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皇国での出来事2

 決闘当日、広場には侯爵家の面々と皇都から来た文官数人がテント内に座っていた。

 ドワーフ国からの書状は侯爵家と皇家に出されており、内容が異なっていたのだ。当時の様子を文官の一人、サルコムーナは思い出していた。

 書状は何の前触れもなく、皇城の衛兵に届いたのだ。通常であれば国の書状が届く前に、文官同士でのやり取りがあるのだ。それが無く届いた書状、嫌な予感しかなかった。

 ドワーフ国の封がなされた書状、これを開けることは許されない。

 サルコムーナからツルブーム侯爵へと書状が渡され、王の執務室へと向かっていった。


 「ドワーフ国から書状が届きました。内容は解りません」

 ツルブームが王に告げる。

 「事前の連絡は無かったのか?初めてのことだ、何が書いてあるのか。怖いな」

 ミルナンデス・ミュツザハルフ皇王が封印を剥がし、内容を確認する。眉間に皺を寄せている表情からも厄介事だと理解するツルブーム公爵。

 「読んでみろ。ただし他言無用だ」

 テルダム侯爵家の次男がドワーフ国での振舞いに対する抗議文から始まっていた。だが、相手は異人、異世界からの来た人物と書いてあり、ツルブームは動揺を隠せなかった。王を見ると眉間の皺が先ほどより増えているようだ。

 書状には詳細が掛かれており、異人が営もうとドワーフ国が用意した店、そこでの出来事もあった。店が襲撃され、公爵家の次男が望んだ品が何者かに奪われた。侯爵家次男の騒動から二日後のことだ。ドワーフ国として見過ごせないは理解できた。

 これだけでも黒なのに、前日に侯爵家次男より王家に献上された品、これが書状に掛かれた品とそっくりなのだ。いや、同じ品物なのは間違いないだろう。どこに龍種の素材を使った皿が存在すると言うのか、問い詰めたい。ご丁寧にドワーフ国のダンジョンで発見と尤もらしい言葉も添えられていたのだ。王の皺が増える案件だった。

 最後に異人の店で働く従業員に剣を抜いた、納得できないので決闘を申し込むとあったのも驚愕だった。通常であれば貴族に蔑まれた獣人が申し立てなど出来ないのだ。だが、今回は違う。申し出を却下すればドワーフ国は皇国との取引を中止すると脅してきたのだった。

 ドワーフ国はエルフ族と取引のある唯一の国だ。ドワーフ国は魔石を買い集め、エルフ族に販売する。エルフ族は魔道具を作り、ドワーフ国に売り、魔石以外にも穀物や鉄製品を購入している。ドワーフ国から魔道具が皇国に入ってこない、それを意味する取引の中止は恐喝とも言えた。

 過去に騒動もあったが、ここまで強硬な姿勢の書簡をツルブームは見たことがない。

 「王よ。決闘を認めるのですか」

 最後の紙に目を通す前に聞いてみたが

 「最後まで読んでみろ」

 最後まで読み終わったツルブームは更に驚愕するのだった。

 皿に使われた龍種の素材、それは異人自らが龍に挑み、手に入れたと書かれている。しかも冒険者として装備する物、それにも龍の素材が使われているとも書いてある。ドワーフ国王が確認している事も併せて書いてあった。

 王を見ると

 「ドワーフ国王が嘘を言うとも思えない。異世界からの人物は龍種と戦える能力がある、間違いのない事実なのだろう。ツルブーム、決闘を断った場合、かの人物の行動は予想できるか」

 「はい、間違いなく単独でテルダム侯爵領に向かうかと」

 「そうだな、無傷で済むと思うか」

 「いえ、侯爵領は無事でも侯爵家は無くなるかもしれません」

 「そうだな、龍の話を信じるなら、決闘を認めるしかないだろう。テルダムのところにも書状は届いているはずだ。王家として決闘するよう通達しろ」

 「御意」

 「あとは皿か。どうしたものかな」


 今も胃が痛いのだが、あの日から胃痛が始まったな、そう苦笑するサルコムーナだった。

 彼は皿を王から預かり、テルダム領へと来たのだ。決闘が終ったら侯爵家に返却するよう指示されて。

 『ツルブーム、決闘のあとは良きに計らえ』

 施政者にとって一番都合のいい言葉を貰い、ここへと向かったのだった。

 (異人なる人物が納得してくれるとありがたいが)

