。
侯爵家次男シュルバッゾと騎士二名は、犯罪奴隷となること。
賠償金として、獣人の娘に白金貨三枚、異世界人に大金貨一枚を渡したこと。
最後に皿を返却しようと申し出たが、本人から王家に献上したいと申し出があり、預かっていることを説明した。
「うむ、財務長は今回の賠償金に不満はあるか」
「そうですね、獣人の娘が白金貨三枚、それに比べ異世界人へ大金貨一枚、少ないように思えますね。ですが、本人が了承しているのなら、問題はないでしょう」
「軍務長、話だけだが、彼の戦闘能力は我国の脅威となりえるか」
「一つ聞きたいのだが、騎士の強さは分かるか」
サルコムーナは聞かれるが、内務担当の彼には分らなかった。
「王城詰めの騎士であれば、冒険者のBランク以上です。地方の領都に詰める騎士でもCランク相当を考えると、二名を瞬殺、私でも無理かもしれないですね」
サルコムーナは戦闘の話を詳しく聞かれたが、タツヤの動きが見えていないので、説明ができなかった。だが、カレーナの動きは見えていたので、どのような決闘だったのか、説明をしていた。
「内務担当とはいえ、見えないほどの動きをするのか?余でも見えないのだろうか」
王が首を傾げると、軍務長がサルコムーナに突きを放ったが、彼は避けようとしていた。
「王、今の私の突きより速いと思います。近距離でもアルマブル男爵は避けようと動いた。これは見えているからです。ですが、離れた場所で、人の動きが見えないとなると、私の突きより速い。これは一個小隊以上の戦闘能力かと思います。止めるには大隊が必要となります」
「そこまでか。獣人の娘はどうだ」
「兎人族でしたか、私と同格程度と判断します。想像ですが、死なないよう手加減していたと判断します。全力なら私と同格以上かもしれないですね」
「兎人族は戦闘とは無縁の種族と聞いていたが、今回の兎人族は異常種なのか」
外務長が軍務長に確認とする。
「私が見た外観に違いはありませんでした。ですが、右足と右耳が無かったことで、補う為の何かがあるかもしれませんが」
装備は飛竜の素材が使われていた。これでは説明のつかない事実だったのだ。
「異世界人が関わっているのか」
王が呟くと、外務長から提案があった。
「ドワーフ国内の密偵に、異世界人の行動を見張らせるのはいかがでしょうか。場合によっては増員と、兎人族の村へも人を送り、他の兎人族に変化がないか、当分の間、見守る必要を感じます」
「うむ、軍務長、対応を頼む。ドワーフ国には正式な書状にて、釈明が必要であろうな。今後、このようなことが起きないよう、各貴族家に通達を出せ。異世界人のことは伏せるように。最後は異世界人への対応か。皇城に招き、友好の証として晩餐会でも開くか」
翌日、皇国からドワーフ国に向かい、使者が旅立った。王家の書状をドワーフ国王に届ける指名と、タツヤへの招待状を持っていた。
使者の名前はサルコムイーナ・アルマブル男爵。内務長に目を掛けてもらう、可哀そうな人物であった。
無事にドワーフ国に戻った二人。門番には
「今日は店に戻り、休むことにするよ。報告は明日、王城に出向くと伝えてもらえるかな」
門に詰めていた一人が王城へと向かった。今日はまったりしたい、全ては明日ときめていた。
店を見ると、扉の上には子蜘蛛が一匹、留守番をしているようだ。
鍵を開け、中に入り椅子に座る。
「今回の旅、カレーナは戦闘と訓練で終わったね。俺は大金貨一枚も貰ったし、いい旅だったね」
「私も故郷の村に恩返しができるので、いい旅でした。この旅では、義足を着けていることを忘れるほど動けたので、恨みも無くなりました。耳は寂しいですが」
確かに彼女の戦闘能力は足を失う前より上がった。だが、これでいいのだろうか、疑問も残るが、俺にできることは少ない。この先も見守るだけだ。
その晩は屋台で買った串焼きとスープで夕食を摂った。食後の話で、
「この店の名前を決めませんか」
カレーナに言われ、店名を二人で考える。ドワーフ国とカレーナを合わせてカレーフ、無いな。名前のセンスが皆無だ。
「私はタツヤ様の名前を使ってほしいので、タツヤ工房とか?」
むー、良い名前が浮かばない。
「異世界だから、ディファレント工房でいこう」
この名前を召喚された高校生たちが見た時、地球から来た人間だと思ってくれると信じよう。他に思いつかない。
(彼らはどこに居るのだろうか)
今まで忘れていたが、思い出すと会いたくなるのだ。同郷の仲間は彼ら四人だけ、会いたいのは当然だ。
カレーナと工房の今後を話した。作る物が無いのだ。当分は土の販売、食器の販売で食い繋ぐ。
その前にカレーナの故郷に行くので、本格始動は後回しとした。彼女は恐縮していたが、当然の対応だ。だが、土が心許ないので、湿地へと仕入れに行くことにした。今回は二人で向かう。俺が身体強化を使わない状態なら、彼女の身体能力は俺より上だ。今なら一緒に行けるだろう。四日後の出発を決めて就寝したのだった。
タツヤ達が湿地に向かった当日、昼前に王城に入った人物がいた。サルコムーナ男爵である。皇王からの書状を持って訪れていた。
「ドワーフ国王、拝謁の時間をいただき、有難うございます。この度件、我が皇王より書状を授かっております」
宰相が受け取り、国王に渡す。
一読した国王が
「此度の件、貴国の対応に感謝する。今後、同様な問題が起きぬよう、両国で方針を一致させる、その件についても異論はない。内務長、皇国の担当者と詳細の検討を始めてくれ。
マームル男爵、使者としての訪問、ご苦労であった」
「王、タツヤ殿の事はいかがいたしますか」
宰相が王に問う。
「彼は我国の客人ではあるが、縛り付けることはない。アルマブル男爵の行動を妨げることもない。彼の判断の任せるとする」
「タツヤ殿は明日まで不在と聞いております。明後日であれば工房も開店していると思います」
宰相からの言葉を聞いたツルブームは、明日一日を休養日と決めたのだった。
だが、彼に会えたのは二十日以上も後のことだった。
「カレーナ、土も手に入ったし、ドワーフ国に戻らず、このまま兎人族の村にいかないか?」
「私は大丈夫ですが、戻るのは今日だと、宰相様に連絡していたのではありませんか」
「まあ、大丈夫だろう。今は揉め事も無いし。工房も子蜘蛛達が守っているから、侵入者も無いと思うよ」
こうして二人は獣人の森へと向かったのだった。
ここで第一章が完結となります。
第二章は獣人の森での事になるのですが、更新まで間が開くかもしれません。