表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/33

義足を作ってみた。

 翌朝、王城へと向かい、カレーナと話をした。

 「俺の世界には義足、足が不自由な人が使う道具があった。そういった物はこの世界にあるかな?」

 「いえ、皆さん杖を使って歩いています」

 「そうか、この世界には無いのか。なら世界発の義足装着者だね。上手に作れるか、やってみないと分らないけど、協力してくれるかな?」

 「はい、タツヤ様のお役に立てるなら喜んで」

 「そのタツヤ様は止めない?せめて『さん』にできないかな」

 「・・・分かりました。タツヤさん」

 「足を触ることになるので、スカートではなくパンツ、いやズボンに履き替えてくれるかな?」

 「申し訳ありませんが、私服はありません。これも王城のメイドさんから借りています」

 「そうか、俺のズボンだとおおきいだろうけど、我慢して着てくれるかな」

 収納から兎革のカーゴパンツを出す。パンツって言ってから、マジなパンツ姿になったらと焦ってしまった。

 「右足は膝上まで捲り上げてね」

 部屋から一端出て着替えを待つ。宰相さんは予定があるようで、別行動となっていた。衛兵さんが独り、扉の外に居るのだが、何か話しかけられない。正面の壁を見たまま微動だにしない。衛兵の鏡のような人だな。

 部屋から声を掛けられたので中に入る。

 カレーナは右足の裾を膝上までたくし上げて待っていた。

 まずは足の雌型を作る。足を土で覆うのだが、脹脛から膝の関節に向けて細くなっているので、三分割にした。下側と上側左右に分けたのだ。

 まずは下側の肩を陶芸空間で焼き固める。足に被せて上の右、左と順序よく焼き固めた。

 これを組み合わせた状態の中に土を入れていく。上側左右を外し下側から土を抜き出せば雄型の完成だ。

 雄型、雌型ってある意味で卑猥だな。その形を表しているよな。などと考えながら雄型を焼き固めた。

 カレーナの足と見比べても遜色のない出来上がりだ。この足に義足を被せるのだが、外れないよう固定する必要がある。

 横には伸びるが縦には伸びない、そんな布があればいいのだが、無理だろうな。

 兎の革や熊の革を雄型にあてていくが、今一な感じだ。裏側を紐で縛るような形がいいかと判断した。

 柔らかく鞣した熊の革を雄型にあて、形を整えながら切っていく。だが、革が足に直接触れると靴擦れのようになるかもしれない。布が緩衝材変わりに必要だろう。

 ガーダに頼んで一ミリほどの糸を三重にして、雄型に巻き付けてもらう。この糸は物理防御に優れていて、通常であれば斬ることができないのだ。これを型に巻き付け、その上に粘着性のある糸、仕上げに糸を巻き付ければ完成だ。ガーダが器用に巻き付けていく。

 若干の伸縮性があり、そのままで脱ぎ着ができるようだ。これを緩衝材変わりにして、その上に熊革を履けば大丈夫だろう。

 革を整え、紐を通す穴を開ける。穴あけのパンチは陶芸で作った。即席なので早々に壊れるだろうが、二十か所も無いので問題無いだろう。

 裏側の糸もガーダに三ミリほどの太さで出してもらい、カレーナに履いてもらう。

 「激しく振ってくれるか。ズレたり動いたりしないかな?」

 彼女の足を動かしてもらい、感触を確認してもらう。

 「違和感はありますが、動いてしまうことはないですね」

 「そうか、上手にできて良かったよ。あとは先端部分だな。長さを合わせ、角度が触れるよう作るからね」

 素材を何にしようか考えていると、扉をノックする音が聞こえた。

 「昼食をお持ちしました」

 宰相さんが昼食を運んでくれたようだ。一緒に摂るようで、三人前だ。

 「そちらが義足なる物ですか?」

 食事を終え宰相さんに聞かれた。

 「はい、これに脚を着ければ完成です。ただ、先端部分の構造はこれから考えるのですが」

 「なるほど、これを売りに出す予定はありませんか」

 「一人一人に合わせて作るので、何とも言えないですね」

 そこから足部分の素材選定をした。一番丈夫なのは龍種の骨だろう。尾の骨があるので、使ってみることにした。

 一つが直径で三十センチ、長さ五十センチほどなので、これの形を整える。削るのはスコップだ。皮を巻き付けるように太さを調整していく。五センチ強あれば大丈夫だろう。革との接着にもガーダが協力してくれる。レンガを貼った時の接着剤だ。カレーナの足と当たらない位置に骨を接着する。