 これが本音だった。

 侯爵家以外にも冒険者のことも対応しなくてはならず、部下の文官二人を巻き込んでの旅路だった。




 「獣人一人に三人で決闘するなど、テルダム家の恥になります。私一人での決闘を許していただけませんか、父上」

 シュルバッゾはドワーフ国からの書状は無視していた。父であるヘルダーソン・アムス・テルダム侯爵は悩んでいた。ドワーフ国からの書状が直接届いたのだ。何か裏があるはずだと。

 書状には次男であるシュルバッゾが、ドワーフ国内で許されない振舞いをした。相手の獣人と護衛騎士二名にシュルバッゾを加えた三名に決闘を申し込む、そう書いてあったが、随分前に持ち帰った皿、これを王家に献上しているのだ。そこには何らかの騒動があったのだろう。だが、地方とはいえ侯爵でもある領主の次男、そこに決闘を申し込むなど前代未聞。裏があるのでは、そう疑うのも道理である。

 ヘルダーソンが悩んでいる間に王家から使者が到着した。

 『決闘を受けよ』

 王が自ら発した言葉として伝えられた。

 信頼のできる私兵をツルブーム・フラム・カームル公爵の元へと向かわせた。事の真相を教えてほしいと書簡を持たせたのだ。

 決闘の三日前にサルコムーナ・アルマブル男爵を向かわせる。彼に確認するよう返信があった。




 アルマブル男爵から聞いた内容に頭を抱えたのが三日前だ。だが、愚息は一対三の決闘に納得せず、当日となる今日も騒いでいた。

 (廃嫡だろうな)

 シュルバッゾの言動と行動を見て、ヘルダーソンはため息をついた。次男で侯爵家を継げないからと、甘やかした自分を悔やんでいるのだった。

 



 広場に向かい、カレーナと二人、ゆっくりと歩いていく。

 カレーナは飛竜の装備に見を固め、俺は古赤龍の装備だ。外からは解らないように、安物の外套を羽織っている。

 「三対一で大丈夫か」

 少し心配になり、カレーナに確認すると

 「ガーダさんより強いと負けると思いますが、そんなことは無いと思いますよ」

 そう言って笑顔を向けてきた。そうだな、彼女を信じることにしよう。

 広場に着くと正面にテントが見えた。侯爵家関係者が控えているようだ。

 こちらを睨んでいる三人の男も見える。

 「こっちを睨んでいる三人の男が相手なのか」

 カレーナに確認すると、彼女の視線は三人に向いたまま、小さく頷く。あれが相手か。左右に居るのが騎士だな、槍を持ち、革鎧を着ている。

 中央でふんぞり返っているのが侯爵家の次男だろう。白い鎧はカッコいい、鎧のことだからね。

 「お前達が俺に決闘を申し込んだ者だな。書状には獣人一人とあったが、侯爵家が三対一の決闘などできない。三人用意してもらおう」

 多対一が気に入らないようだ。横の男が何か話している。説得しているのか。

 その男がこちらに向かって歩いてきた。

 「私は皇都で内務に携わるサルコムーナ・アルマブルです。侯爵家としては三対一の決闘に勝利しても、他家への示しがつかないので、同数になるようお願いできませんか」

 「いやいや、書状にも彼女一人が戦うとあったはずですが」

 「確かにありました。ですが、貴族としての沽券にかかわります。せめてお二人で戦っていただけませんか」

 カレーナを見ると、頷いていた。

 「分かりました。こちらは二人でお願いします。ですが、あちらの三人の変更は認めません」

 俺も参戦する事になってしまった。


 サルコムーナは外套の中に見えたタツヤの装備に驚いていた。彼も鑑定スキルを持っていたのだ。

 鑑定結果は確かに古赤龍と出た。あの少年が異世界人で龍を倒す人物なのだろう。それに参戦を促すなど正気とは思えないのだが、真相を知らないシュルバッゾを気の毒にも思った。