 だいたいの長さにして、カレーナに立ち上がってもらう。体重を掛けて具合を確認してもらうのだ。

 彼女は立ち上がり、部屋の中を数歩歩いている。傍目には少し長いように見えたので、長さを調整していく。

 「これなら普通に歩けるようになりそうです」

 部屋の中を歩くアレーナは嬉しそうだ。俺が見ても歩くのに違和感が無いように思えた。

 「カレーナは蹴りが得意だったよな?左足を軸に蹴りはできそうか?」

 そう言われた彼女は蹴りを放っていく。軸足を交互に変えながら、義足の感触を確かめていた。

 「ズレたりしないですね。右足を軸にしても足への負担は無いように思います」

 「そうなると長時間の使用と耐久性だけだな。先端の形は今後も改良する予定だから、希望があったら教えてほしいな」

 「分りました。今も一点あるのですが、よろしいでしょうか」

 「言ってみて」

 「片足で立った時に安定しないのです。先端が丸なのは動かす時にいいのですが、床が斜めだと厳しいかもしれません」

 「そうか、俺もそこは気になっていた。やはり先端はフレキシブルに動かないと駄目だな。後日になるが改良しよう」

 見た目は中世の映画に出てくる『義足の海賊』だからな。足に棒を着けているだけだな。先端に足首のような動きが必要になるだろう。明日、作り直してみるか。

 「少し早いですが、夕食をご用意しています。ご一緒にいかがですか?」

 宰相さんに誘われ、夕食を共にすることになった。昼から義足作りを見続けていたが、仕事は大丈夫なのだろうか。

 案内された食堂で待っているとリカルド国王とギルベルト王子、宰相さんの三人が入ってきた。席から立ち上がり一礼をすると

 「ほう、カレーナ譲が立ち上がれるのは本当なのだな。食後でいいから話せるか?」

 「ええ、大丈夫ですよ」

 五人で夕食を食べるが、話は国王の愚痴だった。自分でも義足みたいな新しい物が作ってみたいと。確かにボールペンと義足は職人にとっては開発が楽しいだろうな。先々は義手もあるしね。

 食事も終り、国王から話を切り出してきた。

 「で、今後の対応だが、どうする?」

 素直な問いだな。

 「まずは侯爵の次男でしたか、そちらは剣を抜いていたのですよね?カレーナへ剣を向ける、それは私への挑発と受け取ります。その上でカレーナ、貴方自身で対応しますか?それとも俺、もしくはドワーフ国に一任しますか?」

 「・・・私は貴族様への接客態度に落ち度があったことは認めます。ですが、剣を抜かれるようなことはしていません。できれば自分で対応したいですが、今の体では・・・」

 自分の足を見つめる彼女は今日も唇を噛みしめていた。

 「そうか、俺に一任するか?すぐにでも侯爵家に出向いてケリを着けてくるよ」

 「いえ、自分で対応したいです」

 「分った。国王陛下、四十日後にカレーナが侯爵家次男と決闘できる場を整えてもらえますか?理由は『剣を抜いた行為は雇い主への挑発でもあります。それを見過ごしては奉公が続けられません。決闘を申し込みます』でどうですかね?」

 「はん、決闘だぁ、穏やかじゃないな。だが、貴族への対応としては無理もあるが、他国の街中で剣を抜いた、その対応としては有かな。で、四十日後に勝てるのか?」

 「勝てるでしょう。俺と同じ装備があれば。剣も魔法も通じないのですから」

 「ふん、あの装備か。あれなら負けないな。宰相、段取りできるか」

 「お任せ下さい。取り仕切ってみせます」

 「よろしくお願いします」

 「で、冒険者はどうする?」

 「もちろん、その時にギルドへ乗り込みますよ、カレーナが」

 「はい、アロンと言われていた冒険者の顔は覚えています。もちろん他の二人も。忘れることはありません」

 「場合によっては俺も手伝うから。まずは義足を完成させて訓練の開始だな」

 「はい!」

 今日からカレーナは店に戻ることになった。試作の義足とはいえ歩けるのだ。店に戻りたいと自分から申し出ていた。




 「で、ギルベルト、タツヤが本気で皇国と揉めたらどうする?」

 「総隊長としては静観ですね。個人的には応援しますが」

 「だな。しばらくは好き勝手にさせておくか。で、最終的にはタツヤに着くからな」

 宰相も王子も頷いていた。




 翌日も義足造りからはじまった。王城からの帰り道でも問題は無いとカレーナは言っていた。あとは先端の加工だけだ。

 今回の骨は下側を太く、円錐型にした。革との接着部と同じ幅になるよう削ってもいる。

 これに横から穴を開け、足部分と連結させ、少しだけ角度が自在に動くようにしていく。だが、五センチの幅を囲うように造ると幅が広すぎだった。先端を更に削り、足部の幅が五センチになるよう作り直した。

 穴を通すピンが問題だった。穴はスコップ付属の部品で対応できたが、ピンを丸く作り、可動部として使うのが難しかったのだ。

 ピンの製作にもガーダが活躍してくれた。細目のピンに粘着性の糸を巻き付け、削った龍の骨を塗して太さを整えたのだ。ガーダが穴とピン、骨の粉をみて糸の太さを調整してくれた。蜘蛛ってスゲー!

 ピンを入れた後は両端を接着して完成。

 昨日と同じ要領で革を切り出し、長さを整え、仮付けしてカリーナに履いてもらう。足首の動きを大きくしたいとのことで、先端を加工し長さを合わせて完成だ。

 ピンに糸を巻いたのが良かった、足を上げてもカタカタと動かない。ズボンと靴を履けば見た目にも解らないだろう。

 「ありがとうございます」

 と涙目で言われたが『当然のことをしたまでよ』と言っておいた。一度言ってみたかったのだ、こういうセリフ。

 さあ、彼女は明日からは特訓の始まりだ。

 しかし、三番隊の訓練に参加させてもらうのは有難いな。俺の戦闘経験、対人は無く魔物専門、特に龍と竜だからね。

 俺も参加させてもらうことにしよう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