 何とか相手も納得したようで、決闘の開始を待っていた。

 「カレーナ、左右の騎士は俺が受けもつ。貴族様の対応は任せた」

 開始の掛け声と共に俺は身体強化全開で飛び出した。

左の騎士に向かい、横を走り抜けると同時に拳で殴り飛ばす。振り返り、右の騎士も同じように殴り飛ばした。この騎士はカレーナの前まで転がり、彼女の蹴りで停まった。

 「なっ!」

 シュルバッゾが何か言葉を発しようとしたが、カレーナが駆け寄り、義足で蹴り上げる。

 「うわっ!玉、潰れるぞ」

 後に吹っ飛んだ。転がっている所を後ろから再度、カレーナが蹴り上げる。俊敏な動きに俺も驚いた。後で聞いたのだが、ガーダの動きを見て、真似をしていたらしい。戦闘センス、半端ないな。

 ゴロゴロと転がる貴族様、停まったところで、カレーナがマウントを取った。顔面に数発入れると立ち上がり、

 「まだ終わりではないですよね。立ち上がって下さい」

 そう言ってポーションを振りかける。いつの間に用意したの?俺は知らないよ。

 呻き声をあげているが、立ち上がる気配はない。俺は騎士をみるが、二人の意識はあるようだ。

 「さあ、お前達も参戦しないと駄目だぞ」

 二人を貴族様の傍に放り投げる。三人は怯えた目でカレーナを見上げていた。

 その場から離れようと一人の騎士が後ろに這っていくが、カレーナが尻を蹴り飛ばす。転がった先に瞬間移動か?と思うような速さで動いた彼女は再度蹴りを入れる。

 「足は無くなって義足になってしまいましたが、蹴りの威力が上がりました。貴方方に感謝したほうがいいのですかね?」

 三人に向かって微笑むカレーナだが、怒りに満ちた目が怖いよ。

 その後も蹴り、殴り、三人が意識を失うとポーションを掛けていた。

 「これは決闘ですからね、死んでも恨まないで下さいね」

 そう言って、初めて刃物を持った。腕を振り上げようとした、その時、声が掛かった。

 「勝者、カリーナ譲!」

 その声は先ほどのアルマブル男爵であった。

 昨日のギルドでの件もあるので、ここで終わらせる事はできないよ。

 「まだ終わっていない。これは決闘だ。どちらかが死ぬまで終わらない。それとも決闘を中止する理由と権限が貴方にあるのか?」

 「昨日、ギルドでのことも報告を受けています。冒険者の証言から侯爵家次男、シュルツバッゾの罪が明白になりました。ここからは皇国の法に則り処罰を任せていただけませんか」

 そこから領主であるヘルダーソン・アムス・テルダム侯爵も交えての話が始まった。

 要約すれば、侯爵家が全面的に非を認め、謝罪する。シュツツバッゾは廃嫡し、騎士二名と共に犯罪奴隷とすること。賠償金としてカレーナに白金貨三枚。俺には大金貨一枚は支払われる。皇国及び侯爵家に対する遺恨を無くしてほしいと言われた。

 ギルドの件をどうするか、考えていると

 「領内でギルドの不正に関わっていた貴族、冒険者も捕らえて奴隷、もしくは国外追放とします。これで堪えてもらえませんか」

 全員が頭を下げていた。カレーナは俺も見ていたので、どうする?と口パクで伝えると頷いた。了解としていいのかな。

 「了解した。何か、不完全燃焼なんだけど、まあいいか」

 その場で賠償金を受け取り、宿へと向かった。

 食堂は冒険者が溢れていた。

 「「「お疲れ様」」」

 二人で中に入ると皆に挨拶された。

 そこから宴会が始まった。不正に関わった職員も捕まり、ギルドも変わると喜んでいたのだ。

 元は中年だが、このノリは好きだな。一緒になって遅くまで騒いだ。娼館に行こうと誘われたが、カレーナの冷ややかな目が怖くて断った。今のカレーナには勝てると思えない。逆らわないほうがいいだろう。




 翌朝、アルマブル男爵が尋ねてきた。抱えていたのは、奪われた皿だった。

 シュルツバッゾが跡取りの座を狙い、悪巧みをしていたことを説明され、王家に送られた皿を返してくれるとの事だった。

 「今回はいろいろと面倒を掛けたので、この皿を私からの献上品として届けていただけますか。不要なら捨てて下さい」

 困惑する男爵様に皿を押し付け、宿を出て帰路についた。

 この先、残っていても面倒ごとに巻き込まれそうな気配だったのだ。皇国内も観光したかったが、次回に持ち越しだな。




 帰りの道すがら、貰った大金の使い道を考える二人であった。


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